第三話「話題のダンジョン配信者」
ゲーム配信はされなかった。
セッティングが面倒くさかったらしい。
配信者にあるまじき蛮行だが、そういうところも推しの魅力なので問題なし。
さて今日は学校。
週の始めはいつだって憂鬱だが、今日はそこを彩るように炭鉱夫による虚無配信を見返すことにしよう。
そう思っていつも通りの教室の扉を開くと、早速というように冒険者デビュー少年がクラスメイトに興奮気味に熱く語る姿が見える。
今日の内容は……今話題のギャル系冒険者?
冒険者デビュー少年の彼、冒険者になってからそっち系の情報に厚いよね。
もう冒険者っていうかクラスの情報屋だ。
自分の席に向かいながら話を聞いていると、どうもそのギャル系冒険者は最近位階指定Cにあがったばかりの『きりえす』というソロ冒険者らしい。
熱く語られる内容を要約すれば、先日のダンジョン配信で災厄種と遭遇し、危うく死にかけたと。
だがそこで偶然通りかかった『千鎖』と『風神』、そして前に取引所で見たアメリカ美女冒険者の『女王』の参戦があってあっという間に討伐されたらしい。
もうその姿が三人揃ってかっこよすぎて、まじやばたんと冒険者デビュー少年はギャルっぽく語る。
助けられたギャル系冒険者きりえすという人物も、その場で唯一の男である『千鎖』の振り返る姿にときめきの表情を見せたのだとか。
自分もあんな表情でときめかれたい~と欲望を曝け出す冒険者デビュー少年のすぐ側では、本を読みながらほくそ笑む実は凄いんだぞ少年の姿が。
あれは果たして本当に本を読んでいるのかどうか。
そしてクラス一の美少女たるまだヒロイン枠かもよ美少女は、そんな実は凄いんだぞ少年の背中をむすっとした顔で見つめていた。
彼女はやはりまだヒロイン枠なのかもしれない。
クラス内で順調に僕の知らない物語が形成されているようで、世の中なかなか話題に尽きないのだなと思いつつ、僕も推しの虚無配信を見るためイヤホンを付ける。
話題のギャル系冒険者とやらは、暇があったら見ることにしよう。
そう思っての帰宅後。
学校の暇な時間で推しの虚無配信を見終わった僕。
少し塩辛のつまみを口に運びながら心が刺激を求めていることを自覚する。
推しの炭鉱夫姿は本当に虚無の配信だから、時々別の刺激を求めたくもなるのだ。
帰っても特に執行者の任務もないことを確認し、今日一日中クラスで話題だったギャル系冒険者の配信を見てみようとチャンネルを開いた。
虚無に支配された配信を見ている中であれだけ熱く語っている姿を見ると気になってしまうだろう。
ギャル系冒険者きりえすのチャンネルは登録者五十万人となかなか多い。
これがビジュアルに加え冒険者としての実力があるということなのかと思いつつ、件の災厄種に遭遇した配信回を始めから再生する。
冒頭の挨拶などを適当に流しつつ、きりえすと視聴者の話題は『悪鬼』討伐作戦での『千鎖』の話に繋がった。
みんな『千鎖』大好きだな。
どうもきりえすも『悪鬼』討伐作戦には参加していたようで、あのままだと自分の命もないことは理解していたらしい。
だからこそ、そこからの『千鎖』覚醒と打開の瞬間には興奮が冷めなかったという。
なるほど、現場にいて命の危険があったのならそれは興奮もするだろう。
まじやばたん、がちやばたんと『千鎖』をべた褒めするきりえす。
ふむ、冒険者デビュー少年の話では災厄種遭遇からの救援でときめいたと言っていたが、この時点で既にはっきり意識はしていたようだ。
しかしそう落ち着いて観察できるのは僕が彼女のファンではないからで、もとからの視聴者……俗に言うガチ恋というものをしている層は少し面白くなかったようで。
少しづつ不満がコメント欄で現れる中、話を変えようと思ったのかこんなコメントが投げられる。
〈コメント〉
:『千鎖』ならこの前アメリカから来た位階指定Sの女冒険者と一緒にいたよ
:あぁ、あれね。『風神』が取られて堪るかと頑張ってたけど、あれただ『風神』の反応見て楽しんでるだけじゃないか? 微笑ましいぞ
:位階指定Sの冒険者に負けるかと噛みつく『風神』はかわいかった
:羨ましいぞ『千鎖』コノヤロー
一瞬で他視聴者のコメントに流されたが、なるほどなんで冒険者デビュー少年の話のときに『女王』がいるのだろうと思っていたが、この時点で順調に物語を作っていたんだな。
それが災厄種遭遇からの救出に繋がるとは、本当あいつ主人公過ぎやしないか?
