第四話「ギャル系冒険者きりえすのときめき」
今まさにきりえすを殺さんとする災厄種の身体に、『悪鬼』討伐作戦でも見た『千鎖』の鎖が襲い掛かる。
それは災厄種を警戒させるに十分だったようで、拘束することは叶わなかったものの跳び退かせることに成功。
きりえすは一旦の窮地を脱した。
しかし終わらない。
相手が増えようと退却の二文字は存在しないのか、災厄種は更なる攻撃を仕掛けようと地面を壁を跳ね疾走する。
狙う獲物は変わらずきりえすなのか、その鋭く紅い眼光は真っ直ぐに彼女を見つめていた。
『ヒッ……』
思わずというように漏れた悲鳴。
それに感化されたのか災厄種は疾走の勢いのままきりえすに喰らいかかる。
だがここで現れたのがアメリカの位階指定S、『女王』だ。
ユキトイキの配信で購入しているのを見た例の高級装備、それの大盾を構えて見事災厄種の突撃を食い止めてみせる。
それを待っていたかのように動きの止まった災厄種に『千鎖』の鎖が絡みつく。
今度こそ完璧に拘束し、災厄種は身動きの取れない状況に。
これが災厄種の位階指定S以上なら独自の魔法でも行使してくるのだろうが、今回の個体はBかAか、どちらにせよその拘束を脱する力はなかったようだ。
『風神』の風の刃が、瞬きの突風と共に振り下ろされる。
ずるりと。
災厄種の首は、ダンジョンの硬い地面へと転がった。
〈コメント〉
:すげぇぇぇ!
:『千鎖』と『風神』!? あとアメリカの『女王』!
:これ最強パーティーだろ!
:シンプルに強すぎる
:あの災厄種がこうも簡単に討伐されるとか、歴史に残る瞬間だろ!
コメントでも視聴者の興奮する様子がよく伝わってくる。
確かにいいパーティーだと思った。
『女王』の防御力。
『千鎖』の拘束力。
『風神』の攻撃力。
シンプルな構成だが、各々の実力が高いこともあってそのシンプルさが逆に厄介だ。
戦闘は終わり、きりえすの窮地は脱した。
あっという間の出来事。
災厄種遭遇から憧れの冒険者たちによる救援、そして討伐。
それを目の前で見せられた……というかその場で感じたきりえすは、振り返って安否を確認してくる『千鎖』の姿に。
そのフードで顔が隠れた、しかし目元だけ見えるその優しい眼差しに。
〈コメント〉
:きりえすたんときめいてない?
:恋に落ちる瞬間を目撃してしまった
:これはガチ恋勢涙目
:涙目で祝福するんですね、わかります
ときめきの表情を、見せたのだった。
まったく『千鎖』という男は、どこまでいっても主人公であるらしい。
『風神』というヒロインがありながらクラス一の美少女も……と思いきやまさかの初登場ギャル系冒険者ときた。
教室では正体を隠していることなんかも含めて物語性十分だな。
これはクラスメイトが興奮する理由も頭では理解できる。
頭では、というのは僕には肝心の災厄種の脅威度がいまいち認識しきれていないから、少し盛り上がりに欠けた部分がある。
執行者はダンジョンに潜れないこともあって直に災厄種をこの目で見たことは一度もない。
時折起こる災厄侵攻という現象で災厄種が地上に出てくることもあるらしいが、それの対処をしたことも僕はないのだ。
まぁ、この配信を見ればそれも頷ける。
わざわざ執行者が出張るほどの災厄種が災厄侵攻を起こさない限り、その場の冒険者たちで十分対処可能ということなのだろう。
少し災厄種の力というものに興味があるのだが……願っても仕方ないことか。
こういう配信を見て、コメントで盛り上がる視聴者やときめく冒険者を知ると、僕もまったく冒険者というものを理解していないのではないかと気付く。
別にそれがどうということもないのだが。
ただ僕ら執行者が世間で理解されないというように、僕も彼ら冒険者を……世間で人気の冒険者という者達を理解していないのだと、ただそう思っただけだ。
窓の外を見る。
夕焼けが街を照らしている。
僕の世界はこの夕焼け色の街の、どこからどこまで続いているのだろうか。
この一人だけの広いリビングで終わっているのではないだろうか。
そんなことを考えたからか。
今度の休日、少し冒険者の領域に足を踏み入れてみようと思う。
といってもただ推しの出品を見に、ギルドの取引所まで行ってみるだけだけど。
ダンジョンで使うアイテムは要らない、けどなにか気に入った物があれば、買ってみるのもいいかもしれない。
執行者としての稼ぎも貯まる一方で使い道ないし、正直推しの出品は欲しいという気持ちもあるから。
少し、今度の休日が楽しみになった。




