第十一話「執行者『魔人』vs六腕悪魔の災厄種」
◆side~きりえす~◆
「……執行開始」
絶望に満ちた戦場に、黒き鬼が降り立った。
あれは……前の『悪鬼』討伐戦でも見た覚えがある。
というか覚えてない冒険者なんてこのギルドにはいないだろう。
あの『千鎖』でさえなんとか拘束することしかできなかった『悪鬼』を、ただの片手間のように始末してみせた、怪物。
──執行者、コード『魔人』。
正直期待はしていた。
あの『悪鬼』でさえ即逃走を判断し、そしてあっけなく殺されるような格の違う存在だ。
執行者といえどその実力には当然差はあるはずだろうけど、あの『魔人』に関していえばかなり上位の実力者ではないかとわたしは見ている。
実際先程まで戦ってくれていたアメリカの『女王』、彼女は妹が世界最強といわれる執行者『アルテミス』という話だけど、その最強を知っている彼女から見ても瞳を震わせるほどには『魔人』は強かった。
登場と同時にお駄賃ですとばかりに六腕悪魔の災厄種の腕を、二本も捥いで投げ捨てる姿。
怪物でしょ。
わたしたちは近づくことはおろか、耐えることでさえできずに死者を多く出しているというのに。
けど『魔人』の怪物ぶりは、実はまだ始まってなかったのかもしれない。
六腕悪魔の災厄種は捥がれた腕の根元から赤い光を迸らせ、次の瞬間には元通りに再生していた。
噓でしょ?
せっかく『魔人』が腕を捥いだのに、再生能力持ちとかふざけんな、と思った次の瞬間には六腕悪魔の災厄種の胴体に風穴が。
は?
思考が追いつかない。
風穴が空いたと思ったらもう塞がってるし、六腕悪魔の災厄種はそのまままたさっきの光線を雨のように降らせてる。
お前その光線チャージが必要なんじゃなかったのかよ!?
思わず変な顔で睨みつける。
そう、先程まで六腕悪魔の災厄種は腕を発光させてからの砲撃だったのに、今では毎秒数十発、なんならもっと撃ちだして『魔人』を大地諸共消滅させんとしている。
……けど、なぜだろう?
六腕悪魔の災厄種の砲撃が、止まない。
舞い上がる土煙で『魔人』の姿は見えないけど、あれだけ撃たれてまだ生きているということ?
だから六腕悪魔の災厄種は攻撃をやめないの?
上空で六本の腕から光線を吐き出すその光景は、もはや雨というより釘を発射しているようだった。
ただの一つも逸れることなく、ただ一点を集中して攻撃し続けている。
あのまま撃たれ続けたら『魔人』以前に大地のほうが音を上げるのではないかと思って……気付いた。
六腕悪魔の災厄種の攻撃地点が、まるで動いていないことに。
『魔人』云々じゃない、あの光線を受けたら大地なんてどんどん陥没して当然だ、そうでなければおかしいのだ。
けど実際はただ強風に煽られて土煙が昇るだけ。
同じ疑問を抱いたのか、『風神』が立ち昇る土煙を風で上へ上へと移動させる。
毎秒もの凄い間隔で土煙は舞うから、常に強風が『魔人』の下から吹き荒れそれを晴らす。
それは風に吹かれる『魔人』の姿と、寸分違わぬ光線で『魔人』を殺さんとする六腕悪魔の災厄種の……異常に過ぎる光景。
『魔人』は、一歩も動いてはいなかった。
ただの一つも、六腕悪魔の災厄種が放つ光線を、避けても……そして防いでもいなかった。
『魔人』はただ、首を傾げて六腕悪魔の災厄種を眺めているだけだ。
その姿はまるで、「なんで同じことを繰り返すの?」とでも言うように、不思議そうに。
「あれは……なんだ?」
いつの間にかわたしの隣に来て大盾を構えていた『女王』が、理解できないという顔で『魔人』を見つめていた。
なんだ、と言われてもこの場で答えられるのは、彼が執行者『魔人』ということだけ。
つまりはわたしも、この場の誰も、『魔人』のことを欠片程度しか知らない。
『女王』は独り言のように呟いやいた。
「日本にこそ、理不尽なまでの最強さんがいるのですよ……か。はは……なるほど。これは、理不尽な力だな」
さっき戦っている最中にも聞いた言葉……『女王』の妹、世界最強の執行者『アルテミス』の証言、だっけ?
言われて再度『魔人』を見れば、確かにその通りだと思う。
防ぐでもなく避けるでもなく、まるで六腕悪魔の災厄種の攻撃を気にしていない、気にも留めていない。
それはまるでこの世に自分を傷つけられる存在などいないとでもいうように、攻撃だと認識すらしていないのではないかというほどに。
強風も気にせず、光線を浴び続けた『魔人』は……遂に飽きたように首を振って呟いた。
「……結局同じか」
なにと比べた?
知りたいけど知りたくない。
そう思った。
『魔人』がゆっくりと手を翳す。
いや、きっとゆっくりと翳したのだろうと思う。
はっきりとはわからない、だって。
見えたと同時には、目線は六腕悪魔の災厄種のほうへと移ったから。
木端微塵とでも言えるほどにあっけなく、肉片にされた六腕悪魔の災厄種。
その瞬間わたしは理解した。
あぁ……『魔人』が比べたのはきっと、全部だ。
魔術師も一般人も災厄種も、もしかしたら他の執行者でさえも。
彼は、全部を比べて同じ程度だと、言ったのだ。
「──これが……最強……?」
横で目を奪われたかのように呟く『女王』の言葉が、やけに頭の中に残った。




