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太郎と物の怪5


「怪力無双の河童様と天狗様だぞ! この二人にかかったらお前達なんてすぐにバラバラにされるぞ!」


「怪力?」

「無双?」


 それを聞き、銀治君と絵里香さんは指をポキポキと鳴らした。


「じゃあ、まず俺から・・・」


 銀治君は河童の前に立った。そして両手を河童とあわせ押し合いを始める。


「わしに相撲で勝てると思ったか!」


 河童は余裕の表情で銀治君を押す。確かに相手のほうが優勢だ。しかし・・・僕は知っている。銀冶君はまだ全力を出していない事を。


「調子乗ってんじゃねーぞぉ!」

「・・・ひっ!」


 叫んだとたんに銀治君は狼男の姿になる。河童は目の前で凶悪な狼の顔を見せられ顔を引きつらせた。そして、力でも圧倒的に・・・と言うか、すでに河童の両肩は脱臼していた。


「か・・・河童様!」


 驚く牛鬼の目の前で、河童は他の雑魚妖怪と同様に、逃げるように海に姿を消した。


「はーい、そこの山伏みたいな格好した汚いの。降りてきなさい」


 次に絵里香さんが天狗に向かって手招きをすると、天狗は何も言わずに降りてくる。しかし、その顔は小娘に偉そうな口を叩かれたのが癇に障ったのか、さっきよりも更に真っ赤になっているように見えた。


「わしの力は河童どころじゃないぞ。正真正銘の妖怪。その力は大木をなぎ倒し、風を巻き起こし・・」


「うるさいわね。こんな美女の手を握れるんだからって多弁になるんじゃないわよ。もてないの? おじさん」


「・・・後悔するなよ娘。そっちのおかしな狼ならいざしらず、お前のような者がわしに勝てるはずがないであろう」


 手を合わした天狗は、先ほどの河童と同じように最初は優勢に見えた。しかし・・・絵里香さんにも銀治君と同じハイパーモードが・・・。


「・・・・・」

「・・・ひ・・・ひぃぃぃぃ」


 絵里香さんの目と口は真っ赤に染まり、その口から牙が生えてくる。それを眼前で見た天狗は顔が真っ青になっている。


「化け物だぁ!」


 天狗は手を離して背中を見せて飛び上がった。そして、羽を一生懸命ばっさばっさと動かし、遠くに飛び去っていく。


「逃げてんじゃないわよ!」


 絵里香さんは砂浜に埋まっていた石に手をかける。それを持ち上げると、天狗に向かって投げつけた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・ぐわっ」


 ボーリングの球くらいの岩を背中に受けた天狗は、殺虫剤をかけられたハエのようにポトリと水面に落ちた。


「お・・・お前ら・・・何者だ・・・。俺の知らない妖怪がまだ日本にいたのか・・・?」


 牛鬼は完全にビビッている。「おいっ!」と声をかけたらすぐに土下座をするくらいの勢いだ。


「何面白そうな事をしているのだ?」


 そこにようやくビーチバレーをやめた朱魅さん達が来た。牛鬼は間髪いれずに土下座をした。


「この辺りに妖怪の総大将が来ているらしいですよ。それでこのビーチは空いているらしいです」


「おお! それでその総大将とやらはどこにいるのだっ! 見たいぞっ!」


 朱魅さんはすばやく周りを見回す。小里ちゃん、美沙さん、雪奈さんに実花さんもだ。結局、似たもの同士が集まっている。


「わしを探しておるのか! ここじゃ!」


 辺りに年老いた様子の声が響いた。しかし、声だけでどこにもその姿は無かった。


「ぐわっはっは! 見えんだろ? これが妖怪総大将、ぬらりひょんのわしの力じゃ!」


 すぐ近くで誰かが喋っているようだ。それは間違いない。しかし・・・その姿は見えない。そういえば、ぬらりひょんは人に気がつかれずに人の家を出たり入ったり出来るとかネットで読んだ気がする。小里ちゃんと同じような能力だ・・・。これはやっかいだぞ・・・。


