太郎と不法投棄7
ここのボスからリストを受け取り、僕達はビルを後にした。もちろん僕達が出て行くの誰一人として止めはしない。みんな物影に隠れて震えた背中を見せていた。僕はその様子を少し気の毒に思いながら、朱魅さんに聞く。
「自首・・・してくれますかね?」
「するだろうな! しなければ次会ったときに銀治に喰われるんだ! 不法投棄はそれほど重い罪にはならない。喰われるくらいなら喜んで警察に捕まるだろうなっ」
「まあ、あの分なら今までに山に捨てたゴミをきちんと片付けるって約束も守りそうよね」
絵里香さんはその後に「久しぶりにお腹いっぱいになっちゃった」と言いながらティッシュで口を拭っている。
「それで、そのリストどうするんですか? 警察に渡すとか?」
「まさかだろ?」
美沙さんが怪訝な顔をして僕に言った。
「関東・中部・関西。あと、東北に四国、九州か・・・丁度6ヶ所。こっちの人数は6人。ぴったりだな!」
「まさか! でしょ?」
今度は僕が朱魅さんに言った。
「生田会。全国指定暴力団。構成員約一万人」
小里ちゃんが横で携帯の画面を読み上げる。いつの間にか姿を現していたみたいだ。
「い・・・一万人ですよ! それを単純に6で割っても・・・」
「いやぁ! 腕がなるっすよねー! 俺のママにもその人数相手ならギリギリ報告できるっすよ!」
「私はダメよ。たった二千人程度なんて・・・。私のお父さんなんて十字軍相手に戦ったってのに・・・」
銀治君と絵里香さんはやる気十分だ。いや、小里ちゃんは「武器いっぱい手に入るかな・・・」と嬉しそうに言っているし、美沙さんは「それだけいたら少しくらい魂をいただいても・・・」と、つぶやいている。
「それでは私は関東をやろう。美沙は関西、絵里香は中部、小里は四国、銀治は九州だ。あと、東北は太郎。明日の金曜日はみんな旅行の用意があるだろうから部活は休みだな」
「銀治、お土産は明太子を頼むわね」
「絵里香こそひつまぶしを買ってきてくれよ!」
「冷めるわよ」
「小里はおうどん買ってきますー!」
「のびるわよ」
「関西・・・関西・・・。『でんがな』って食べ物の名前だったか?」
みんなは完全に旅行気分だ。それじゃあ僕は秋田できりたんぽでも・・・なんて考える訳はない! 僕は携帯を操作して自分の担当の生田会の東北の情報を探す。
「構成員、およそ900人! む・・・無理ですよ! 僕一人で!」
みんなの前に回りこんで僕は手を振りながら訴える。銀治君は腕組みをして「九州から東北まで走って何時間かかるかな」と考えてくれているようだ。彼からは親友の匂いがしてくる・・・。って、走って九州まで行く気なのっ?
「まあ、突っ込み役の太郎に、ボケ役無しの一人で行かせるって言うのも変かもしれないなっ。それじゃあ絵里香、あの人を太郎に紹介してあげてくれ!」
朱魅さんに言われた絵里香さんは首を捻っている。
「あの子忙しいから・・・。まあ、一応メール入れておく。太郎は明日の放課後尋ねてみてね。茶華道部にいるから」
「は・・・はぁ?」
もしかして・・・。新たな・・・モンスター? 僕の胸は高鳴った。もちろん、恋とかじゃない方向でね。
翌日。金曜日の放課後。今日の部活は休みなので、僕は言われた通りに茶華道部へ向かう。
こちらの部も今日は休みなのか? と思えるほど部室の外は静かだった。しかし、人の気配はするので、小さなノックを二回してから扉を開けてみた。中では女子ばかり数人いて、全員花を生けていた。僕に視線をわずかに向けた子もいたが、誰も何も話さない。僕もこの状況で声を出すわけにもいかず、扉の前でじっと立っていた。
素人目だが、一番中でも一番花を深みの?ある感じに生けていると思われる女の子が手を止めて僕を見た。
「あなたが太郎さん?」
彼女は黒髪を上で束ねていて、その白い首元がとても大人っぽく見えた。
「は・・・はい。絵里香さんにここを尋ねろって・・・」
「まったくあの子は・・・。私は忙しいっていつも言っていますのに・・・」
襟についてある校章の色を確認すると、絵里香さんと同じ二年生のようだった。でも・・・やはり人間では無いのだろうか? でも、この人はちゃんと普通の部活をやっているようだし、人間とも付き合えているようだけど・・・。
「外に出ましょうか」
彼女は座敷で立ち上がり、上履きをはいて僕の前を通り過ぎ廊下に出た。僕もその後ろに続く。
「私は星野雪奈、二年生。改めてはじめまして」
「あ、はじめまして! 一年生の田中太郎です!」
振り向いた彼女は背筋をピンと伸ばしたまま僕に挨拶をした。女子高生らしすぎる絵里香さんとは違って、ずいぶん落ち着きのある大人な印象の人だ。
