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太郎と不法投棄6

 僕達は外を銀治君に任せてビルの中へ向かう。入り口付近に来た時、[パンッ パンッ]と拳銃を撃つような音がして僕は心配で振り返ったが、「いてぇだろ! この野郎!」と言う元気な銀治君の声を聞いて胸を撫で下ろした。


「誰だ! 何の用だ!」


 中でも外と同じようなセリフで歓迎された。絵里香さんがニッコリと笑いながら男の首を掴み、上に持ち上げる。パンチパーマのおじさんは顔を真っ赤にして空中で足をばたつかせている。


「ここは私に任せて。すぐに追いつくわ」


 廊下のいくつかの扉から男達が出てくる。外の尋常ではない騒ぎに気がついたのか、武器を手にしている人もいる。


「だ・・・大丈夫ですか?」


「もちろん。それに、私が戦うところは見ないほうがいいわ。なんせR18指定だから」


「わ・・・わかりました。・・・半殺し程度で止めるって約束忘れないでくださいね」


 男の首を見ながら嬉しそうに目を光らしている絵里香さんに僕はそう言うと、階段で上に上がった。


 他の階を無視して階段を更に上がっていく。正確に数えたわけじゃないが、10階建てだったような気がする。しかし、5階付近で階段が途切れる。フロアに出ると、通路を少し行った先にまた階段があるようだ。ひょっとして、警察の手入れがあったときなどに時間を稼ぐためなのかもしれない。


「お前らか! 騒ぎを起こしてるのは!」


 一番後ろを歩いていた僕の肩に手がかかった。振り返ると、入り口で見た貫禄のあるおじさんが子分と共に立っていた。反対側の手がスーツの中に差し込まれている。


「ぐわぁっ!」


 突然、その幹部かと思われる男が倒れた。その脇に立っていた子分もすぐさま悲鳴と共に床に倒れる。


「な・・・何?」


「小里です!」


 キョロキョロとしている僕の耳に小里ちゃんの返事が聞こえた。しかし、姿が見えない。このフロアには朱魅さん、美沙さん、僕。それに今の悲鳴を聞いて扉から出てきた男達しかいない。


「こちょこちょ」

「わっ! ちょっ! やめっ! くすぐったい!」


 突然僕のわき腹に何かがふれた。あわてて手を振ると、何か指先に柔らかい物が触れる。


「きゃっ! ・・・太郎さんのエッチ!」


「え・・・えぇっ!」


 ま・・・まさか・・・。小里ちゃん透明になってる・・・?。そう言えば聞いたことがある。座敷童子は子供にしか見えないとか・・・。それと関係があるのか・・・な?


「小里ちゃん・・・消える事ができるの?」


 僕はとりあえず自分の周辺全体に話しかけるように言った。


「はい! 消えています! 私にはこんな能力しかなくて・・・」


「じゅ・・・十分すごいと思うけど・・・。あと、これ何で殴ったの? なんか・・・ぎざぎざの模様がついているけど・・・」


 倒れた男の顔にはくっきりと・・・なんとも表現し難い跡がついていた。


「それは見せられないです! 引かれちゃいますからっ!」


「そ・・・そう?」


 ものすごく気になった。小里ちゃんは一体どんな武器を持っているんだろう・・・。


 このフロアにいた大勢の悪そうな男達はようやく僕達の前に集まって来た。倒れている人を見て、何やら武器を取りに行っていたようだ。


「て・・・てめえら! どんな武器を持っている!」


 確かに本職の男三人を易々と倒したような僕達は、強力な武器を持っていると思われただろう。でも、小里ちゃんは教えてくれないから僕も知らない。


「上に行け。ここは私が引き受けよう。早く終わらせないと警察が来る」


 美沙さんがそう言って僕の前に立つ。この人は別格だ。なんせ・・・よく分からない力を使うんだから・・・。物理的に攻撃をする銀治君や絵里香さんが普通に見える。


 美沙さんの足元から黒い影が広がり始めた。それはあっという間にこのフロアの床全体を覆った。


「いでよ・・・亡者達」


「うっ・・・うわぁぁぁぁ!」

「ぎゃ・・・・ぎゃぁぁぁ!」

「なんだこいつらわぁぁぁ!」


 僕はガチガチ鳴り出したあごを自分の手の平で押さえた。黒く染まった床から、目や口もはっきりしないような人の形をしたもの達が這い出でてきて、男達の下半身を掴み自分達の世界へ引きずりこもうとしている。


「行くぞ、太郎。巻き添えを食うぞっ!」


 朱魅さんは階段を上る。僕も駆け足でその後を追う。そんな僕の目の隅に映った赤黒い肌の亡者さんは、僕に向かって手を振っていた。意外と? ・・・いい人達なのか?



