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太郎と物の怪4

 

 次の日の朝、僕達は8時に起きてブランチのための食材を、今度は山に探しに行く。内陸部の山と違ってそれほど深くは無いようだが、あまりこのような所になじみの無い僕にはこれでもジャングルのように感じた。


「これ・・・食えるかな・・・。ちょっと派手だな・・・。毒キノコかな・・・やっぱり・・・。太郎さん、どう思うっすか?」


 銀治君は傘の開いた茶色のキノコを見せてくる。傘の外側には粉を振ったかのような白い斑点が見える。「君なら何でも食べれるよ」・・・もちろんそう思ったが、ぐっと耐える。・・・あれ、僕って段々性格が悪くなってきているような・・・。いや、こんな人たちと付き合ってきていたら誰でもこうなるよ・・・、きっと。


 とりあえずキープして、後で亡者さんに毒見をしてもらう事になった。


 茂みを抜けると川があった。ここでは雪奈・小里のゴールデンペアが漁をしている。方法はいたって簡単。川の一部分を凍らしてせき止め、そこに集まってきた魚を小里ちゃんが拾い上げていくといった手法だ。・・・え? 人間には簡単じゃないって? そうだっけ? もう僕は慣れてきたよ・・・。


 更に少し先に行くと、美沙さんが亡者共を使って地面の中から天然の自然薯を探している。すでに数本見つかっているようだが・・・。まるでどこかの採掘場のように辺りの地形が変わっていた。


僕と銀治君は先ほど見つけたキノコを亡者さんの一人に食べさせてみる。すると、泡を吹いてバタンッと倒れてしまった。・・・毒だったようだ。しかし亡者さんは一回死んでいるのですぐに起き上がり、また地面を掘り始める。すごく働き者な方々だ。・・・いや、これは魔力で強制なのかもしれない。僕が死んだ時は美沙さんにだけは使役されたくないものだ・・・。


更に進むと、今度は会長さんが食べられそうな野草を摘んでくれているようだ。・・・というかあたり構わず草を引き抜いている。僕達を見つけると、笑顔でそれを見せてきた。この世間知らずなお嬢様に「それは食べられない草です」と教える役は僕には出来ない。恐らく絵里香さんが「それは雑草だ! 役立たず!」とばかりに言うのだろう。少し泣けてきた。


まだ僕達は先に進む。ちょっと奥まで来すぎたかな? と、思ったところで、前からこちらに走ってくるような足音が聞こえた。


「太郎! 何しているのよ! 逃げるわよ!」


 絵里香さんだ。僕の前を風のように通り過ぎた。すぐ後ろから朱魅さんも現れる。その腕にはラグビーボールが抱えられている。こんな所でスポーツ? ・・・いや、ボールに見えたそれは・・・巨大な・・・ハ・・・ハチの巣・・・だ。


[ブーン ブーン]


 すぐに凶悪そうな羽音が朱魅さんの後ろから聞こえてくる。


「う・・・うわぁぁぁぁ!」


 僕も脱兎のごとく逃げ出した。


「え・・・何? どうしたんすか? 絵里香と朱魅はどうして走って行ったんっすか?」


 不幸な事に、ハチの大群に発見されたのは銀治君だった。


「うぉぉぉぉぉ! は・・・ハチだぁ! イテッ! イテッ!」


 絵里香さんと朱魅さん、そして僕は茂みから顔を出す。銀治君はまるでアフロヘアだったかのように、頭の周りにハチをまとわりつけ、走って行った。


「ハチミツゲット!」


「あら、ハチの子も結構いけるらしいわよ」


「いや・・・あの、銀治君が・・・」



 僕達がコテージに戻って食事の用意を始めた頃、またしても銀治君は半無きで帰ってきた。


「いてーよー。いてーよー。ハチこえーよー・・・」


 泣きべそをかいている銀治君を、その隣に座った亡者さんが慰めてあげている。しかしその二人がおつまみに食べている白い斑点のあるキノコは・・・たしか・・・。いや、言わないでおこう。



 食事を終え、今日は昼前にプライベートビーチに向かう。天気は雲ひとつ無い快晴。風もない。今日も気温は35℃を超えそうだ。海水浴としては最高の条件なのに、やはりビーチには人の姿は無かった。


「やっぱり誰もいないですね。何が・・・でるんでしょうか。化け物みたいなのって・・・すっごく大きなサメ・・・とか?」


「すごく大きなサメ・・・。すごく大きなフカヒレ?」


 朱魅さんは僕に向かって目をキラキラとさせている。


「一応、日本近海には人を襲うようなサメはめったに現れないって事になっているらしいですが・・・。イルカやアザラシとかもたまに迷いこんでくるくらいですから・・・ありえますよね」


