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太郎と物の怪3

 午後6時。まだ暗くはなっておらず、気温も下がっていなかったが、僕たちは腹ペコと言うことで宿に帰ってきた。旅館やホテルといった物ではなく、貸しコテージと言うものだ。中はいたって普通の別荘のようであり、見事なキッチンも備えていて他の客に気兼ねする事無く過ごせる。


「ごめんね、僕、貝ばかりで・・・」


 食材は現地調達ということで僕もそれらしく一応海にも潜ってみたが、みんなのように魚を捕まえられるわけも無く、それどころか浅瀬でバチャバチャと下手なシンクロナイズドスイミングのように空に向かって足を動かしていただけだった。


仕方なしに僕は岩場にくっついている貝を拾ってきた。彼らは僕の手にも捕まえられる程ノロノロとした動きなのだが、もちろん、サザエと言うわけでもない。小さく黒い貝だ。


「大丈夫っすよ! これ酒の・・・じゃなくて、ジュースのあてにすっごくいいんすよ! それに太郎さんの分は俺がちゃんと捕まえてきました! 結構深いところにいたんすよ、このカレイ! 他にも・・」


「ちょっと銀治! タコくっつけないでよ! 気持ち悪いでしょ!」


「でも食うんだろ?」


「から揚げと刺身よ!」


 それでも銀治君や絵里香さんはメンバーの中でも食料を多く集めた方では無かった。準優勝は小里・雪奈ペア。雪奈さんが海を凍らせ、その中に閉じ込められた魚を小里ちゃんが凄まじい勢いで掘り返して集める手法だ。しかし、その上の優勝は美沙さん。召喚した亡者達を鵜飼いの『鵜』のように操って海中から魚を集めてくるのは圧巻だった。


 かなり大型のキッチンだったがとても間に合いそうにも無く、僕たちは庭を使ってのバーベーキューも同時進行させた。意外に網の上で焼いた僕の集めてきた貝は人気で、暗くなったというのに、追加で銀治君が集めに行かされる程だった。


「ぷはぁ! くぅー! たまらん!」


「絵里香さん・・・それってビール?」


「それが違うのよ太郎! ビール買おうとしたら実花の奴がノンアルコールじゃないとダメって言うのよ!」


「当たり前でしょ! 生徒会長の前でアルコール飲料を買おうとするあなた、どうかしてますわよ!」


 なんだかんだ言いながら、二人で飲み物を買いに行った絵里香さんと実花さん。結構仲が良かったりする。


そこへ銀治君がバケツに山ほど貝を入れて戻ってきた。さすが夜目と鼻が利く狼。しかし、顔がなにやら曇っているようだ。貝を拾わされに行ったことが不満というわけじゃないと思う。だってそれはいつもの事だから。


「今地元のじいさんに会ったんだけどさ、変な事聞いちゃったんだよ。海水浴客がいない理由。一ヶ月くらい前から海に変なものが出るらしいんだってさ」


「変なものって何よ?」


 絵里香さんは銀治君からバケツを取り上げて、そのまま貝を網の上に転がす。


「んー・・・。ばけもの? みたいなのって言ってたかな?」


「ばけもの?」


「えー、こわいですぅ!」


「不気味な所だな」


 冗談なのか本気なのか、不安そうな表情を浮かべるみんな。あんた達が言うな! ・・・僕はとても突っ込みたかった。


「これは・・・決まりだなっ!」


 突然そんな事を言ったかと思うと、タコの丸焼きを頭からかじりながら朱魅さんは嬉しそうな顔をしている。


「何がですか?」


「『ドキッ! 女だらけの肝試し大会 プラス男二人』開催決定だ! 実はこの近くに墓地があることは調べがついている!」


「うそ! 本気なの? 朱魅!」


「幽霊怖いですぅー!」


「な・・・何か出てきたらどうするつもりだ!」


・・・だからあなた達が言うなって・・・。  

 

 

 夜の10時。食事を終えた僕達は、コテージから歩いて500mほど離れた墓場に来ていた。ここは田舎と言うことで、老人が多いからか近くの住民はすでに寝静まっているようだった。


「この辺りはその昔、土葬なども行われていたところだ! 今でも・・・地中には人骨が・・・」


「ふっふっふ。朱魅、怖がらせようとしても無駄だぜ。火の玉なんて食ってやるぜ!」


 銀治君は大きな口をお墓に向かって開きながらそう言うが、なぜかすでに獣人化している点と、膝が笑っている点は見逃せない。


「肝試しと言えば・・・ペアだけど、ちょっと男がパッとしないわねぇ」


 絵里香さんは僕と銀治君を見ながら首を捻っている。


「へんっ! こっちだってなぁ、ろくな女がいなくて困る・・」


 女の子達全員が銀治君を鋭い目で見ている。


「・・・きっ・・・綺麗な人ばかりで照れて困っちゃうぜ!」


 正解だ銀治君。お化けに出会う前に君はバラバラにされるところだったよ・・・。



「じゃあ行ってくるね。墓地を右回りに一周して戻ってくる。行くわよ、銀治」


 絵里香さんと銀治君は二人で暗闇に向かって歩いていく。ペアを決めるくじ引きのような物は無いので、まあこうだろうと言うようなペアに分かれた。次は小里ちゃんと美沙さん。その次は会長さんと雪奈さん。最後が、僕と朱魅さんだ。


ほとんど街灯がないこの墓地、すぐに絵里香さん達の背中は闇に紛れて見えなくなった。それから3分ほどして小里ちゃん達が出発、その三分後に会長さん達、そしてその後に僕達が出発した。


