第十二話「後日談」
あっけないものだった。
先日の災厄種との戦いを思い出し、自宅で独りそう思う。
実のところ、僕は少し期待と、興味があったのだ。
世間で人気の冒険者……その彼らが、等しく恐れを抱く存在。
それが災厄種だと知っていたから。
前のきりえす救出劇のときは位階指定も低いし、まぁあんなものなのだろうと思った。
きっと位階指定SとかSSとか、アンノウンとかまでいったらもの凄い絶対強者として存在を示すのではないかと。
まるで違った。
今回の執行対象……六腕悪魔の災厄種は位階指定SSらしい。
冒険者では到底敵わない存在だというけれど、僕にはきりえす救出劇のときの災厄種となにが違うのかわからなかった。
いや、それは僕があの災厄種の魔法を突破できる力を持っているからだと理解はしている。
だが一番わからないのはその魔法についてだ。
あの災厄種、独自の魔法を持っているはずなのにやったことは意味のない光線を撃ち続けるだけ。
ギルドの跡地を見れば確かに強力なのだろうとはわかるが、僕に対して通じないなら他の力を行使するのが魔法使いの在り方では?
六腕悪魔の災厄種がどんな魔法を持っていたか知らないが、まさか光線を撃つだけが力ではなかろうし。
僕が気付かないだけでなにかされていた……ということは十分あり得るのだが、体感として僕はあの災厄種も他の執行対象も、総じて〝同じ〟だと思えてしまった。
『千鎖』や『風神』、『女王』の働きを見て僕ももっと冒険者を知るべきかと思ったのだが、なかなか先は長そうである。
さて、僕の感想なんてどうでもいいんだ。
あの後の話……後日談をしよう。
まず事の発端となったあの悪意のアイテム、あれについての対処が冒険者ギルド、延いては魔術師の最優先事項の一つに挙げられた。
当然といえば当然か。
あれがあの一つしか存在しないならともかく、それを確定させるだけの根拠もないのに放置などできる問題ではないだろう。
ダンジョンから災厄種を人為的に呼び出すことが可能なあのアイテムは、犯罪組織などの手に渡ろうものならどんな最低な結末が待っているかわからない。
しかも今回見つかった【魔王降臨の宝珠】は劣化品で、完全版は魔王とやらを呼び出すことができるときた。
六腕悪魔の災厄種でさえ被害は甚大なのに、更にその上と思われる魔王とやらを呼び出されて堪るかと、今魔術師はギルド主体で鑑定魔術の力量向上、人材育成に力を入れている。
話では国内にある冒険者育成学園で鑑定魔術科という枠組みも設立されたとかなんとか。
選ばれた冒険者たちの卵、是非とも頑張って欲しいところだ。
だが頑張って欲しいというのはなにも鑑定魔術に限った話ではない。
今回の災厄侵攻では少なくない数の冒険者が命を落とした。
今あのギルドは訪れる冒険者もおらず、そも建物自体が消滅しているのだから再建にも時間が掛かる。
ギルドが崩壊したあの惨状を見ればこの結末は予想できた。
だが冒険者にしても命を賭けてダンジョンに潜る者達なのだから、不本意ではあろうが覚悟するべき展開でもあったのだ。
だが事実として今回の一件を受けて、冒険者を引退する者達は続出した。
災厄種がいるといっても早々遭遇することもなく、安全に金を稼げる場所だとでも思っていたのだろう。
そういう考えで生き残った者達は当然命を賭ける心構えなどなく、その道を退いたということだ。
そういう背景もあって今冒険者育成学園には期待の目が向けられている。
あそこの学園生たちは厳しい試験を乗り越えたというだけあって、そも最初の覚悟からして違う。
この時代には魔術の名家というものも存在しているし、根本からダンジョンに潜る理由が金稼ぎではないという者もまた珍しくないらしい。
彼ら冒険者がダンジョンの問題をすべて引き受けてくれるのなら、僕ら執行者は地上での問題だけを片付ければ済むようになる。
だから僕も冒険者育成学園には頑張れと言いたくなるのだ。
そんなこんなな記事やなんやが似たような形でネットで見られる中、今僕が接続しているネットの先は当然の如く、推しの配信である。
僕の推し、ユキトイキ。
先日の災厄侵攻騒動では幸運なことに現場にいなかったユキトイキ。
ちょうど配信も休んでいたからきりえすの配信を見るに至ったのだったよな。
そして今、その幸運にも休んだ理由が明らかに。
『儂らの出品したアイテムがめっちゃ高く売れたのじゃ!?』
『まままさか迷宮遺物とはおお思いませんでした~』
『効果もすっごくしょぼいのに、あんな大金で購入する御仁もいるんだな』
〈コメント〉
:え? あのしょぼいの迷宮遺物だったの?
:レンたん手、震えてるよ。そしてそのマグカップの中身は空っぽだよ……?
:ギルドが崩壊する前にアイテムが買われたのはマジラッキーだな。今あそこアイテム諸共更地だし
:↑そう考えると今回のことすごい幸運だったのでは? 迷宮遺物だったのもそうだけど、そのしょぼい効果も気にせずに買った御仁がいるんだろ?
:ユキトイキは大金が手に入ってウハウハ、そして命まで救われたと。大恩人じゃねぇかその購入者
:ユキトイキ、豪運の所持者なう
ユキトイキの話では唐突に大金が入ったから炭鉱夫をさぼったらしい。
あれがなければいつも通りギルドに赴いていたと。
炭鉱夫を見送ってユキトイキ内で大金の桁を一日かけて数えていたというのだから、金は人を動かす……いやこの場合は動かさない力があるということか。
だが通帳の数字を一日も凝視することあるか?
あるか、ユキトイキだしな。
図らずも推しの命を救ったらしい僕は未だ感じたことのない嬉しさを覚えている。
いつも執行者として誰かの命を守っているのかもしれないが、明確に誰かを救って感謝されることに幸福を覚えるのなんて初めてだ。
これが推しの力。
これが力か。
皮肉にも救ったのは執行者としての僕ではなく、ただの金持ちとしての僕なのが笑えるところだ。
まるで執行者じゃない僕でも人は救えるんだよとでも言われたような気分、心地よい。
それはそれとして執行者は続けるんだけどね。
言ってしまえばそのお金だって執行者として稼いだお金だし。
なにかあったとき推しを守れるのは立場的にもやっぱり執行者だ。
極論、推しが平和ならそれでいい。
配信で通帳に向けて信仰を始めた推したちの姿を見て、僕も薄く微笑んだ。
今日も明日も、僕は推しの配信を見てる。
第二章 完
第三章もまた、書き終わったら投稿します
五月の頭には投稿できるよう頑張る
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