「見つけたらすぐ捕獲! 生死は問わない! フカヒレの有無は問う!」


「りょうかーい」


 みんなは水着で駆けていく。ビキニがかわいらしい。小里ちゃんだけはなぜかスクール水着だ。まあ、それもかわいいんだけどね。


 今日は銀治君が一撃で砂浜にパラソルを突き立ててくれ、僕もすぐに泳いで楽しんだ。人工の砂浜でなく、ゴミも浮かんでいない。波も穏やかで、最近雨も降っていないからか透明度も高い。ちょっとくらい変な物が現れたとしても、汚れた雑多なビーチよりよっぽど気持ちが良いと思う。



 30分くらい経っただろうか。僕は海から上がり、小里ちゃんと一緒に砂で山を作り始めた。銀治君は砂浜に寝転んで体を焼いている。後のみんなは、今日は『普通の』ビーチボールを使って、腰くらいの深さのところで円になってバレーボールをしている。



 二人で作っている山が完成間近の頃、後ろで銀治君の声が聞こえてきた。


「なに? おばさん。・・・え? 預かるの? えー。俺子供苦手なんだけどなぁ・・・」


 振り返ると、白い服を着た女の人が手に持っている物を銀治君に渡そうとしている。よく見るとそれは赤ちゃんだ。


 それを見て、僕の頭によぎった記憶があった。一ヶ月前、次はどんな人が仲間になるのか敵になるのかと、インターネットで調べたことがある。そこに載っていた怪物、妖怪で思い当たる物がいた。


「海辺に現れて抱いている赤子を人に渡してくる女。そして、女が消えると、次に牛鬼の妖怪が現れ襲ってくる。赤子を抱いた人間は逃げようとするが、赤子が石になって重い上に離す事ができない。そうして身動きが取れない人間は、ゆっくりと近づいてきた牛鬼に喰われるのだ」・・・と。最初に現れる女の妖怪は確か、『濡れ女』。


「受け取っちゃダメだ! 銀治君!」


「いやぁ、太郎さん。このくらいで俺はお礼を請求しませんって!」


 良い人ですから・・・と、言いたげに銀治君は赤ちゃんを受け取り、僕に笑顔を見せてくる。絵里香さんじゃなくても彼を蹴飛ばしたくなってしまった。


「あれ・・・なんか重く・・・。うわっ・・・手・・・手が吸い付いたように離れない!」


 銀治君は、初め赤ちゃんを揺する程度に腕を動かしていたのが、ついにはブンブンと振り回す。しかし、それでも赤ちゃんは離れない。


「はっ・・・女の人は?」


 いつの間にか母親は姿を消していた。僕が辺りを見回すと、海の中から角が現れる。そしてそいつは姿を現した。頭は牛、体はクモ。体長は2mほどの大きさがある。これが・・・『牛鬼』だ! そしてそいつはお腹に響くような大声を上げた。


「ぐわぁっはっはっはー。さて、子供が重くて動けない人間を食べてしまおうかぁ!」


 しかし銀治君は、手から離れない赤ちゃんが相当気持ち悪かったのか、少しも牛鬼を見ようとしなかった。


「何これ! 石みたいに固まった! きもっ! 気持ち悪い! はっ・・・離れろ! きもいよぉぉぉぉ!」


 そして・・・・・・赤ちゃんを振り回しながら砂浜を遠くまで走っていった。それを静かに見送っていた牛鬼だったが、突然驚いた声を上げる。


「なっ・・・なぜだ! どうしてあいつは動けるんだ! 赤子は100kgにはなっていたはずだぞっ!」


 予定通りにならなくて困った牛鬼。僕にどうして良いか分からないといった表情を見せていたが、意を決して銀治君を追って行った。初めて走ったようで非常に遅かった・・・。


「あれ・・・だったのかな? 近隣の人達が言っていた海に現れる化け物みたいなの・・・って?」


 小里ちゃんは製作中の砂山にしか興味がないようで、僕に向かって少し首を捻ると、今度は山にトンネルを開けようとしている。銀治君は大丈夫だろうと言うことで、僕もそれを手伝おうとかがんだ。すると、すぐそばの波打ち際に黒っぽい緑色の繊維状の物が流れ着いていた。


「ワカメ?」


 僕はそれを手に取り、立ち上がった。ワカメというよりは細く、モズクみたいに見える。僕はそれを巻き取りながら辿ってみることにした。ひょっとしたらとても美味しいものかもしれないと思ったからだ。


それを辿る・・・辿る・・・。もう手に抱えられないくらいになったので、それを輪にしてロープのようにして持ち、また辿る・・・辿る・・・。ようやく終点のようで、その繊維状のものは水の中に沈んでいる白い物体から伸びているようだ。


「う・・・うわぁ!」


 その白く見えたのは顔だった。僕が腰を抜かして座り込むと、代わりにそれは立ち上がった。顔からすると女の人。ワカメかと思った長い物は髪の毛。これは・・・確か海の妖怪・・・。『磯女(いそおんな)』だ!


