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太郎と不法投棄4



「あっ・・・・当たりだ・・・?」


 ある日、ついに僕は当たりを引いた。しかし、それには関係なくやはりみんなでいつも通り部室で呆けるのかと思いきや・・・。


「よし、次は誰だ?」


 朱魅さんは次の人にくじを引かせる。どうして・・・? 今日こそは見回りに行くと言う事だろうか? 僕がくじの当たりを引くまで待っていた? そんなに僕に行かせたいって事? まさか・・・自分で当たりを引いて、朱魅さんは僕と二人っきりになりたいとか・・・。って、まさかまさか・・・。


「ふむ。私か・・・・」


「ちっくしょぉぉぉ。今日こそ太郎さんと悪を粉砕する日だと思ったのにぃぃぃ!」


「もうっ! 私の制服代をちゃんと請求してきてよねっ!」


 もう一本の当たりを引いた美沙さんの周りで、銀治君は悔しそうに地面を叩き、絵里香さんは頬を膨らましながら地団太を踏んでいる。


 まずい・・・、やばい・・・、怖い・・・。美沙さんと二人っきりは一番危険だ。僕は慌てて朱魅さんに聞く。


「しゅ・・・朱魅さん! 別に二人って決まっている訳じゃないですよね? い・・行きたければ他に誰か付いてきても・・・良いって事ないでしょうか?」


「まあそう言うな太郎。二人って決めたからなっ!」


「で・・・でもっ!」


「ほう・・・。私が嫌いなのか? ・・・太郎よ」


 美沙さんは僕の肩を抱き、耳にそっと口を寄せると息を吹きかけてきた。


「・・・・っ!」


 僕は恐怖と興奮で体がぞくぞくっとした・・・・。




 今回も暗くなるまで普通のカフェで時間をつぶすのかと思いきや、美沙さんが選んだのはケーキ専門店、その二階のカフェスペースだった。彼女は普段僕たちの前で見せている男っぽい様子ではなく、粛々とし、清楚であり、口を小さく開けてケーキを食べていた。


「どうかしましたか?」


「い・・・いえっ! べ・・・別に・・・・」


 ついそれを見入ってしまった僕に美沙さんの目が向く。慌てて逸らして暑くも無いのに汗を拭う動作をして、僕は場をごまかした。そうしながら周りに軽く視線を流すと、他の客は僕達をチラチラと見ているようだ。そうだよね。レベル差が100近くありそうな二人。僕が何かの弱みを握って連れて来たかのように思って気になっちゃうよね・・・。


 ため息をつきながら視線を落とした時、ふと僕の目に付くものがあった。美沙さんの左手の薬指に指輪が見える。こんな物ずっと付けていたのだろうか? 記憶に無い・・・。

「美沙さん・・・その青い指輪って・・・してましたっけ?」


「これ? ずっとつけていますよ。外したことはありません。・・・めったなことでは」


 僕が気づけ無かっただけのようだ。それは深い青色のようで、じっと見ていると緑色のようにも見えてくる。指の位置からして・・・彼氏からもらった? とか・・・。


「綺麗ですね。・・・もらい物とか?」


「ふふ・・・。恋人からとか? ・・・それは人間の習慣ね。私達には当てはまらないわ。これは魔王の印・・・」


 一瞬なぜだか意識が遠のいた。美沙さんはとても聞き逃せないような言葉を口にした気がしたが、僕の頭が拒否したようだ。うん、何も聞いていない。指輪の話はやめよう!


 僕はケーキの出来について話を振り、美味しいからまた来ましょうと言うような話をする。美沙さんは頷いてくれたが・・・。あれ? 僕なんかデートの約束みたいな事を言ってしまったような・・・。店を出てから顔を赤くしてしまった・・・・。




「なるほど。これはひどいな。人間共め・・好き勝手やりおって・・・」


 僕達はゴミが捨てられている場所を、一週間前に来た時のように見下ろす。場所もこの間トラックが止まっていた位置だ。美沙さんも絵里香さんと同じく憤ってくれているようだ。


しかし、僕は首を捻る。ゴミの量がこの前、絵里香さんと来た日から増えていないような気がするのだ。僕達に見られてしばらくの間なりを潜めている・・・と言う事だろうか。それならば、今日来る可能性も低そうだ。朱魅さんはこの事を分かっていたから見回りに誰も行かせなかったのか・・・。


それならばどうして今日、僕達を来させた? ただ単に役に立たない副部長の僕を働かせたかっただけ・・・? とか。


 僕達はこの間の木の陰に並んで座り、時を待った。僕と身長が変わらない美沙さんだが、体が細いため、座って膝を抱えると僕よりもずいぶん小さくなる。暗闇をじっと見つめるその横顔は気を抜くと意識を失ってしまいそうなくらい綺麗だ。ハラハラドキドキ。みんな簡単に使うこの言葉だが、僕のような状況になってようやく意味が分かる。彼女達のような人達と知り合うまでは本当の意味を知る事の無い言葉だ。