「みんな・・・この道見えたんですかね・・・」


 大げさではなく、まったく見えない。目の前に墓石が突然現れるといった感じで、横にいる朱魅さんの表情もわからないくらいだ。夜に本領を発揮する吸血鬼の絵里香さんや、犬と同じ夜行性な銀治君は問題ないのだろうが・・・。いや、魔王や天使もこのくらい大丈夫な気がする。もしかして、見えないのは僕だけじゃないだろうか・・・。


「・・・・」


 朱魅さんはどういう訳かまったく喋ってくれない。日ごろあんなに元気なのに・・・。僕を怖がらせようとしているのだろうか・・・? 何か男のプライドのような物が僕にもあったらしく、「喋ってくださいよ」とは言い出せない気分だ。


「うっ・・・」


 なにやらひんやりした・・・、寒気のようなものを感じてきた。それとは間逆になる生暖かさも感じる。近くに何かいるような気配がする。


 朱魅さんはうつむき気味で歩いている。長い内巻きの髪の毛が顔にかかり、表情はまったく見えない。


(ひっ・・・)


 目の前に不思議な現象が起こる。それを見つけた僕は声が出なかった。肺が・・・横隔膜が痙攣したのような感じだといったら良いのか。本当に怖い時は声が出ない。まさにそのとおりだ。


 僕達の少し先に・・・火の玉が浮かんでいる。ひとつ・・・ふたつ・・・みっつ・・・。


「しゅ・・・・朱魅さん・・・」


 ようやく小声ながらも声を絞り出せた。しかし、朱魅さんは僕の方を向いてくれる気配が無い。僕はもう一度名前を呼ぼうとした。


「しゅ・・・あ・・・う・・・」


 突然体が動かなくなった。前に進まない。足もあがらない。体中に重りが付いたかのようだ。


「た・・・たすけ・・・」


 僕は腕を伸ばし、真横にいる朱魅さんの肩を掴もうとした。すると・・・手が触れたとたん、朱魅さんは前のめりに倒れた。


「う・・・うわぁ!」


 そして、朱魅さんの頭は首からはずれ、ころころとボールのように転がり止る。そして、その瞳はじっと僕を見つめ続けていた。


「しゅ・・・う・・・うわっ・・・うわぁ!」


 僕の首に白い手が後ろからかけられた。それは、死者を思わすような冷たさだった。そして、僕の耳に吐息がかかる。その唇は僕の首筋を舐め、ゆっくりと吸い付いてくる。


「おばけだぁぁぁぁ!」


 しかし、僕にはそう叫ぶことしか出来なかった。体は重いし、何より段々と気持ち良くなり頭がボーっとしてくる。これが魂を吸い取られている状態なのだろうか・・・。


「も・・・もうそろそろやめてあげても良いのじゃありません?」


 突然周りが明るくなった。


「銀治君よりは楽しませていただきました」


 墓石の向こうに雪奈さんが見える。良く見れば、やめてあげろと言って僕を光で照らしているのは会長さんだ。


「銀治さんはすぐ気絶したからつまらなかったです!」


 僕のすぐそばに小里ちゃんが現れた。


「仕方ないな。亡者共、離してやれ」


 よく見ると僕の体に取り付いていたのは美沙さんの親衛隊、地獄の亡者達だ。


「えー。もう終わりか。太郎、ちびったか? ちびっただろ?」


 地面に転がったままの朱魅さんの頭は嬉しそうに笑う。それを体が拾い上げ、首の上にはめ込んだ。


「もがもがっが!(もうちょっと)もがもがっが!(もうちょっと)」


 ぼんやりした頭で横を見ると、首に噛み付いてフガフガ言っているのは絵里香さんだ。・・・って!


「ちょ・・・ちょっと! 絵里香さん! ドサクサにまぎれて血を吸っているでしょ!」


 僕が手足をばたつかせると、ようやく絵里香さんは僕を離してくれた。


「太郎の血は甘いのよね。くせになりそ・・・」


「くっ・・・くせにならないでください! もうあげませんよ! 通りで頭がボーっとすると思ったら・・・」


 周りを見回すと、全員そろっているようだ。いや・・・銀治君は? ・・・あ、少し先の墓石の横で倒れている。


「火の玉は会長さんですか! 寒気は雪奈さん! 生暖かい空気と人の気配は小里ちゃん! 金縛りは美沙さん! 襲ってきたのは絵里香さん! ・・・って、朱魅さんはどうやって頭を外したんですかっ!」


「いや、これはちょっと空間をずらして・・・。・・・ちびったか?」


 朱魅さんは覗き込んで僕にその大きな目を見せてくる。


「ちびりませんよ!」


 そういいながら、僕はもう一押しされたら危なかったかも・・・なんて思っていた。


 ぷりぷり怒って宿に向かう僕の後ろで、みんなは『お化け屋敷で一儲けできるかも』と、話し合っている。コストがかからないから安く出来るが、あまりにも怖すぎて苦情が出るんじゃないかと思う。だいたい、全員ごまかし無しの本物ばかりだし。亡者なんて普通の人が見たら発狂コースじゃないかと思うし・・・。



 僕達はコテージに帰り、用意していた手持ち花火でひとしきり夏を満喫し、日が変わる頃に就寝した。


・・・・・あれ、なんか忘れているような・・・。



「ぎょわぁぁぁぁぁ! みんなどこ行ったんだよぉぉぉぉ! いつまで肝試し続けてるんだよぉぉぉお!」


 丑三つ時、墓地で目を覚ました銀治君は泥まみれの半泣きで帰ってきた。




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