第八話「災厄侵攻」
発光する悪意のアイテムを、きりえすは床に叩きつけて割った。
このまま放置するにはまずいモノだと本能で判断したのだろう。
次第にダンジョンの奥底から響く咆哮は鳴りやんだが……果たしてこれで事態解決、となるかどうか。
『……あの人の言ってたこと、嘘じゃなかった……! でも、使ってはないよ!?』
それはそうだな、僕もまさかこんなクソ仕様のアイテムだとは思いたくなかった。
いやそもそも冒険者の発掘するアイテムを全般的に知らな過ぎたな。
時間経過で起動するのならダンジョンに眠っている間に起動しそうなものだが、そこには僕の知らない絡繰りでもあるのだろう。
ともあれ今は視聴者に愚痴を溢す時間でもない……それを理解しているのかきりえすは急いでギルドの受付へと走り寄る。
受付前にいる他の冒険者を押しのけて、文句を言われるのも構わずことの経緯を説明する。
忠告は正しかったのだと。
ちょうどこの異常事態に出てきていたギルド支部長はきりえすの説明を聞いて、急いで割れた悪意のアイテムの回収をさせる。
そして。
『すぐに上級鑑定をかける! 冒険者各員は警戒を厳にせよ!』
悪意のアイテムの、その真の力を知るべく上級鑑定をかけるらしい。
冒険者にもダンジョン入口を包囲させ、警戒網を構築させる。
幸い上級鑑定ができる者は職員の中にいるようで、すぐにその職員は鑑定に取りかかった。
上級鑑定ができる者がいるなら始めからそうすればいいと、思うかもしれない。
だが鑑定魔術というものは術者の力量で段階が分けられるようで。
初級、中級、上級……中でも上級を行使できる者は数が少ないのだから、ただの結界石、と思われるアイテムにお呼ばれされることなどなかったのだろう。
創った者の悪意の罠に嵌まった形だな。
職員の上級鑑定を待ちながらギルド支部長はきりえすに顔を向け、問う。
その忠告をしてくれた者は何者で、なんと言ったのか、と。
おやこれはもしや容疑者の一人に僕は数えられたのか? と思ったが、それはきりえすが否定してくれる。
『言われたのはホント、それは使わないほうがいい、ってそれだけです。私が追っかけファンだと思って相手にしなかったからそれ以上はなくて……うぉぉ、もっとちゃんと聞いておけばよかったぁ……!!』
まぁ、否定はしてくれたと見ていいだろう。
そも、あのアイテムは現代の誰かが創ったモノではないと思う。
ダンジョンが現れたことと関係があるのかは知らないが、あの悪意の淀み方はダンジョン顕現から五十年やそこらで出来上がるものではない。
そういう目線からも僕は使用しなければ問題ないと思ってしまったのだが……思い込みはよくないと実感した。
きりえすからの話を聞くギルド支部長は、ギルドの不手際ゆえ今回起きている事態に関しての責任はすべてギルドが取る、と明言した上で、ぼそりと呟く。
『……その何者かも、わかっていたのならもっとはっきり言ってくれれば助かったんだがな』
実はほとんど何もわかっていなかったんだけどね。
ただあのアイテムには悪意が宿っている、わかっていたのはそれだけだ。
僕に鑑定、ましてや上級鑑定みたいな真似はできない。
戦うことしか能がないと言われても大人しく肯定するくらいには。
と、そこで職員の上級鑑定が終わった。
鑑定結果は。
『【魔王降臨の宝珠】……割れる前からの劣化品で、それとは別に異なるアイテムとして見える欺瞞工作も施されていました』
【魔王降臨の宝珠】。
いきなり魔王とかいう単語が浮上してきたが、もちろんそんなもの今まで確認された例はない。
ギルド内の者たちもその魔王という存在がなんなのか、はっきりとわかっている様子はないが。
だが、それでも先のあの咆哮も交えて考えれば、おおよその察しはついたのだろう。
誰かが呟く。
『災厄種のことか……?』
呟かれたのはその一声だけだったが、他の者も大半は同じことを考えているだろう。
誰が始めに災厄種をそう呼んだか知らないが、今回の件も含めて無関係とは思えない。
もちろん鑑定魔術もある上での呼称だし、災厄種は災厄種で魔王ではないかもしれないが。
『あ……いえ、魔王は災厄種ではないかもしれません。【魔王降臨の宝珠】鑑定結果に、劣化品ゆえ呼び出せるのは格落ちの存在で、魔王は呼べない……とあります』
おや、災厄種は魔王ではないらしい。
というか鑑定魔術はなにがどんな風に見えるのだろうか?
今は関係ないんだが、そのうち知る機会があるなら聞いてみたいものだ。
と、そこで逸れかけた話をギルド支部長が大きく手を叩き、意識を持っていく。
『とにかく今は防衛線の構築だ、急げ! あのアイテムが地上で起動したのなら、魔王にせよ災厄種にせよここにやってくるということになる! 緊急事態だ!』
位階指定別に冒険者たちに指示を出し始めるギルド支部長。
慌ただしく動き始めたギルド内で、ギルド支部長は大きく息を吸って、喝を入れるようにその号令を出した。
『災厄侵攻の警報を鳴らせッ!!』
それは街に。
冒険者に。
ギルド内に。
災厄侵攻発生の報が、鳴り響く。