まぁ僕はその肝心の主人公の物語の中身をまるで知らないんだけどね。
そんな雑談がぽつぽつと話題を変えつつ流れ、きりえすはその間もダンジョンを深く潜っていく。
流石に位階指定Cというと普段ユキトイキの配信で見れないダンジョン内の様子が見えて少し楽しい。
蟻の巣状の洞窟が絡み合うのは同じようだが、所々に遺跡の残骸のような柱だったり建造物があって、壁に埋まる資源の結晶も色とりどりに輝いていて綺麗だ。
災厄種という命の危険はあるものの、この光景見たさに冒険者になる者もいるのではないかと思った。
だがその綺麗な光景は現実を告げるように。
きりえすの配信の中に、漆黒の狼のような、硬い外殻を纏う怪物が姿を現す。
災厄種との遭遇だ。
『……え?』
横の通路からぬるりと姿を見せたそれは大きく、小さな一軒家くらいの大きさはあるのではないだろうか。
その災厄種はきりえすの姿を視認するが早く、口をガバリと開き血のような涎を溢れさせた。
『──っ!』
予想外の展開だが命の危機を悟ったきりえすは速攻で攻撃魔術を行使する。
彼女の位階指定はC。
災厄種にも位階指定は適用されるが、その最低ラインがCだ。
それは最低でもそれくらいの実力がなければ最弱の災厄種ですら倒せないということで、逆に言えば位階指定Cなら最弱の災厄種なら倒せる。
彼女も冒険者だ、コメント欄での動揺も見る限りでは事前に災厄種徘徊掲示板はチェックしていたのだろう。
だが不測の事態というのはいつ起きるかわからないもので、きりえすはこうして情報になかった災厄種と遭遇した。
災厄種の位階指定は冒険者同様七段階。
C、B、A、S、SS、SSS、そしてアンノウン……測定不能だ。
冒険者が最高でS、最低でFなことを考えれば、如何に災厄種という存在が強力なのかが窺える。
しかしきりえすは最弱の災厄種なら打倒できる位階指定Cの冒険者。
情報になかった災厄種とはいえ、この層の辺りで出没する相手なら通用すると思ったのだろう。
だが結果として、彼女の魔術は弾かれた。
災厄種の纏う魔法の外殻は、力の及ばぬ魔術を悉く受け付けない。
だからこそ最低ラインが冒険者の位階指定Cに当てられており、外殻だけでなく独自の魔法を行使する災厄種もいるためSの上、SSやSSSが存在するのだ。
そして今回の災厄種はきりえすの魔術が通用しないことから、最低でも位階指定Bの災厄種ということが判明した。
『嘘……』
予想外の展開に予想外が重なる。
情報になかった災厄種。
層に合わないその力。
呆然とするきりえすの頭の中では今、次の行動を必死に考えているのだろう。
逃走か。
防御か。
それとも戦闘続行か。
〈コメント〉
:逃げて!
:いや追いつかれるぞ!?
:どうしろってんだよこんなの!
騒然とする視聴者の声も届かず、きりえすは……防御の選択肢を取った。
使い捨てのアイテム、結界石を起動しその場に蹲る。
それは逃走しても軽く追いつかれる結末が見えていたからか。
少しの時間でも身を守れる結界石に運命を託したのだ。
災厄種の爪が、牙が結界を破壊せんと振り下ろされる。
それは所詮使い捨てのアイテムの域を出ないということなのか、それとも災厄種たる強者の猛攻を数瞬でも耐えてみせるその力を称賛するべきなのか。
大した時間も待たず罅の入り始めた結界を見て、きりえすは涙目になる。
『誰か……助けて……!』
結界が崩壊する。
同時。
『千鎖』の鎖が、舞い降りた。




