第六話「悪意のアイテム」
それは見た目は他と変わらない結界石だ。
けどあれは絶対そんなありがたい代物じゃない、確信できる。
僕の魔法の数少ない力の一つ、この眼があのアイテムを悪しき物だと断じている。
僕の眼は悪意に敏感だから、あれ一つだけ気色悪く映って仕方ないんだ。
見た目は結界石で、他に混じって置かれているということにも創った者の悪意が見え隠れしている。
けどあれを創った者はもう生きてはいないのだろう。
悪意はアイテムにだけ残り、その糸はどこにも続いていないから。
あれはただ悪意の解放を今か今かと待っているだけだ。
……回収しようか。
本来こういう仕事は僕ら執行者の領分に含まれないのだけど、だからといって見え見えな悪意を放っておくこともどうかと。
ただあのアイテム一つを僕が購入して処分すればそれで済む話だ。
ちょうど店員さんが購入したユキトイキの迷宮遺物を包み終わり、差し出して来たのでそれを受け取ってから再度振り返った。
まぁまさかあれだけ雑にたくさん置かれる結界石の中からピンポイントであれを掴む者がいるなんてあるはずもないだろう……と油断していたことは認めよう。
振り返った先、件の悪意のアイテムはもう既にそこにはなく。
視線を横に移せばどこかで見たギャル系冒険者がちょうどそれを購入したところだった。
ギャルという生物は支払いを済ませるのも早いのか?
もっとどの結界石を買うか悩んで……悩む余地のある品でもないのか普通。
内心で溜息を吐いて、僕は推しの迷宮遺物と共にそのギャル系冒険者きりえすの下へと歩み寄る。
そういえば先日の災厄種遭遇で結界石を使っていたからそれの補充が必要だったのだろうと気付きつつ、なんと言って回収しようかと頭を悩ませる。
僕ら執行者は標的を始末することだけが仕事だ。
本来冒険者が自己判断で購入した物を横から奪い去る権限などないのだから、ここは巧みな話術が必要になるところ。
正直自信がなかった。
そしてそれは現実に交渉失敗……というかあらぬ誤解を受けるだけになる。
「なになに? またわたしの追っかけファン? あの配信から君みたいなのが増えたんだよねー」
一言声をかけた瞬間、彼女の追っかけファンとやらに認められた。
全然嬉しくない。
僕の推しはユキトイキだけだ。
聞く耳持たず、という風に手をひらひら振って横を通り過ぎようとする彼女に、ならばせめて一言忠告だけでもしておこうと思い、囁いた。
「……そのアイテムは使わないほうがいい」
「……え?」
疑問の声を挙げたきりえすは、しかし訝し気な顔で立ち去った。
僕も仕方がないと割り切り、その場を後にする。
冒険者が自己判断で購入した物を奪う権利は僕にはない。
その先、その手にした物で彼女の身になにが起ころうとも、それは冒険者の自己責任というものなのだと認識はしている。
けど、叶うならあんなモノは手放してほしかったと思う。
どこかで秩序が乱れたとき、いつだって最後の最後に後始末を押し付けられるのは僕ら執行者なのだから。
取引所を出て外の景色を眺める。
後ろには今出てきたばかりのギルドがある。
この前後の風景で、僕が介入するかしないかの線引きが行われる。
ダンジョン内でなにかが起こるなら、それは冒険者の管轄だ。
ギルド内であっても、相当のことでもない限り執行者の出番はないだろう。
彼女が購入したのは結界石……と彼女は思っている。
ならばそれの使用も滅多なことがない限りないだろう……と思いはしつつも、気にはなる。
あの悪意のアイテムは危険だ。
僕の眼では詳しい効果などわかるはずもないけれど、使ったら間違いなくよくないことが起こる。
個人かそれとも周りを盛大に巻き込むのか。
執行者としては動けずとも本部に説明くらいしておくかと、その日は結局寄り道してから帰宅するのだった。




