第九話「六腕悪魔の災厄種」
災厄侵攻発生の報できりえすも動き出す中、最後にギルド支部長と職員の会話が耳に届く。
『執行者を呼ぶ』
『執行者……この事態に動いてくれますか? 奴らはダンジョンのことに関しては腰が重いですが』
『問題ない、彼らは地上の番人だ。秩序の維持を掲げる彼らなら、魔術師だろうと災厄種だろうと、それを脅かす存在を許しはしない』
『わかりました、ではすぐに──……』
聞こえた会話はそこまでだが、まあ十分に順当というか。
ギルド支部長の言葉通り、僕らは地上で災厄種が暴れるなら始末に動く。
そこに災厄種も魔術師も関係などない。
今はまだ本部から執行命令が下りていないが……すぐに動けるよう準備だけでもしておこうか。
きりえすの配信が続いているのは幸いだった。
状況を配信越しに確認することができるから。
だからこそその展開の早さにも驚いたのだが。
『……なにか来ます!』
それはダンジョン内を警戒していた冒険者の叫び。
叫ぶようなその警告に咄嗟に冒険者たちが構えると同時、それは現れたのだ。
黒い人型で六本の腕が禍々しく存在を主張し、山羊頭に背中の翼は一言で言い表して『悪魔』というに十分。
そしてその悪魔は構える冒険者たちの上を凄まじい速度で通り過ぎ──ギルドの天井を消し飛ばした。
『は……』
幸いなのは完全に消滅させられた天井は瓦礫などを落とす余地もなかったことか。
だがそれ以上に不幸なのは、あれを登場と同時に一瞬でやってのける存在に、対する冒険者の顔に絶望が窺えることか。
上空で静止し下を見下ろすその悪魔のような存在に、誰かが呟いた。
『六腕悪魔の災厄種……位階指定SSだぞ……? は、はは……』
それは乾いた笑いと共に告げられる。
位階指定SSともなれば上から数えたほうが速い強さだ。
SSの上にはSSSとアンノウンしか存在しないし、そもそもダンジョンを深く潜らなければ遭遇するような相手でもないはず。
そういう救いがあるから冒険者もダンジョンで活動できるのだろう。
なにせ冒険者の最高位階指定がSまでなのだから、位階指定SS以上の災厄種とか遭遇=死が確定しているようなものである。
そんな現実がこみ上げてきたかのように、ギルド支部長は雄叫びの如く大声で叫んだ。
『防御魔術全力行使!! 他はなにも考えるな!!』
その喝が入るような指示に半ば反射ではないのかという風に冒険者が防御魔術を多重行使する。
魔術と魔術が融合し、堅牢な防御魔術が出来上がる──と同時。
六腕悪魔の災厄種のその六本の腕がまるで砲台のように掲げられ、何かを撃ちださんとばかりに赤く輝く。
今もまだ足りないと何重にも防御魔術を行使し続ける冒険者の顔が、赤い光に照らされてやけにはっきりと映った。
そして──。
放たれた無数の光線。
──ギルドは……崩壊した。
◆
その映像は世界中に届いていた。
崩壊したギルドの様子もまだ、きりえすの配信魔術によって映し続けられている。
戦慄だろう。
死屍累々だ。
きりえすの配信が続いているのは運がいいのか悪いのか、忠告を聞いて余分に買った結界石を彼女が咄嗟に使ったからだ。
あれがなければ他の冒険者同様、命があるかどうかは完全なる賭けだった。
とても分の悪い、が頭につくが。
と、そこで僕の執行端末に本部から連絡が入る。
執行要請だ。
六腕悪魔の災厄種を、討伐せよ、と。
少し遅い気もするが、よくよく考えたらむしろ早い判断か?
起きた出来事が一瞬で地獄絵図を作り出したが、この間わずか五分もないだろう。
災厄種が地上に出て来てからの出来事なら、三十秒も経っていなかったのではないだろうか。
あまりに格が違い過ぎたな……と現状を確認しつつ、僕は【魔法霊装】を纏って家を跳び出す。
家屋の屋根やビルの壁などを跳ねるように移動し、昼間でも構わず空中を駆け抜ける。
このまま行けば現着まで五分とかからないだろうが……少しまずいことに今、六腕悪魔の災厄種は抑えられる枷のない状態だ。
僕が到着したら地域一帯消し飛んでいましたじゃ話にならないのだが、こればかりはどうすることもできないのが難しいところだ……。
可能な限り速度を上げて疾走するが、これでは周辺住民の命も危ぶまれるな、ときりえすの配信で現状を確認すると……。
──三人の冒険者が、六腕悪魔の災厄種の前に立ちふさがっていた。
それは物語の主人公のように。
それは英雄譚の勇者が、最後の地で魔王と対峙するかのように。
崩壊し瓦礫に荒れたギルドの跡地で、彼ら三人は六腕悪魔の災厄種に立ち向かおうというのだ。
位階指定Aの『千鎖』。
位階指定Aの『風神』。
そしてアメリカの位階指定S、『女王』。
ギルド最強タッグにアメリカ最強の冒険者が。
位階指定SS、六腕悪魔の災厄種に、挑む。




