太郎とかつあげ3
川西高校は、大谷高校から見て西側。川を挟んだ反対側だ。その途中に昔ながらの商店街があり、そこは大谷高校の生徒達もよく通う所だ。駅やもっと新しくて大きな商店街は、川の東側、大谷高校周りにあるのだが、川西高校近くにある古くからある商店街はなじみの店や学生に特別安くしてくれるお店などもあり、クラブをやっている生徒には人気がある。
僕達は川にかかっている橋を渡り、その噂の昔風の商店街に入った。もちろん、入学してさほど経っていない僕はここに来るのは初めてで、想像していたよりお店は綺麗だという印象だ。商売っ気も上々のようで、『SELE』と言うのぼりまで見える。画材屋の中には大谷高校の女子生徒の姿が見え、スポーツ用品店には男子生徒の姿も見える。
「この辺りで被害が多発しているって事ですけど・・・。川西の生徒の姿は、今のところ見えませんね・・・」
「なるほど。太郎は自分と私を囮に使う気なんだなっ?」
「一応、そのつもりだったんですけど・・・」
商店街は平和な様子を呈していた。スポーツ用品店にいた男子生徒達も、買った商品を下げて無事に帰って行く。
「どうしましょ。もう少し川西高校へ近づいて・・・」
立ち止まって顔をキョロキョロと動かしながらそう言う僕。その目に、動く影が映り、それは建物の陰に消えた。
「朱魅さん、あそこに誰か・・・」
「いるな! あれは確か、生徒会長と一緒に来ていた男と女だぞっ」
朱魅さんは、相手が見えないと言うのに、どうしてかその存在を確実に分かっているようだ。
「つけられていた・・・って事ですね。これじゃ、派手に動けない・・・」
その時、二人が消えた方から物音と、小さな悲鳴が聞こえてきた気がした。
「今の音・・・」
何かトラブルでもあったのだろうか。隠れた拍子に物に躓いてこけたとか・・・。彼らを撒くなら今かもしれない・・・が・・・。
僕達は音が聞こえてきた建物の陰に向かって様子を見に向かった。
角を曲がると、さらにその先、脇に入った横の路地から声が聞こえてくる。弱弱しい、僕と同じ種類の人の声だ。足音を立てないように近づいて覗き込むと、めがねをかけた色白の男の子が胸倉を掴まれて爪先立ちになっている。相手はブレザーではなく、学ランを着ている高校生が三人いる。もちろん、川西高校の生徒だ。このように目立たないように路地に連れ込んで恐喝をしていたんだ。
「や・・・やめてください」
めがねをかけた女の子がそう言う。この子は確か、一番初めに、僕が一人っきりで部室にいるときに訪ねて来た子だ。
「いいカメラ持っているじゃないか。まずはこれをくれよ」
川西の生徒はカメラを取り上げようとする。しかし、めがねの男の子は首から提げているカメラの紐を押さえて渡そうとしない。
「こっ・・・これは・・・、生徒会の備品でして・・・」
「いいから貸せって! おい! こらっ!」
無理やり取り上げようとした川西の生徒の手からカメラがこぼれた。それは地面に落ち、レンズが根元から取れた。カメラに詳しくない僕にも分かる、そこは取れてはいけない部分のはずだ。
「ちっ・・・。これで売れねぇじゃねえか。素直にお前が出さないせいだ!」
川西の生徒は転がっているカメラを蹴り飛ばす。 壁にぶつかったそれはもう傷だらけで修復は困難に見えた。
「お前たち、その辺にしておけ!」
そこに救世主が現れた。姿を現した男は、めがねの男女にも負けないひ弱そうな生徒。そう、僕だ。 ・・・・って朱魅さん! 僕を建物の陰から突き飛ばしたあげく、声色を使って僕のセリフを勝手に作らないで!
「何だお前。こいつらの仲間か? 一緒に募金でもしてくれるのか?」
川西の生徒たちは笑う。当然だ。これこそまさに『かもねぎ』状態。勉強になるなぁ。
「あの・・・・」
突然現場に降り立った僕、急に言葉は浮かばない。そんな僕の横でまた朱魅さんが建物の陰に隠れながら、嬉しそうな顔で勝手に僕のセリフを言う。
「私は大谷高校の影の番長。うちの生徒に手出しをすることは許さん!」
やーめーてー。何が嫌って、その『番長』ってフレーズだけはゆーるーしーてー。朱魅さんも分かって言っているようで、顔を赤くして口元を押さえている。
「お前が番長? まあこんな細い奴らばかりの学校ならそれもありえるかもだよな」
川西の生徒は近づいていて、僕の制服の胸倉を掴んだ。
「ちょっ・・・ちょっと待ってください! 最近、このあたりで・・・その、、募金活動をしているのはあなた達なんですか?」
僕は気を失う前になんとか情報を一つだけでも手に入れておこうと、勇気を振り絞って言った。
「さあな。・・・しらねぇって言いたいところだけど、全部俺たちのせいにされるのも嫌だしな。俺らだけじゃねえって事は言っておくか」
男はこぶしを振りかぶっている。しかし、突然奇妙な事が起きた。その彼がゆっくりと僕に向かって腕を突き出してくるのだ。まるでスローモーション。わざと僕を威嚇するためにそうしているのだろうか? とは言っても、段々と僕の顔に近づいてくるこぶし。それを顔に受けるのも嫌なので、僕は手で軽くそれを押してずらす。すると、その人はバランスを崩し、僕とすれ違うように右によたよたと歩いていく。もちろんすべてスローモーションで・・・。