 階段を一番上まで上り、フロアに出ると、そこは絨毯が廊下いっぱいに敷かれていた。少し先に、一回り大きな茶色の扉が見える。聞いていた通りの分かりやすい社長室だ。分かりやすいベンツに乗るような人達だから・・・ぱっと見、すぐ分かるのが好きなのかな?


 朱魅さんは扉に手をかけ、ガチャリとそれを開く。鍵がかかっていなかったのかと思ったが、良く見るとロックしていただろう部分の金属が焼き切れている。・・・美沙さんとどっちが強いのだろうか・・・。


「なんだお前達は? 外の騒ぎはお前らの仕業か?」


 中には人間なのに銀治君の迫力に負けないような怖い顔のおじさんが椅子に座っていた。さすがこの人数のボス。眉一つ動かさないで僕達を見ている。


「お前が山にゴミや危険物の不法投棄を指示していた奴なのか?」


 朱魅さんがそう言いながら近づくと、男は「さあな」と言う。僕の目にもとぼけているのが良く分かった。


「すぐに吐いたほうがお前のためだぞっ」


「知らんと言っているだろうが」


 朱魅さんが更に近づくと、男は笑みを浮かべながら机の引き出しを開けたようだ。しかし、そこで男の顔は焦りの色を浮かべる。


「・・・あれ? ・・・無い。おかしいな・・・。さっき確認した時はあったのに・・・」


 男は引き出しの中をごそごそと何かを探しているようだ。引き出しに顔を突っ込んでまで奥を覗き込んでいる。


「ふ・・・ふん。ま・・・まあいい。お前らガキなんてこれで・・・・これで・・・。あれ?」


 男は立ち上がり、机の後ろに置いてあったゴルフクラブを入れるようなキャディバッグの中を覗き込んだが、首を捻りながら手を突っ込んでしきりに何かを探しているようだ。しまいにはサイドポケットまで調べている。


[パンッ!]


「いてっ!」


 乾いた音が僕のそばからしたと思うと、男の上の壁に釣り下がっていた『仁義』と書かれた額が落ちて男の頭を直撃した。角が当たったようで、男は頭を押さえながら苦悶の表情だ。


「わぁ。これ小里のコレクションにいれよーっと。こっちのもよく切れそうです! 嬉しいです!」


 姿は見えないが、小里ちゃんはそう言う。男が探していた物が大体想像できた。あと、小里ちゃんが武器マニアなのもよく分かった。


「ちぃーっす。ゆっくりやりすぎました?」


「ぎゃわぁぁぁぁぁ!」


 銀治君だ。男が驚くのも無理は無い。振り返ったら10階の窓だと言うのに、3m弱の狼男が外から覗き込んでいるのだから。


「お楽しみはこれからってところじゃない?」


「ひやぁぁぁぁぁぁ!」


 更にその隣に、口から赤い液体を滴らせている絵里香さんが浮かんでいる。


「思ったより退屈だったな」


「どわぁぁぁぁぁぁ!」


 僕達の後ろから入ってきた美沙さんは5~6人の亡者を従えている。そのうちの一人が僕に向かって「ヨッ!」とばかりに挨拶をしてきたので、僕も会釈をする。


「な・・・なんなんだお前らはっ! たっ・・・助けてくれ!」


 男は焦った様子で机の下に隠れようとしているが、その突き出たお腹のせいで体が曲がらず、お尻だけ入れた不恰好な状態だ。貫禄は完全に消失した・・・。


「先ほどの質問に答えるんだっ。不法投棄はお前の指示なのかと聞いているんだぞ!」


「そっ・・・そうだが・・・」


 男は朱魅さんに向かって半泣き状態だ。最初の余裕はどこへやら・・・。まあ、当たり前か。この状況なら虎や白熊でさえもお腹を見せて降伏するだろう。



「し・・・仕方なかったんだよ。本家からでかい上納金を要求されるし・・・。それにっ! まだあんな事はましなほうだぜ! 一般人を詐欺でだましたり脅迫したりして金を集めている奴らもいるんだから! 不法投棄ならまだ直接人を傷つけている訳じゃないから・・・。俺はそんな事を考えているから幹部連中からぬるいって良く言われているくらいで・・・」


「なるほど。まだ悪い奴がいるということだなっ。人間共はまったく・・・」


 朱魅さんの口からそんなセリフが出た。分かっていた事だが・・・、これで彼女も人間じゃないことが確定してしまった・・・。


「それなら更に上の、その幹部達の居場所を教えろ。教育してきてやるぞっ!」


「そっ・・・それは言えねぇ! 杯を交わした兄弟達の居場所は・・・」


「立派な事だなっ。では銀治」


「喰っていいんすか?」


 男の頭は銀治君の口にすっぽりと覆われた。


「いやぁぁぁぁ! 待って! 待ってくれ! 言うから! ハジキを突きつけられるより怖いぃぃぃぃ!」



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