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太郎と不法投棄5



 翌日、部室内では満足げな顔をする美沙さんと不満げな顔をする絵里香さんがいた。


「金田産業株式会社・・・か」


 その中心の玉座に座る朱魅さんが口に出すと、すぐに後ろの席に座っている小里ちゃんがスマートフォンで会社の位置を検索しているようだ。


「太郎は思ったより使える奴だ。私のペットにしてやってもいいな」


 美沙さんが妖艶な視線を僕に向けてそう言った。


「待ちなさい! 太郎は私も気に入ってるのよ! 私の下僕になりなさい、太郎!」


 絵里香さんも同じような事を言ってくる。ああ、こっちも捨てがたい・・・。僕は身震いをすると、ポケットの違和感、中に入っている物を思い出した。


「あっ! そうだこれ・・・。渡されていた請求書、ちゃんとあの人達に渡して代金を受け取ってきました。でも・・・女子生徒の制服ってそんなに高いんでしたっけ? あの人たち泣いてましたけど・・・」


 僕は絵里香さんに封筒を渡す。すると彼女はそれを覗き込んで驚いた声をあげた。


「うそっ! 本当に全額出したのっ? ・・・ま・・・まあ。私の制服はとっ・・・特注だからこの位するのよ・・・。うふふ」


 満足そうな笑みを浮かべながら絵里香さんは封筒をポケットにしまう。機嫌が悪かったのが一瞬にしてふっとんだようだ。


「・・・で、その二人はどうしたんっすか? 消しちゃったとか?」


「私はそれでも良かったんだが、太郎がどうしてもって言うから、首だけ出して地面に埋めて来てやった」


「おっ! さすが太郎さん! 拷問の妙技! 生き恥って奴っすね!」


 銀治君は僕をどういう目で見ているのか聞くのが怖いが、にこやかに拍手をしてくれている。


「ち・・・違うよ! まあ、あそこは車通りが少ないとは言え、壊れたトラックも止まっているしそのうち誰かに見つかるかなって・・・」


「正解だぞ太郎! 私達は出来るだけ警察に存在がばれないほうがいいなっ。なんせ非合法すれすれだからなっ。そして、そいつらが見つかったとして、警察が動くのは明日からだろう。私達は今晩、済ませないといけない事があるな!」


 部員を見回しながらそう言う朱魅さんの後ろで、小里ちゃんが手をあげながら立ち上がった。


「場所わかりました! 住所は××市△△町・・」


「ちょっと! 掃除しに行くなら俺に行かせてくださいよ! 今回出番まだ無しっすよ、俺!」


 銀治君が腕を回しながら朱魅さんに言った。


「小里もまだです!」


「私も制服は弁償してもらったけど、まだやられたまま感があるのよね」


「私も人間をいじめるのなら連れて行け」


 僕と朱魅さんをのぞく全員が立ち上がった。


「今回の部活動も大詰めだっ! それでは全員参加PTで行こうかな!」


 朱魅さんも玉座から立ち上がりやる気満々だ。あの・・・戦闘レベル100超えている戦士パーティーの中に、一人だけ遊び人見習いレベル1が混じっている事に・・・どうしていつもみんな触れてくれないんだろうか・・・?





 二時間後、ラスボスをも一ターンで倒せると思われる勇者一行は、不法投棄を行っている金田産業株式会社の前にいた。ここはビル丸ごと金田産業の系列会社らしく、その一つがあのトラックを持っている会社だという。もしかすると、あそこ以外にも不法投棄を行っているいくつもの場所、いくつかの会社があるかもしれない。


すぐに入っていこうとする銀治君を好物のビーフジャーキーで止めつつ僕は観察する。


時間は午後6時。一般の会社ならスーツを着た人達が建物からぞろぞろと出てくるような時間だが、このビルはガラの悪そうな男達が出たり入ったりを繰り返している。服装も黒やグレーのスーツといった人間は皆無で、派手な色のスーツやシャツをなんとまあ華麗に着こなしている輩達だ。


つまり、ビル丸ごと『ヤ〇さん』達の巣だ。ヤンさんみたいな人の良さそうな中国人がいるってんじゃないよ。


「人が・・・多いですね。不自然なくらい・・・」


「おそらく、昨日トラックが一台帰ってきてないから警戒しているのかもしれないな。それとも内部に存在する証拠を今消そうと躍起になっているのか」


 そんな事を話し合う僕と朱魅さんの後ろで、みんなは「やったぁ」「運がいいな俺達」「良い時に来たな」と嬉しそうに話している。


僕は今ビルの中に入っていった子分を従えていた貫禄のある男が気になった。しきりに胸の辺りを気にしていたのだ。心なしか少し膨らんでいたような気がする。「最近、ちょっと太ったなぁ」とか言っていたのなら良いのだが・・・。


「みなさん・・・ピストルの弾とか当たっても・・・大丈夫なんでしょうか?」


 振り返って聞くと、少しも表情を変える部員はいなかった。


「ライフル弾は当たったら結構痛いってママが言ってたっす!」


「そんな穴、2秒で塞がるわよ」


 銀治君と絵里香さんは初めて乗る遊園地のアトラクションを見るようなキラキラした目をしている。美沙さんは「ピストル・・・ふふふ」と小さく笑っている。彼らを驚かすには戦車でも不十分な気がする・・・。