「ここじゃここじゃ! わしの手下達をよくもやってくれたな!」

「おわぁ!」


 突然銀治君が転んだ。


「見えまい。これこそがわしの能力、最強の能力じゃ!」

「ん? ・・・きゃぁっ!」


 僕の前で絵里香さんのビキニの上が外れて落ちた。さすが妖怪総大将のぬらりひょん・・・。とてもすばら・・恐ろしい能力だ・・・。


「せこい攻撃ばっかしてんじゃねー。でてこいー!」


 絵里香さんは胸を手で隠しながら叫ぶが、ぬらりひょんは笑い声だけを残して動き回っているようだ。


「ちきしょー。小里の能力は前々から厄介だと思ってたけど・・・、まさか敵でその力を持つ奴が出てくるとは・・・」


 絵里香さんは小里ちゃんに水着を渡されて、それを付けながら頬を膨らましている。


「わしの能力に恐れをなしたか!」


 突然、小里ちゃんと僕が作った山が崩れた。どうもその上にいま飛び乗ったようだ。それを見て小里ちゃんが表情を変えた。


「小里の・・・山・・・。壊しましたですね・・・」


 小里ちゃんは僕達の前に出て行く。苦心して作っていた山が壊されて、珍しく怒っているようだ・・・。


「なんじゃ小娘。お前のようなチビに用は・・」


「許さないです!」


 小里ちゃんは何かを抱えあげて肩の上にのせた。いつもの事ながら見えないけど、また怖い武器を出してきたようだ。


「何をしているんじゃ小娘? おままごとなら別の場所に行ってするがよい!」


「えいっ!」

「ぐわっ!」


 砂浜が広範囲にぺっちゃんこになり、その中心にぬらりひょんの物だと思われる人型の穴が見える。推測だが、巨大なフライパンのような形の武器な気がする・・・。


「な・・・なんじゃ? 何が起こった!」


 ぬらりひょんは、砂浜にめり込んでいた顔を引き抜き立ち上がった。さすがは妖怪総大将。なかなかの打たれ強さだ。


「えいっ!」


[ビターン]


「やぁっ!」


[ビターン]


 危機感を感じてぬらりひょんは移動しているようだが、小里ちゃんが適当に振り下ろすフライパンの下敷きに何度もなっているようだ。砂浜にはいろんな形の人型の穴が現れている。


「おぉぉ・・・。小娘! やりおるな! ではこちらの反撃じゃ! あ・・・あれっ?」


 小里ちゃんも空気に溶け込むように姿を消した。


「な・・・なにっ? どこへ・・・」


[ビターン]


「ぎょわっ!」


 見事にまたHITしたようだ。もうおじいさん、いちいち喋らなきゃ見つかる事もないのに・・・。


「もしや・・・ざ・・・座敷童子かっ!」


[ビターン]


「いたた・・・ちょっ・・・ちょっと待ってくれぃ!」


 突然着物を着て、杖を持つ老人が浜辺に姿を現した。予想通りのぬらりひょんの姿だったが・・・もうヘロヘロだ。


「なぜじゃ! なぜこんなところに座敷童子が・・・。山奥でひっそりと暮らしているはずじゃないのか・・・」


「上京してきたです!」


 小里ちゃんも姿を現したが、その見えない武器を上段に構えている。


「かっ・・・勘弁してくれ! わしはお前とやりとうない! 同じ日本の妖怪じゃないか! 許してくれ!」


 ぬらりひょんはだます様子と言うわけではなく、本気で妖怪総大将の老人が小娘に頭を下げて手を合わせている。絵里香さんも不思議に思ったようで、ぬらりひょんにそれを問う。


「どうして大将のあんたが、一妖怪の小里に勝てないのよ? 同じような能力だしせめて互角とかじゃないの?」


「ちっ・・・違うわい! わしの能力は『気が付かせない事』じゃ! 実際は消えておらん! だから気配や足跡はちゃんと残るのじゃ! しかし、座敷童子は完全に消えよる。それこそ人間のおかしな機械を使っても見つけられない程じゃ! こいつらの能力はもう妖怪の次元では無いんじゃ! 妖怪と呼ばれておるが、実際は精霊や神と同クラスなんじゃ!」


