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第七話「咆哮」

 翌日。

 土曜、日曜と休日は続く。

 昨日帰り道に執行者本部でよくないアイテムがあったという話をしてきた。

 流石に僕の魔法やら立場をわかっている者達だから無下にされることもなく、調査と対応に動き出してくれるようで安心した。


 すまない、嘘を言った。

 確かに動いてくれるのは助かる話だが、事態が完全に解決するまで安心はできない。


 だからなのだろうか。

 僕は休日の朝一番から、昨日あの悪意のアイテムを買っていった冒険者、きりえすの配信を覗いていた。

 いや一番の理由は推しのユキトイキが急遽やる事ができたとかで配信してなかったからなのだが、これも巡り合わせというやつなのかもしれないときりえすの配信を開いたのだ。

 一応言っておくが断じて追っかけファンになったとかそういうことはない。


 開いたきりえすの配信はちょうどついさっき始まったばかりのようで、まだダンジョンにも入っていなかった。

 視聴者と雑談をしながら身体をほぐしているようで、胴を捻りながらも災厄種徘徊掲示板を穴が開くのではないかというほどに凝視している。

 そんなに見たって予期せぬ事態は予期できないと思うんだけど。



〈コメント〉

:掲示板情報がダメならもう祈るしかないよ?

:気持ちはわかるけどね

:この前災厄種に殺されかけた身としては当然の構えなんだろう

:そういえば前に使った結界石の補充はしたの?



 他の視聴者からも似たようなコメントが寄せられる中、僕も気になる結界石の話題が持ち上がった。

 そうだ、それの経過を知りたいんだ僕は。

 まさかないとは思うけど使用しなくても時間経過で起動しますなんていうクソ仕様だったらまずからね。


 そのコメントは掲示板に視線で穴を開けたかもしれないきりえすの目にも入ったようで、至って普通に補充を済ませたと報告した。

 しかし一転、なにか気になることでもあるのか、う~んと悩まし気に、でもと続ける。

 なんだ、なにかあったのかと思わず凝視。


『結界石を買った後にね、追っかけファンの人がやって来たんだけど、今にして思うとなんか違ったなぁ~って』


 そんなどうでもいいことはどうでもいいんだ。

 というか僕の推しはユキトイキだけ。

 これは何回言っても以下略で済ませる気はない。



〈コメント〉

:まーた追っかけファン? 迷惑だな

:いやなんか違ったんでしょ? どう違ったの?

:数いる冒険者の中できりえすに話しかけた時点で追っかけでは?

:なんでもいいけどなんか話したの?



 視聴者も近頃では珍しい話題でもないのか適当に流しつつ、気になることを各々述べている。

 実際大した時間向かい合ったわけでもないから話すようなことはまるでないと思うが……と僕は思ったのだが、きりえすは違ったようで。

 うん、と一つ頷いてから思い出すように口を開いた。


『なんかあの人、普通じゃなかったんだよね。わたしを見る目っていうのかな? あれは冒険者とも違う、魔窟を潜り抜けた人しかできない目をしていた……気がする。わたしもよくわかんないんだけどね』



〈コメント〉

:なんだそりゃ

:冒険者以外で魔窟云々ってなんかある? 軍人とか?

:いやまあ、確かに冒険者やってると時々こいつヤバいなって目をしてる人はわかる

:結構そういう勘みたいなのって馬鹿にできなかったりするんだよね



 きりえすのその発言には、僕も少し目を見張った。

 そういう相手の背景なんかを見抜くことは確かにある。

 長くその道に立っていれば軍人であれ冒険者であれ執行者であれ、多かれ少なかれ体験することではあるだろう。

 けどあの場でそれを感じていたのならもう少し話を聞いて欲しかったとも思う。

 今は後の祭りだが。


 視聴者の声を聞いたきりえすは、やっぱりか~と顔を渋めつつ、もう一つの結界石を取り出した。

 なんで二つ持ってるんだろう。


『これね、その人が去り際に忠告してくれたから。そのアイテムは使わないほうがいい、って。妙に重みのある声だったから、思わずもう一つ結界石買っちゃった』


 ……もうなにも言うまい。

 僕にとっての最善ではなかったが、彼女も彼女でしっかり僕の忠告を聞いてくれてはいたようだ。

 これなら執行者本部が対応してくれるまでなにかが起きることもないだろう。

 結界石も安い買い物ではないだろうに、前に災厄種と遭遇したばかりだったのも良い方向に思考を持っていく一助になったのかもしれない。

 あの悪意のアイテムを手に取ったのが彼女だったことは不幸中の幸いだったな。


 心配はなくなった。

 安心しきったわけではないけれど、もう観察を続ける必要もない──そう思ったときだった。



 ダンジョンの深淵から響くような、悪魔の咆哮が響き渡ったのは。



『──な、なにっ!? ……って、え⁉』



〈コメント〉

:おいなんか手に持ってるそれ、光ってないか!?

:結界石……じゃないのか?

:結界は張られた様子もないな

:マジのマジで使ったらあかんやつだったのか⁉

:いやでもきりえすたん別に使ってないだろ⁉

:見た目は結界石だったのにな。なんだその悪意を感じるアイテムは?

:これは……忠告は正しかった……いや、足りなかったのか?



 画面で中ではきりえすの持つ悪意のアイテムが発光を続けている。

 間違っても使用なんてしていなかった、それは僕もこの目で確かに見ていた。

 つまり。


「……クソ仕様、か」


 時間経過で起動した、ということなのか。


 発光を続ける悪意のアイテム。

 響き渡る悪魔の咆哮。

 混乱するギルド内。


 執行者の出番は……意外と早いのかもしれない。

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