「それじゃあ、行きますかぁ!」


 そう言いながら、銀治君はおもむろにズボンを下げた。


「何してんのよ! この犬っころっ!」


 間髪いれずに、まるで打ち合わせ通りのコントといったタイミングで絵里香さんが銀治君の股間を蹴り上げた。銀治君は大事なところを押さえながら前のめりに倒れる。


「ちが・・・、完全に獣人になるのに服着ていたら破れちゃう・・・から・・・」


 それが彼の遺言だった。いや、それくらい切なく聞こえた。


「じゃあそこの影で着替えろっ!」


 銀治君はなんとか起き上がると、電柱の影で小さくなりながらいそいそと服を脱いでいる。これが狼男とはとても思えない。


「おまたせ。すんません、太郎さん。これ持っていてもらえますか?」


 帰ってきた銀治君は身の丈が2mを軽く超えている。全身が金属を思わせるような銀色の毛に覆われ、指に生えている作り物かと思えるような凶悪な爪の太さは僕の腕と同じくらいだ。簡単に人を殺められそうなその爪の一本に、スーパーのレジ袋が引っかかっていて、その中にきちんと折りたたまれた制服が入っていた。


「うん・・・。わかった」


 おそらくこれを破ったり汚したりすると、更に恐ろしい狼女の銀治君のママにひどい目にあわされるのだろう。僕はしっかりとそれを受け取った。


「あんたねぇ、ここはほとんど人気(ひとけ)が無いから良いようなものの・・・。その姿は目立ち過ぎよ」


 絵里香さんは馬鹿にしたような目で銀治君を見上げている。


「へへっ。この間は絵里香に負けたけど、あれは上半身までしか獣人化してなかったからな! この格好になると戦闘力は倍だぜ! 今、あんたとやったらどうなるかな?」


 銀治君は青い目を光らしながら大きな口を開けてそう言った。


「へぇ・・・。私もこの姿が完全体だと思ったわけ?」


 絵里香さんの瞳は赤く染まり、真っ赤な口の中を見せた。分かる・・・、人間の僕にも感じる。彼女の力は銀治君より上だ!


「すんません。冗談でした。勘弁してください」


 僕は見逃さなかった。一見軽く頭を下げているだけに見える銀治君だが、その尻尾が地面に着き、細かく震えているのを。


「それじゃあ、そろそろ行ってみようかっ!」


 朱魅さんは門を通り抜け、躊躇無く会社の敷地に入っていく。その後に女子高生三人と男子高校生一人、狼男が一人続く。


「ん、太郎、無理するなよ。さっきの所にいてもいいんだぞ?」


 美沙さんが僕を見て、意外そうな顔をする。


「そ・・・そんな。みんなが危ない場所に入って行くのに・・・僕だけがあそこに隠れているなんて・・・」


「太郎は実は度胸がある良い男なのよ」


 絵里香さんが僕の肩に手をかけてそう言った。しかし、目と口が真っ赤な吸血鬼モードなので非常に怖い。


「小里が太郎さんを守りますです!」


「ほ・・・ホント? それは嬉しい・・・。え・・・。あれ?」


 みんなに着いて来たものの、もちろん気が気でなかった。しかし、守ると、今言ってくれた小里ちゃんがどこにもいない。今までそこにいた気がしたのに・・・?




「おいっ! てめえら、ここはガキの遊び場じゃねーぞ! ・・・なんだその着ぐるみは・・・?」


 ビルの前にいた、いかにも下っ端のような男達が二人、肩を揺らしながら近づいて来て言った。目はすぐに一番目立つ銀色の巨体を持つ銀冶君へ向く。


「着ぐるみじゃねーよ。本物のモフモフだぜ」


 銀治君は僕たちの頭越しに腕を伸ばし、男を右手に一人、左手に一人掴むと軽々と持ち上げた。


「社長は何階だ? 一番偉い奴だっ」


 苦しそうにもがいている男に朱魅さんが話しかける。


「しらね・・・いっ・・・痛ててて!」


 男達の胴体を握る力を銀治君が強くしたようだ。[ギュウッ]って絞り上げる音が僕の耳にも聞こえてきた。


「お前ら、この状態でよく嘘つけるな。夢じゃないぜ、これ」


 銀治君は男達を自分の顔の前に引き寄せると、青い目を光らせてその大きな口を開けた。


「ま・・・待ってくれ! 一番上だ。最上階に社長室があるから・・・。行ったらすぐ分かる! くっ・・・食わないでくれっ!」


 [ミシッ]って音がすると、銀治君は子供が玩具に飽きたように男達を捨てた。男達は泡を吹いているが呼吸はしているようだ。


 騒ぎを聞きつけ、ビルの周りにある建物から男達が飛び出してきた。この会社はかなりの敷地があり、いくつかの倉庫や車庫のような建物がある。


「何してんだお前ら! 着ぐるみ着ている奴出て来い!」

「着ぐるみの奴! なんの用だ!」


 女子高生やひ弱そうな男子高校生はまったく眼中に入らないようだ。おまけに「着ぐるみ」を連呼されて、銀治君はイライラしているのが簡単に見て取れた。


「違うって言ってんだろっ! これは天然のモフモフだぁ―――――って!」


 銀治君は前に出て、腕を横に振ると数人の男が軽々と吹っ飛ぶ。驚いた男の一人が近くにあった車に乗り込み、銀治君に突っ込んできたが・・・彼の腕の一振りでその爪はボンネットを突き破り、車を地面に縫い付けた。・・・これでも銀治君は僕をのぞいた部活内メンバーで一番弱いらしい・・・。



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