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太郎とかつあげ2



 朝、学校に向かう僕が電車を降りると、改札で銀治君と会う。銀治君はママの教育の賜物なのか、意外と規則正しく同じ時間の電車に乗っているので学校まではよく二人で歩く。やはり昨日の、人間なら生死にかかわるような事故でも彼にはなんでも無かったようだ。


見た目ヤンキーの銀治君と僕が一緒に歩いていると、因縁でも付けられているんじゃないかと大人たちは僕の顔を見て立ち止まる。しかし、笑顔の僕を見ると安心して通り過ぎて行く。最近僕は銀治君とはまったく遠慮をする事無く話が出来るようになり、かなり楽しいのだ。


「川西の・・・」


 そんな事を話している生徒がいた。気になったのは話の内容ではなく、その生徒は顔を腫らしているのだ。運動でも何でも、あまり頬を怪我する人はいない。ガールフレンドにでも叩かれたのだろうか・・・? 


そんなことを考えながら歩いていると、今まで意識していなかったから気がつかなかったのか、意外に顔を怪我している男子生徒が多い事に気がついた。最近、少し前、もう治りかけ、のような感じで程度はさまざまだ。


「あれ・・・、喧嘩かな? 銀治君どう思う?」


「全部絵里香じゃないっすか? あいつ乱暴だから」


 昨日の恨みは忘れていないようだった。




 教室に着き、周りを見回してみると、やはり男子の数人は顔に怪我をしている。いつも銀治君としかほとんど話をしないので気が付かなかった。そして、そう言った子以外の男子も浮かない顔をして友達と話をしているようだ。教室内で幸せそうな顔をしているのは、僕の横でビーフジャーキーをしがんでいる銀治君だけだ。


鞄から出した教科書を机にしまっていると、僕に話しかけてくる数人のクラスメートがいた。今まであまり話をしたことの無い子達だ。


「すいません。田中さん、ちょっと良いですか?」


「・・・へっ? 僕?」


 思わず誰の事か分からなかった。僕は怖そうな銀治君と仲が良いからか、いつの間にかみんなに「さん」付けされていたようだ・・・。


「なんだぁ? 太郎さんと話をしたいんだったらビーフジャーキー持って来やがれ」


「銀治君! 良いって!」


 後ろの席から彼らを睨みつけている銀治君を僕はたしなめる。このままじゃ、友達が銀治君以外に出来なくなる・・・。銀冶君を二度見、三度見しながら男の子達は僕に向かって話を始めた。


「俺はまだなんですけど・・・。そこにいる高橋や山本が被害受けちゃって・・・。最近、川西の生徒が、「かつあげ」やって来るみたいなんですよ・・・」


 かつあげ・・・。恐喝。脅して金品を巻き上げることだ。僕の頭によぎった記憶があった。銀治君と初めて一緒に帰った日、そういえばうちの学校の先輩が川西高校の生徒と何か揉めていた。もしかしてあれが・・・?


「そうなんだ・・・。え? ありがとう。気をつけろって事?」


「いえ・・・。じゃなくて、何とかしてもらいたいなぁって・・・思って・・」


「・・・・・・? えぇぇぇっ! 僕が? 僕に?」


 何かの冗談かと思った。中学生の時はノートを貸してくれ、掃除を俺の分までしておいてくれと頼まれる事はあったが、・・・・今回は僕に一体何をしろと?


「先生に・・・言って来いって事なの?」


 男の子達は困った顔をしている。


「いや・・・。それは恥ずかしいし・・・、その後、川西の奴らに何されるか分からないし・・・。できれば、田中さんと大神さんで・・・、川西をやっつけて欲しいって言うか。もう、手出しをさせないように脅して欲しいって言うか・・・」


 先頭に立って僕に話をしている子が後ろを振り向いて「なあ?」と声をかけると、後ろにいる子達も大げさに首を縦に振っている。


僕はややうつむき気味で時間を稼ぐような返事をする。


「うう・・・ん。そう・・・だね・・・」


 確かに、銀治君の力なら一人でも高校の一つや二つ壊滅させることは簡単だろう。でも、はっきり言って僕の力は0だ。むしろ、マイナスになるかもしれない。仕事の大部分を担う銀治君に僕は顔を向けた。


「ああん? どうして俺達がそんな一円にもなら無い事をしないといけないんだぁ? 降りかかる火の粉は自分で払いやがれ!」


 降りかかる炎岩でも粉砕出来るような銀治君にそう言われると、彼らと同じ人間側として僕の口から「銀治君のようには無理だよ」と、言葉が出かかる。その前に先頭に立っている男の子の口が開いた。


「あの・・・。実は・・・これもう用意していまして・・・」


 男の子は後ろにいた子から何かを受け取ると、それを僕達の目の前に出す。それは、表に乾燥した干し肉の写真がプリントされているパッケージだった。


「び・・・ビーフジャーキー! 分かっているじゃねーか! 何でも相談しやがれっ!」


 すぐにそれを奪い取ると、袋をあけて銀治君は食べ始める。これでもう、断れないんじゃ・・・?


