太郎とかつあげ5
学校に入ると、門の見える位置に人が立っており、その人は僕たちの姿を見るとどこかへ向かって走っていく。熱烈な歓迎が無く寂しそうな顔をする銀治君だったが、程なく、制服を何故か好みの形に改造なさった悪そうな方々が姿を表した。1・2・3・4・・・・数えてみると大体20人前後だった。
「なんだぁ? 大谷の奴らが報復しにくるって聞いてたけど・・・。一人だけかぁ?」
彼らの目は銀治君に向いている。幸か不幸か、僕は女子生徒共々人数に入っていないようだ。
「まあそう言うことだ! 今日はファンクラブを引き連れて来たナイスガイの俺が一人でやるっ! やるっ! やるからっ!」
銀治君は川西のヤンキーに向かって言うんじゃなく、僕達へ向かって言っている。最近活躍の機会が無いから目立ちたいようだ。
「1対20で勝てると思っているのか? ・・・それじゃあ、お前をやった後は・・・その女の子達をもらっていいって事になるのか?」
「かまわん!」
銀治君は即答だ。すぐに川西の生徒達は円陣を組んで何やら話し合っている。
「俺はあの背の高い黒髪の子が・・・」
「俺はあの小柄な・・・」
時には胸倉をつかみ合って争っている。まさに取らぬ狸のなんとやら・・・。
「それじゃ、アンケートをとるぞっ! いいかっ! お前らっ!」
朱魅さんが突然突飛なことを言い出した。しかし、川西の生徒達は目を輝かせてそれに従う。結果は・・・。
朱魅4票、絵里香2票、小里6票、美沙4票、実花4票・・・だった。
「ちょっとっ! どうして私が2票なのよっ! ええっ! こらぼんくらどもっ!」
烈火のごとく怒っている絵里香に会長さんは冷ややかな視線を送っている。
「今年の一年生は粒ぞろいですわね。絵里香の時代は終わりって事ですわ。まあ、わたくしはまだまだ大丈夫のようですけど! オホホ!」
絵里香さんは今にも川西の生徒達に飛び掛らんばかりだ。会長さんを連れてきていた良かった。もしいなければ・・・彼らは絵里香さんにどうされていたか分からない所だ・・・。
「ぎ・・・銀治君! 手加減してあげてね!」
僕は絵里香さんが何かをする前に、銀治君の背中を叩いて急かす意味で言った。
「おっ! 太郎さんのその言葉、遠まわしにぼこぼこにして来いって事っすね!」
「えっ? い・・・いや・・・」
銀治君は川西の生徒達へ向かって走っていく。すると彼らは、手に持っていた角材や鉄パイプ、金属バットを振り上げて向かい撃つ。しかし、僕の目にはボーリングの球がボーリングのピンへ突っ込んだように見えた。ボカーン、ストライク! これが的確な表現となると思う。
ちぎっては投げ、ちぎっては投げをする銀治君だったが、やはり会長さんが見ている手前、手加減をしてくれているようだ。獣人化していない銀治君だというのに、ものの数分で川西の生徒は全員地面に寝そべった。目が覚めたとき、折れ曲がった鉄パイプや金属バットを見て、もう大谷の生徒に手を出すことは諦めると思う。
「待ってくれ! 俺達も・・・やりすぎたとは思ってる! だけど・・・ノルマが・・・」
最後の一人を捕まえて、銀治君はこぶしを振り上げながら情報を引き出している。銀治君は大谷高校に入れた狼男だけあって、なかなか頭が良いのだ。
「瑠使亜って人ですか? その人がノルマを、命令したってことですか?」
僕は昨日彼らの間で上がった名前を出してみた。彼は銀冶君に掴まれたまま、空中で足をバタつかせながら頭を振る。
「そ・・・そうなんだよ。今年入った一年なんだけど・・・。もうここの番長だっ!」
「ぷっ・・・・」
僕を含めて全員笑い出す。銀治君に捕まっている生徒はどうして笑われているのかまったく分かっていない様子だ。
「じゃあ・・・その・・・ぷっ・・・。番長はどこにいるんだよ!」
銀治君は緩んだ顔でドスを利かせようとするが・・・エビスさんにしか見えない。
「体育館! その用具倉庫で四天王とたむろっていると思う・・・」
「でたっ! しっ・・・四天王!」
僕達はみんな膝を地面につき、お腹を抱えて笑う。手を離された川西の生徒は首を捻りながら校舎の方へ駆けていった。
数分後、一番笑い転げていた会長さんがようやく治まると、僕達は体育館へ向かう。川西高校はあまり部活が盛んと言うわけでは無さそうで、グラウンドにはわずかな生徒。他の人たちはすでに帰ってしまっているようだ。おそらく、バイトなどで忙しいのだろう。
学校内と言う事でそれほど離れていなく、少し行って校舎の陰を曲がるとすぐに体育館の入り口が見える。しかし、その前に男が二人立っていた。
「二人とは余裕だな」
銀冶君がそう言った後ろで小里ちゃんがつぶやく。
「たぶん・・・玄武と白虎ですよ!」