「へー。でも、そんなことで小里は許してくれるかなぁ?」


 絵里香さんがそう言うとおり、小里ちゃんはじりじりとぬらりひょんに寄っていく。


「しっ・・・仕方ない! いでよ『ぬりかべ』! わしに力を貸せ!」


 突然砂浜が起き上がる。いや、起き上がったものは壁だった。手足は無く、中心には目と鼻、口が見える。


「どうじゃ、これが妖怪史上最強の防御、鉄壁の壁じゃ! こいつを壊すことはその怪しげな武器でも不可能じゃ! ぐわっはっは!」


 ぬらりひょんは壁の後ろに隠れて少し顔を覗かせ、ふんぞり返って笑っているようだ。しかし、僕の隣で美沙さんがつぶやいた。『魔人の一撃』と。


[ドッカーン]


 妖怪史上最強の盾は、空間の狭間から現れた巨大なこぶしにより、いとも簡単に砕け散った。


 壁が消え、姿をまた見せたぬらりひょんは、口をぽっかりとあけながら訳が分からないといった表情をしている。


「な・・・何をした!」


[ビターン]


 再度小里ちゃんの攻撃が炸裂した。しかし、まだHPは0になっていないようだ。さすが総大将!


「お・・お・・お前ら・・・。覚えておれ! 船幽霊!」


 起き上がり、海に飛び込んだぬらりひょんは、亡者と見間違うような黒い影達にさらわれて沖に向かって逃げていく。


・・・しかし、突然その動きを止めた。

「どうした船幽霊! 逃げるぞ!」


 だが、まだ岸から10mほどしか離れていないというのに、船幽霊達はそれ以上動く気配が無い。よく見ると・・・、海が先ほどより輝いて見える。波の音も消えた。そう、辺りの海面はすべて凍りついていた。


「な・・・なんじゃこりゃぁ! 凍って・・・。まっ・・・まさか!」


「初めてお会いします。雪子の娘、雪奈と申します。ぬらりひょんのお爺様の噂はかねがね・・・」


 ぬらりひょんに向けて、雪奈さんが丁寧におじぎをする。


「ゆ・・・雪子・・・の娘! 雪女一族か! どうして妖怪を超越した能力を持つ者がここに二人もそろっておるのじゃ!」


 船幽霊の後頭部をペチペチとぬらりひょんは叩くが、船幽霊達は胸の下が完全に氷の中だ。動ける訳がない。


「銀治、それ貸しなさい」


 絵里香さんは銀治君が捕まえた牛鬼の、その角を両手で握った。


「とわぁ!」


 そして、それをぬらりひょんめがけて放り投げた。牛鬼は小さな叫び声をあげながら円盤のように飛び、ぬらりひょんにドロップキックをするような形で命中した。二人は仲良く氷の上を転がっていく。


「なっ・・・何をするんじゃ! 牛鬼!」


「す・・・すみませーん・・・」


「こっ・・・こうなったら!」


 ぬらりひょんは顔を真っ赤にして氷の上に立ったが、すぐさま滑って転んで顔面を打った。


「あ・・・あやつを呼び出してやる・・・。わしをこんなに怒らした事を後悔するがいい・・・」


 鼻血を流しながらぬらりひょんはそう言った。


「いでよ! 伝説の妖怪『()(またの)大蛇(おろち)』!」


 ぬらりひょんは手を空に向けてそう言うと、慌てたように何度も転びながら氷の上を走って逃げて行く。


「エンジェルアロー」


 会長さんが弓矢を持ってその背中を狙う。放たれた矢は見事に背中の中心に刺さり、ぬらりひょんはカーリングのストーンのごとく滑って行き、氷が終わっている所で海に落ちた。


「気を失う矢をつがえましたわ。まあ、数年間は気絶しているかもしれませんが・・・オホホ!」


 しかし、僕は少し不安になった。ぬらりひょんが最後に言った言葉、『八岐大蛇』。それが本当に出てきたら非常に危ないんじゃないだろうか? 伝説ではスサノオと言う神様と戦いを繰り広げた八つの頭を持つ大きなヘビだったはずだけど・・・。いくらなんでも・・・。


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