「だっ・・誰か・・もがもが・」


 さっきまで手にしていた海草のように静かだった物が、一斉に意思を持っているかのように動き出した。それは僕の体を縛り、口を塞いだ。近くにいた小里ちゃんを見るが、僕にお尻を向けて一生懸命に山に穴を掘っている。


(たすけてー)


 声は出ないが必死に祈った。しかし、海に引きずりこまれようとしている僕に誰も気が付いていないようだった。


 僕の体を縛っている髪の毛がおかしな動きを見せた。毛先を立てて、僕の体を探るような事をする。


―ブスッ―


(うっ!)


 全ての髪の毛の先端が僕の体に刺さった。痛みは大したことが無かったが、確か磯女はその髪の毛から人の生き血を吸うはずだ。


(そんな・・・。屈強なメンバーの中で、一番ひ弱な僕を襲うなんてずるいよ・・・)


 僕はもうダメだと思った。その時・・・。


「何してくれてんのよっ!」


「うわっ!」


 僕の体からすべての髪の毛が引きちぎられた。この鋭い爪は・・・そしてこの怪力は・・・。


「私の非常食から勝手に血を吸うんじゃないわよ!」


 絵里香さんだった。彼女は何か言いたげな磯女の顔に問答無用のパンチをいれた。


[ピュ―――――・・・・ポチャ]


 遥か遠いところまで飛ばされた磯女は、情けない音を残して海に消えた。


「ああ、もったいない・・・」


 少し血のにじんだ僕の体を絵里香さんは舐めようとしてくる。それを必死に阻止しながら僕は言った。


「やめて・・・、で・・・でも・・・ありがとうございました・・・。よ・・・よく気が付いて・・・。は・・離れてください・・・。よく気が付いて・・・くれましたね・・・」


「だって、おいしそうな血の匂いがしたから・・。ちょっとだけ吸わせて。もう我慢できない・・・」


「き・・・昨日吸ったでしょ・・・。はっ・・・離れて・・・」


 押し合いをしている僕達のそばへ、近寄ってくる大きな影があった。


「何してんすか?」


 振り返ると、顔は牛、体はクモの牛鬼・・・にまたがった銀治君の姿があった。牛鬼の頭には大きなたんこぶがいくつも出来ている。


 僕はのんきな声を出していた銀冶君に当然尋ねる。


「大丈夫だったの? 赤ちゃんが両手から離れないのに・・・どうやったの?」


「いやぁ、赤ちゃんが石のようになってビックリしたところ、この変な奴が俺に襲い掛かってきたから・・・固まった赤ちゃんで殴ってやったっす! なんなんすか、こいつは」


 頑張れ日本妖怪! 僕はちょっとそう思ってしまうところがあった・・・。


「たぶん・・・この妖怪達がここで暴れてた『ばけもの』なんだと思う。このビーチから人を追い払った張本人かな?」


「そなんすか。おい、お前! どうしてそんなことやったんだ?」


 すでに赤子は牛鬼に回収されたのか、銀治君は赤ちゃんがいなくなった手で、ゴチンと牛鬼の頭を殴った。牛鬼は8本の足の内の一本で頭をさすりながら涙声を上げる。


「あんたらこんな事してただじゃすまんぞ・・・。我々は今この地にバカンスに来た総大将の手下・・・。総大将を相手にしたくなければ今すぐここを離れた方が・・」


「ヌオオオーン」 


 その時、僕達の目の前で急に水面が盛り上がった。そして、海の中で遊んでいた朱魅さん達のすぐそばにそれは姿を現した。高さはざっと10m。黒く丸い頭をもつ全身真っ黒の大男だ。


「ほら出た! 海坊主だ! 奴の力は船を沈める程だ。わしの比じゃないぞ! あの女子(おなご)どもはあっという間に海に引きずり込まれてしまうぞっ!」


 銀治君のお尻の下にいる牛鬼がどうだと言わんばかりに叫んだ。


「亡者、やれ」


 その海坊主に海から湧き出てきた数十、数百の亡者が取り付いた。


「ヌオオオーン」


 出てきた時と同じ雄たけびを残し、海坊主はあっという間に海に引きずり込まれて消えた。そして、朱魅さんや美沙さん達は何事も無かったかのようにビーチバレーを再開した。


「あれで終わりか? ・・・返事しろ!」


 また銀治君にげんこつを食らった牛鬼だったが、僕達に向かって口をパクパクとさせているだけだった。


「待ってよ。総大将って・・・あの有名な妖怪? 他にまだ仲間連れて来ているのかな?」


 僕がそう聞くと、ようやく牛鬼は声を出す。


「も・・・もちろんだ! 我々は下っ端。幹部はとてつもないぞ・・。逃げたほうが・・。いや、それよりお前達は一体なんなんだ? その力・・・、とても人間には見えんが・・」


 牛鬼の話が終わる前に、海の中から緑色の生物が飛び出てきた。


「河童様だ! それに、天狗様だ!」


 牛鬼は空を見上げている。そこには白髪で、真っ赤な顔と鼻を持つ天狗が浮いている。


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