「あっ・・・・き・・・来ました!」


 聞き覚えのあるこの調子の悪そうなエンジン音、そして荒いアクセル。ヘッドライトの光が見える前に僕は、一週間前に絵里香さんに怪我を負わした(一瞬だが)一味の車に間違いないと思った。


「・・・ボーナスは私がゲットだな・・・。太郎はここで隠れていろ」


「ま・・・待ってください」


「なんだ? 安心しろ。ボーナスは私とお前で山分けにしてやるから」


「ち・・・違いますって!」


 僕は立ち上がろうとする美沙さんを止めた。


「相手は素人とかじゃありません。いきなり絵里香さんに切りかかったんですから! 美沙さんも気をつけないと・・・」


 僕の必死の説明も、彼女は微笑を浮かべながら聞いている。


「確かに絵里香の身体能力は高い。私達の中でも一番だろう。しかし、魔力が私とは格段に劣る。任せておけ」


「ま・・・魔力・・・?」


 僕の頭を撫でると美沙さんは立ち上がって、不法なゴミを谷に捨て始めたトラックに向かって歩いていく。


「おい、お前ら。ここは私の領地だ。何勝手な事をしている」


・・・・、銀冶君に残念な報告がある。川から東の土地は銀治君が自分の縄張りだと主張していたが・・・美沙さんの領地だったようだ。

 

絵里香さんの時と同じく、不意に声をかけられた男達は声をあげて驚いている。いや、一週間も間を空けて来たと言うのに連続でまた見つかったという事で、より驚いたのかもしれない。


男達は前回のように武器を持って襲ってくると言う事は無く、すぐに車に乗り込んだ。おそらく、誰かに見つかればすぐに逃げると言うような事を事前に話し合っていたのかも知れない。


[ドルンッ]


 トラックは低いエンジン音を上げるとヘッドライトを付け、激しくエンジンを吹かす。そして、タイヤをスピンさせると急発進した。


「み・・・美沙さん!」


 美沙さんとの距離は30mくらいあっただろうか。トラックはすぐにスピードを上げ、道路の真ん中に立っている美沙さんに向かって突っ込んで来た。


[ガシャーン!]


「うわぁっ! 美沙さん! ・・・・え・・・」


 トラックは・・・・もう少しスピードがあったら真っ二つになったんじゃないかというように、前面をひしゃげている。それは、地下100mほどの深さまで打ち込まれた鋼鉄の杭にでも衝突したような光景だった。その杭の位置に・・・そこに立っているのはもちろん美沙さんだ。彼女は軽く手を上げてトラックを押すと、彼らの車は10mほど彼女から遠ざかった。


「ば・・・化け物・・・」


 男達はドアを開けてトラックから降りてくる。シートベルトをしていなかったようで、しこたま顔をハンドルか何かにぶつけたらしい。鼻時を出してフラフラと千鳥足だ。それでも必死に走って美沙さんから逃げ出そうとする男達だったが、腕が動いているだけで、足はピクリとも動かない。まるで地面に接着されたかのようだった。


「なっ・・・・足が・・・・どうなってんだっ!」


「すでに石にした。無駄なことは止めておけ。無理に動かそうとすれば、石と生身の境から千切れるぞ」


 男達は顔を引きつらせながら自分の下半身をさわっている。その後の彼らの表情から本当に石にされたということが良く・・・分かった。


「美沙さん・・・怪我は・・・?」


 僕は恐るおそる近づく。もちろん恐ろしいのはトラックや男達では無い。


「そんなものあるはずが無い。ところで、トラックという証拠品を押収した。人間は必要なのか? 完全に石にしてゴミの中に捨てておくか? それとも土の中にでも埋めておくか?」


「ちょっと待ってくださいね・・・」


 僕はトラックのナンバープレートを固定しているネジの付近を観察する。このプレートにある擦り傷。これは何度か止め直された跡だ。


「このトラック、偽造ナンバープレートが取り付けてある可能性が高いですね。おそらく目撃者が出た場合、取り替えるんでしょう。車から背後を探るのは難しいかもしれないです」


「なら・・・こいつらの口から聞くか。・・・私の拷問は過酷だぞ」


 美沙さんはトラックのバンパーを軽々と引きちぎると、その鉄製のプレートを持って男達の前に立った。


「ちょっ・・・ちょっと待って! 何でもするから・・・。何でも話しますから・・・。この人こわいぃぃぃぃ」


 男達は涙と鼻水、よだれを垂らしながら僕に向かって懇願してきた。





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