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第十話「勇者vs魔王」

 きりえすの送る配信映像の中で、勇者と魔王が対峙する。

 もちろん比喩表現に過ぎないが、戦場はそれだけの迫力を見る者に伝えていた。


 鎖を浮遊させ佇む『千鎖』。

 空中に浮き隙を伺う『風神』。

 正面に立って大盾を構える『女王(クイーン)』。


 上空からそれらを見下ろす六腕悪魔の災厄種は、観察でもするかのように首を傾げている。



〈コメント〉

:あの三人なら勝てるだろこれ!

:災厄種も警戒してるんじゃないか?

:現状出せる最高で最強の冒険者パーティーだぞ、これで勝てないと終わる

:彼らで勝てなかったらもう執行者しかいないが……

:位階指定SSと執行者の戦いとか、どの道周辺地域は終わりだな

:頼む『千鎖』、お前が頼りだ……!



 戦いを見守る視聴者もその結末の行方を案じている。

 コメントにもある通り、比較的拘束の得意な『千鎖』のいる状況で片付けられなければ、僕とあの六腕悪魔の災厄種の戦いは少し被害が広がるかもしれない。

 わざわざ攻撃を避ける気もないが、あの光線はとにかく破壊に特化しているから、速攻で片付ける以外に被害を抑える手段はないな。


 そうこう思いつつもギルドに向け駆け抜ける中、遂に勇者と魔王の戦いは始まった。


 まず襲い掛かるは無数の鎖。

 『千鎖』だ。

 ギルドから飛び立たないようにと、いつしか見た鎖の巨人を背後に六腕悪魔の災厄種を拘束せんと鎖を向ける。

 それはかつての『悪鬼』を縛っただけあって容易く六腕悪魔に災厄種に絡みつき、ひとまずの戦場の固定に成功したかに見えた。


 だが──。


『……くそっ!』


 六腕悪魔の災厄種は『悪鬼』を超える位階指定SS……鎖はただ鬱陶し気に動かれただけで引き千切られる。

 だが敵意の誘導には成功したようで、それを教えてくれるかのように六本の砲身が『千鎖』に向けられた。


 赤く輝く六腕。

 狙いは『千鎖』。


 撃ちだされた光線は、しかし前に立つ『女王(クイーン)』によって受け止められる。

 歯を食いしばった表情で大盾を構える『女王(クイーン)』は、放たれた六つの光線すべてを──受けきった。


『極点旋風ッ!』


 生まれた隙を見逃さず、空を舞う『風神』が六腕悪魔の災厄種目掛けて必殺の魔術を放つ。

 あれは以前の『悪鬼』討伐戦でも見た魔術だ。

 だが確かあのとき、位階指定Sと言われた『悪鬼』相手であってもあの魔術は効果がなかったはず。


 しかしそれは『風神』とてわかりきっているのだろう。

 眼や翼の付け根など、撃たれて嫌がられる場所を執拗に攻め続ける。

 それは有効打を与えるための攻撃ではない。

 ただ少しでも敵意を分散させ、一人一人にかかる負担を減らしたいが故の行動。


 そも、災厄種の身体には魔法が宿っているのだから位階指定の及ばない魔術では傷一つ与えられないのは前も述べた通り。

 それが位階指定S以上、つまり今回のSSであったなら独自の魔法を行使しだす。

 六腕悪魔の災厄種で言えば、間違いなくあの光線もその力の一つだろう。


 以前きりえすを襲った狼の災厄種のようにはいかない。

 それをあの場の三人ともわかっているから、耐える、ということに方針を固めているのだ。


 それはつまり──。


『あと……少しのはずなんだ……執行者がっ……来てくれる……!』


 血だらけの身体で瓦礫を這ってそう口にしたのは、ギルド支部長。

 その身体を無事だったきりえすが担ぎ、なんとか少し離れた場所まで運んでいく。


 ギルド支部長のその言葉は、『千鎖』たちにも聞こえていたのだろう。

 三人ともが笑って、六腕悪魔の災厄種と戦っていた。


 『千鎖』が。


『あの御仁の強さは理解している。ここで耐えれば、必ず討伐してくれる……!』


 『風神』が。


『まったく最近こんなのばっかり。攻撃が通じないのは嫌になるけど……前もそれで、あの執行者が一ひねりだったのよね』


 『女王(クイーン)』が。


『我はその執行者を知らないが……妹から聞いたことがある。アメリカで世界最強と謳われる執行者の妹がな、日本にこそ、理不尽なまでの最強さんがいるのですよ……とな。その者が来てくれるかは怪しいが、耐える意味はあるだろう』


 それぞれが、命を賭して執行者の……僕の到着を待っていた。


 勝てないことなんて承知の上で、命を賭けた時間稼ぎとは……いやはや、本当に僕は冒険者という者たちを理解していないらしい。

 よくよく見れば『千鎖』や『風神』は戦いながらも負傷者や死者の亡骸を安全なところまで移動させている。

 もともと六腕悪魔の災厄種のおかげで……というかせいで、ギルド跡地にはなにも残っていないのだから、彼らのあの行動で僕は比較的自由に戦える。


 命がけの時間稼ぎをしつつ、後を託す者のために戦場を整える……完璧な働きだよ冒険者。


 ならば僕も、君たちのその働きに応えるとしよう。


 端末をしまい、目視できるまでになった戦場に向けて強く跳躍する。


 急接近する僕と、それに気付いた災厄種の赤く輝く六腕が交差する。


 巻き起こる強風の中、地面に降り立った僕は二本の腕を投げ捨てて現着を知らせた。


「……執行開始」


 僕の仕事を始めよう。

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