「絵里香さんとは一年生の時に同じクラスだったんですけれど・・・。あの絵里香さんが遊びの誘い以外に私に何かを頼んでくるなんて珍しいですね。何の用なのかしら? 私に告白でもする気ですか? 太郎さん」
「えっ? いえ・・・」
「残念ながら間に合っています。ですけれど、何度も誘ってくるのでしたら、お食事くらい誘われても構いませんわ。もちろん、それ以上のお付き合いはお断りいたします。それよりも先に進みたいのでしたら、最低デートを20回ほど重ねてから夜景の見えるような・・」
「いやっ・・・あの・・・そうじゃなくてですね」
「そうじゃない? 駄目ですよ。でもまあ、どうしてもって言うなら・・・10回に負けてあげても・・」
「あの・・・そんな話じゃなくてですね・・」
丁寧な口調だが、なかなか話の進みにくい人だ。絵里香さんとは別な角度で話を勝手に進められる・・・。
「あの、うちの部活の人達、明日からある組織を壊滅させに行くらしいです。僕も東北に派遣されると決まっているんですけど・・・、あの、僕は人間ですので・・・怖いおじさん達900人を相手にするなんて到底できるはずも無く・・・。いや、相手が一人だったとしても僕の手に余っちゃう感じなんで・・・」
「900人? そんなの絵里香さんに任せればよろしいんじゃないですか? あの方ならそれくらいの数なんて・・」
「いえ、絵里香さんは中部の支部を襲う・・じゃなくて、あの・・・教育しに行くらしいです。各地に散っている支部を同時におとなしくさせたほうが効果的だということで・・・」
「そんな。警察に任せなさい。あなたにもどうにか出来ないのでしたら、もちろん普通の女子高生の私にもどうにも出来ません。それに私は明日、オペラの鑑賞会がありますし・・・」
小さなため息をつくと彼女は外に視線を向けた。
「え・・・ただの女子高生・・・? そ・・・そうですか。すみませんでした」
雪奈さんは普通の人間? ならどういうつもりで朱魅さんや絵里香さんはこの人を紹介してくれたんだろう? 良い作戦でも出してくれると言う事だったんだろうか? それならば、東北支部は警察に任せるのが良い・・・って事で良いのだろうか・・・。
頭を下げたあと僕が背を向けると、雪奈さんが声をかけてきた。
「絵里香さんに、あまりやり過ぎないように言っておいて下さいませ。あの子すぐ頭に血が上ってしまうから・・・。どうせその相手の方達、それほどひどい事などしてないんでしょ?」
僕は首を傾げ、振り返りながら口を開く。
「えっと・・・。そうですね。人を殺したとかって話はまだ聞いていませんけど、学校のそばの山にゴミを捨てたくらいですかね、今分かっているだけですと」
「山に・・・ゴミを捨てた? ・・・もしかして、以前から問題になっていた不法投棄? それを行っていた人達という事ですか?」
「厳密に言うとですね、それをしていた会社は、今回絵里香さん達が壊滅させに行く組織の人達にやれって言われたからやっていた・・・みたいな感じですかね?」
僕は、自分の話とは脈絡無く身震いをした。急に寒気が・・・? いや、話しとかのそれではなく実際に寒い。どうしてか・・・急に気温が下がったような・・・。
「そうですか・・・。山を汚して草木を痛めつけた人達。その元締め・・・のような人達ってことですね・・・」
雪奈さんは大きなため息と共にうつむいた。
「あ、そうですね。その方が近いかも・・」
[ピシッ]
僕の横で窓ガラスが鳴った。見ると、ガラスは真っ白で凍り付いている。それどころか、廊下や天井、教室のドアも全て凍結している。
「ドアが開かない!」
「上履きが廊下に張り付いて・・」
何やら生徒達が驚いたり怯えたりしている声が他の教室から聞こえてくる。まさか・・・、この能力・・・。
「気が変わりました。オペラは中止。私が東北を引き受けます。綺麗な花を痛めつけるような人達は・・・・・・・・後悔してもらいます」
顔を上げた雪奈さんの瞳は真っ白だった。その目を見た瞬間・・・、
(う・・・腕が・・・)
声も出なかった。腕が、指が・・・体がまったく動かない。全身が冷えを通り越してしびれ・・・いや、それすらも通り越して何も感じない。そのまま僕は意識を失う・・・。
「はっ!」
体が動く。しかし、夢では無かったかのように制服は凍りついたままだ。
「ごめんなさい。あの状態の時の私と目が合っちゃうと・・・一瞬で凍り付いてしまうから気をつけてくださいね」
「・・・・はい」
能力は解除されたのか、廊下の窓や天井、壁はようやく溶け出したようで雫をたらしている。
・・・雪奈さんはおそらく・・・『雪女』だ。それも静かに怒っただけで辺り一帯を凍りつかせるとてつもない力・・・。銀治君、また君より強い人が現れたよ・・・。