「もちろん、これだけじゃなくて・・・。川西を追い払った時には・・・あの・・・。ちょっと耳を」


 彼は僕の耳に小声でささやいてきた。


「えっ・・・。いやいや! ・・・。そんな・・・。同じクラスの子からは受け取れないよ!」


「いや・・さぁ、もう一年全体の男子で話はついちゃってて・・・。友達同士とかクラブ仲間とかから話が広まって・・・。多分二年生でも話しがまとまっていると思うんですけど・・・。かつあげに会っちゃうと、財布の中身全部取られちゃうし、二度目の被害にあっているやつもいるんで・・・。それくらいどうって事なくて・・・。コンパに一回行ったと思えばいいし。それで危険がなくなるってんならみんな喜んで出すよ」


「ちょっと待って・・・。どうしよう・・・。それじゃ、一応知り合いにも話してみるかな・・・」


 僕の頭には、部長の朱魅さんをはじめとする女帝達の顔が浮かんだ。


「太郎さん! 待ってくださいよ! 儲け話なら絵里香達に通さなくても、俺達で片付けちゃえば大儲けっすよ!」


 銀治君はビーフジャーキーを指差しながら僕に笑顔で言ってくる。どうやら彼は、数百のジャーキーに埋もれたいようだ。確かに彼一人でも、多くても数十程度の高校生なんて楽勝だが・・・。


「でも銀治君。もしそれが・・・後からみんなにばれたら・・・・」


 銀治君の顔がとたんに真っ青になった。おそらく、銀治君が昨日受けたお仕置きの、数十倍の制裁が待っているだろう。


「やっぱり・・・絵里香達にも伝えましょう! それしかないっす!」


 彼は直立不動、兵隊のようにそう言った。


「え・・・。女の人? にも手伝ってもらうって事ですか?」


 男の子達はどういうことか事態がよく分からないようだ。当然だ、僕達のクラブの正式な活動内容は秘密にしてある。銀冶君は苦い顔をしながら彼らに言う。


「おう! 奴らは残虐非道でなっ! 俺よりも強いんだ! なんせ、絵里香はきゅうけつ・・・もがもが」


 僕は銀治君の口を手でふさいだ。


「そ・・・そう! つ・・・強い・・んだ! テコンドーをやっている女の人がいるんだ。・・・ほっ・・・他にも! 黒い姿をした男達(亡者)を従えたような人もいるし・・・!」


「ええ・・・。すごい知り合いがいるんですね・・・。さすが田中さん!」


 三人は感心した顔の後、拍手を僕に向ける。


 今日は良いコミュニケーションをクラスの子達と取れた・・・・・・のか?

 




 僕と銀治君は授業を全て受けた後、部室に向かい、この事をみんなに伝えた。


「一人二千円? 一年全員の男子って・・・60人はいるよね。二年生も同じくらいいるし・・・」


 絵里香さんは玉座から立ち上がって、部長の朱魅さんの顔を見る。


「高校一つを制圧して・・・その金額・・・。ぼろいなっ・・・」


 朱魅さんもやる気十分のようだ。


「だが、問題はあの生徒会長だな。生徒から金を集めて他校を滅ぼす。あの女が知ったらなんて言ってくるか・・・。やはり消したほうが・・・」


「大丈夫ですって、美沙さん。・・・黙ってやればいいんですから・・・。ばれなきゃ・・・」


 教室を出て行こうとする美沙さんの肩を押さえてそうなだめると、部員全員が感心した顔で僕を見ているのを感じた。


「さすが太郎さん! 悪ですね!」

「太郎、副部長らしくなったな!」


 銀治君や朱魅さん以外も、全員が僕を褒めてくれる。・・・あまり嬉しくないが・・・。ちょっと毒されてきてしまったかもしれない・・・。


「まずは少数で偵察に向かうのが良いと思います。かつあげの実態を掴み、行っているメンバーを調査します。川西高校にももちろん関係の無い生徒もいるだろうし、そういう人には被害が起こらないようにしたいです」


 僕は美沙さんの顔を見ながら言う。彼女が一番広範囲にわたる技を使うからだ。


「じゃあ、俺行くっす!」

「私も行くわ」


 銀治君と絵里香さんが手をあげる。しかし、僕は二人に向かって首を横に振った。


「駄目ですよ。二人はあんまり隠密行動に向きません。それに・・・偵察なのに勢い余って暴れてくるかもしれない・・・」


 銀治君は悲しそうに首をかっくんと折った。


「ここは僕が行きます。あと・・・えっと、朱魅さん、行きませんか?」


 僕は朱魅さんと小里ちゃんで迷った。小里ちゃんの、姿が見えなくなる能力の方が向いているかもしれないが、朱魅さんの能力・・・。ぶっちゃけ、正体が気になる。


「私を指名かっ。いいぞ。行こう!」


 朱魅さんは笑顔で玉座から立ち上がった。


「すげー! 部長と副部長の出陣だ! こりゃぁ、関東の半分が海の底に沈むぜ!」


「銀治君・・・だから今日は偵察だから・・・」


 踊り狂っている銀治君を尻目に、僕と朱魅さんは教室を出た。




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