「てめえ!」
すぐに他の二人が目の前に迫ってきた。今度は普通のスピードで。やはりさっきのスローモーションは何かの冗談だったのだろうか? そう考えた瞬間、二人の動きがまたゆっくりになった。前の一人がまた右手で殴りかかってきたので、僕は危ないし怖いので、両手でぽんと彼を横に押した。その人が尻餅を付くと、後ろの人が僕に向かって足を上げて蹴ってこようとする。僕の制服がよごれちゃ嫌なので、その足を掴んで手前に引っ張る。すると、その人は驚いたようにぽっかりと口をあけて仰向けに倒れた。
「たっ・・・・達人だっ! 何の格闘技かわからないが、こいつは達人だ!」
川西の三人は立ち上がると、顔を引きつらせながら逃げていった。僕の目から見ると、まるですべて台本どおり、演技だったかのようだが・・・。逃げていく彼らの顔は本気の表情だった。もしかして・・・これは朱魅さんの能力では・・・。
「朱魅さん! 追いましょう! 後をつけて仲間達がいるかどうか調べましょう!」
振り返ると、朱魅さんはメガネをかけたうちの生徒にカメラを手渡していた。それは傷一つ見えないようなピカピカのカメラだった。
「壊れてなくてよかったな!」
朱魅さんは笑顔でそう言い、僕の前を横切って川西の生徒たちの後を追う。もちろん僕もそれについて行く。
川西の生徒たちは路地を走り抜けると、ゆっくりと歩き出した。僕たちが後をつけていることには気が付いていないようだ。どうやら、方向からして自分たちの学校、川西高校へ向かっている様子だ。
「朱魅さん、さっき殴りかかられた時、彼らの動きが遅く見えたんですけど・・・。あれは朱魅さんがやったんですか? カメラを直したのはいつもの事ですけど」
「ああ、そうだ。私は時空を操る事が出来るからな。時間を緩めたり早めたり、カメラを壊れていない状態に戻す事も簡単だ」
「じ・・・時空? 時と空間ですか・・・。な・・・なるほど・・・」
もうこの人達は一体なんなんだ。確かに、今まで教室の窓や机、壁が壊れてもすぐに直っていた理由は分かった。分かったが・・・その力が理解できない。・・・まあ、いつもの事なので・・・深くは考えないでおこう・・・。
思っていた通り、彼らは学校に入った。誰もいない事を確認すると、僕たちもそっとついて入る。彼らは体育倉庫の裏をたまり場にしているようで、ほかにも数人の生徒の姿が見える。
「わけわかんねーよ。すげー弱そうなんだけど、おかしな技を使ってきたんだ」
「大谷は部活が盛んだから・・・格闘系の黒帯とか出てきたんじゃないか?」
そんな事を川西のヤンキー達は話している。格闘系の部活ならまだよかったのにね・・・。残念、うちの部は手がつけられない人ばかりだから・・・すぐに降伏したほうがいいよ。そう彼らに教えてあげたかった。
「とりあえず、瑠使亜さんに報告しておこうぜ・・・」
「まあどんな奴が来ても四天王には敵わないだろうけどな・・・」
彼らは大真面目な顔をしてそんなことを口に出した。・・・・四天王だって? まさか・・・。そんな・・・。恐ろしい・・・。四天王・・・、そのような言葉をまだ使っている人がいたとは・・・。おそろしい・・・。
「ぷっ・・・ぷぷぷぷ・・・・。し・・・四天王って・・・・。番長って言葉より面白い・・・」
おわっ! 僕は何とか堪えたというのに、朱魅さんは無理だったようで吹き出した。気持ちは良く分かるけども・・・。ダメだ・・・。いったん堪えたというのに・・・。朱魅さんが笑っているのを見ていると・・・・・・・。
「誰だ!」
一斉に僕たちに目が向く。そこにいたのはお腹を抱えて笑う大谷高校の制服を着た男女、僕と朱魅さんだった。
「し・・・四天王・・・。ぷぷぷぷ・・・・」
「な・・・何がおかしい!」
つぼがまったく違うようだ。その昭和な感性がより笑いを誘う。
「すまんが、その瑠使亜という奴と・・・ぷぷぷ。四天王にちょっと会わせてくれ!」
言い終わった後、朱魅さんは大笑いだ。
「ダメですよ・・・。ぷっ・・・あはは! 今日は偵察なんですから・・・くっ・・・くくく・・・」
「こいつだ。さっきおかしな技を俺達に使った奴は!」
僕たちはすぐに囲まれた。しかし・・・。危ないというのに・・・お腹が・・・力が・・・。
「そ・・・それでは、明日また来るから・・・・。是非四天王を集めていてくれ! 絶対だぞっ! ぷぷっぷぷぷぷ・・・」
朱魅さんが指を鳴らすと、僕達はいつの間にか川西高校と大谷高校の中間地点にある川に架かっている橋の上に立っていた。
「すごい・・・便利な能力ですね・・・」
僕は目の前から昭和ヤンキーがいなくなったせいでようやく笑いが収まり、朱魅さんの顔を見ながらそう言った。
「まあ、そうかもしれないが、あまり多用すると怒られるんだ」
朱魅さんはそう良いながら学校へ向かって歩き出す。僕はその後ろについて行く。怒られる? ・・・一体朱魅さんは誰に怒られると言うんだろう。銀冶君のようにお母さんかな・・・?
この時は、リーゼントなベタベタなヤンキーの四天王を想像していた僕だが、次の日におそろしい物達に出会う事になる。