「いやいやいや、グリーンとイエローよ!」
絵里香さんもそれにのっかって笑っている。
「じゃあ、また俺がちょちょいってやってきます!」
銀冶君は腕を回しながら四天王と思われる二人に向かって行った。
「あーらよっと」
銀冶君はゆっくりとしたモーションで振りかぶり、そのこぶしを振り下ろす。しかし、小さなうめき声を上げると僕達の方へ吹っ飛んできた。
「な・・・なによ?」
僕達に向かって一直線に飛んできた銀冶君を、絵里香さんは回し蹴りで吹き飛ばした。銀冶君は直角に曲がり、横にある校舎の壁に叩きつけられた。それも壁にひびが入るほどの威力で・・・。
「あいつら・・・。よくも銀冶を!」
「あの・・・絵里香さん・・・。あなたが蹴り飛ばした攻撃のほうが数倍すごかったと思うんですけど・・・」
やられてしまった(誰に?)銀冶君に続いて絵里香さんが四天王へ向かおうとする。
「ま・・・待て・・・。まだ俺のターンだ」
銀冶君はふらふらと立ち上がった。額に手を当てながら千鳥足だ。
「すげー威力だったぜ・・・。まだ頭がボーっとしてやがる・・・」
銀冶君・・・なんて君は健気なんだ。その攻撃は、実は八割がた絵里香さんのキックなんだよ・・・。
「ちょっとこのままだときついぜ。変身するぜ! 小里、来い!」
銀冶君は小里ちゃんを呼び寄せ、二人で木の陰に入る。そしてそこから姿を現したのは瞳が青色の銀色の毛を持つ、身の丈2m半の銀色の狼だった。
「なっ・・・なにそれっ!」
もちろん驚いたのは会長さんだった。しかし、すぐに絵里香さんがフォローする。
「銀冶は小里と合体する事で狼男になるの。あの着ぐるみの中で小里を肩車しているのよ」
「な・・・なるほど・・・。でも・・・肩車? それって・・・強くなってるの?」
会長さんは半信半疑だが、狼男が実在するよりはそっちのほうを信じたようだ。小里ちゃんは銀冶君と合体した振りして、姿を消したのだろう。そしてよく見ると、木の枝に脱いだ銀冶君の制服がかけられている。さすがはどんな時でも一番怖いのは彼のママのようだ。
「いくぜ! 狼パーンチ!」
走り寄り、繰り出された銀冶君のパンチは四天王の一人に当たった。しかし、人間なら十メートルは吹っ飛ばされるはずなのに、彼は後ろに数歩下がっただけだった。
「んだこいつ! すげーおもてー!」
銀冶君はそう言いながら距離をとった。
僕は猛烈に嫌な予感がした。すぐにそれは的中する事になり、その二人の四天王は顔を歪めて笑い出した。同時に体も歪みだし、見る間に大きくなる。
「また・・・モンスター?」
彼らは銀冶君より大きくなり、その姿は岩で作られた乱雑な石像。まるで・・・土くれや石に魔法によって命を吹き込まれた生命体、ゴーレムのようだ。
「なっ・・・なにあれ・・・あれも・・・着ぐるみ?」
「最近、銀冶も含めてヤンキーの間で着ぐるみがブームなのよ・・・」
絵里香さんの言葉にまたもや納得する会長さんだった。
銀冶君の繰り出す攻撃をゴーレムは避けもしない。彼らは腕を振り回し、それに当たった銀冶君は壁まで飛ばされる。
「まずいわね・・・」
「まずいですよ! 銀冶君やられちゃいますよっ!」
絵里香さんに続いて僕もそう言う。
「いえ、このままじゃ銀冶はマジ切れモードになるわ。そうすると、まあ朱魅や美沙は大丈夫だろうけど、無差別攻撃で太郎や実花まで怪我しちゃうかもしれない。早めに体育館の中へ入りなさい。私がサポートするわ」
僕達は、絵里香さんの誘導で銀冶君の近くにいるゴーレムに気が付かれない様に距離をとって走り、体育館へ向かう。殴られている銀冶君が心配だったが、僕達は無事に体育館前に来ることが出来た。
「ここは私に任せて。銀冶を助けてくるわ。あなた達は中で瑠使亜ってのを探しておいて」
僕達にそう言うと、絵里香さんは銀冶君の下へ向かう。近づかれた事をゴーレムは感じ取り、振り返りながらその太い腕を振り回した。それを絵里香さんは腕を上げてガードする。しかし、「バキバキ」と骨が砕けるような音と共に吹っ飛ばされた。起き上がった絵里香さんは瞳が真っ赤に燃えていた。
「痛ったいわねぇ! 無機物の分際で! この悪魔伯爵の娘に手をあげるなんざ、100億年早いのよっ!」
銀冶君が切れる前にブチ切れたのは絵里香さんだった。腕から蒸気が立ち上っている。すでに骨の再生が済んだようだ。来る・・・絵里香さんの18禁モードだ。
「さあ、会長さん中へ行きましょう!」
「えっ・・・。でも、絵里香今怪我しませんでしたか?」
完全にバンパイアと化した絵里香さんを見せる訳にはいかない。僕と朱魅さん、美沙さんと会長さんは扉を開けて体育館の中へ入った。




