太郎と不法投棄3
「絵里香さん!」
僕は木の陰から出て走り寄ろうとした。だが、そんな僕にもトラックのヘッドライトが向いた。
「ちっ! 人間だったか! もう一人いるぞっ!」
絵里香さんに刃物を突き立てた男は助手席にすばやく乗り込んだ。トラックは僕に向かってスピードを上げて迫って来る。
「太郎!」
うずくまっていた絵里香さんだったが、すぐに立ち上がって僕に向かって走ってくる。僕はトラックのヘッドライトに映し出されながら固まっていた。まるで蛇の目を見たカエルかのように身がすくんで動けなかった。
[バンッ!]
トラックは僕をかすめて走り去る。・・・いや、トラックと僕との間には絵里香さんの体があった。彼女は僕を抱きしめながら道路を転がった。
「・・・・・・・はっ! 絵里香さん! 大丈夫ですか・・」
「あのやろー! よくもっ! よくもぉぉぉ!」
「・・・・え?」
絵里香さんは僕から手を離して元気良く立ち上がった。そして、胸に刺さっている棒を体から引き抜く。その時やっと気がついたのだが、それは刃渡りが20cmはある鎌だった。傷口から血が噴き出すんじゃないかと思った僕だったが、そこから出てきたのは白い蒸気のような物だった。
「大事な制服に穴をあけやがった! これ絶対弁償させるわよっ!」
絵里香さんの目は真っ赤に染まっていた。その瞳をキョロキョロと動かす。
「太郎! あいつらどっちに行った!」
「えっと・・・来た方とは逆側へ・・・、あっちに向かって・・・」
絵里香さんは飛び上がる。・・・そして、そのまま木より高い位置で静止してトラックが消えた方向を見ている。
「くそっ! もうトラックは見えないわ。それに見えたとしても距離が開いていて追いつけそうにないっ!」
ふわりと降りてくると、悔しそうに絵里香さんは地団太を踏んでいる。僕はつばをごくりと飲み込むと一つ一つ聞いていくことにした。
「あの・・・絵里香さん、ひょっとして・・・空を飛べるんですか?」
「飛べるわよ! 夜限定だけどね!」
「あの・・・刺された傷は?」
「あんな傷なんて瞬時に塞がるわよ! 同じ不死族でも、銀治の治癒とは訳が違うわ。私のは再生。腕一本無くなっても一分以内に作り出せるわよ!」
「あの・・・車に跳ねられたダメージは?」
「あの程度の衝撃、人間ならデコピンされた位の感じよ! でもちょっとは痛かったわ!」
「だ・・・だとしても・・・。かばってもらってありがとうございました・・・」
「ん・・・? ・・・かばわずに運転席に取り付いて奴らを引きずりだすって手もあったわね・・・。まあ、可愛い太郎のためよ」
ようやく絵里香さんは冷静になり、僕の頭に手の平を乗せて笑顔になってくれた。
「今日は・・・あの人達、もう来ないでしょうね・・・」
「次会った時は、すぐさま半殺しにして血を一リットルは吸うわ!」
僕達は来た道を引き返した。その途中、一番気になった絵里香さんの飛行能力について質問すると、「調子の良い時だと時速60kmは出る」とか、「パパは100km出して記録保持者(吸血鬼の大会?)」だとかいろいろ豆知識を教えてもらうことが出来た。
次の日、昼休みに事の成り行きを僕から聞いていた銀治君が、放課後部室の扉を開けるなり、
「絵里香って犯人取り逃がしたのかよ! だっせー!」
と言って、絵里香さんに窓から放り出されたところから部活動はスタートした。
「油断してたからよ! ・・・小里! 何クスクス笑っているのよっ!」
小里ちゃんは窓の方を向いて顔を見せないが、肩が震えている。
「次会ったら5秒以内に半殺しにしてやるわよっ!」
「ぬるいな。息の根を止めたら良いだろ?」
美沙さんが玉座に座り、頬杖をつきながら冷静な口調でそう言った。
「私は太郎と約束したのよ。めったな事では人を殺めないわ!」
「ふーん・・・。私はそんな約束しないぞ」
美沙さんは冷たい目で僕を見ている。さすが初対面のときにいきなり空から槍を降らせてきた人だけある・・・。この人と二人っきりで見回りに行く事は死を意味するかもしれない・・・。
「まあ・・・待てっ! 確かに、殺してしまうのは良くない」
「どうしてだ? 朱魅」
思いがけないことを言う。そんな表情をして美沙さんは朱魅さんの顔を見ている。
「まず、そのゴミを捨てに来ているトラックに乗っているのは、おそらく下っ端だな。そいつらを始末したところで、別に新しい人間を用意するだけだぞっ。その下っ端を捕まえるか、後を付けるかして一番悪い奴を引きずりださないとダメって事だ!」
「・・・なるほどな。では、その一番偉い人を殺すか?」
「それもダメだっ。私は市の職員に掛け合って、不法投棄の業者を突き止めてやめさせる見返りとして、報酬をいただく約束をしたんだ。市としても不法投棄された物を片付ける経費が削減できるから大喜びの裏取引ってわけなんだぞっ。ここに殺人事件が絡んでくると、市は知らない振りして報酬を出さないかもしれなくなるぞ」
「・・・・理解した。殺しはダメだな」
美沙さんは少し方向性が違うかもしれないが、とりあえず人を殺すことは今回に限り止めてくれるようだ。次回までの間に何とかずっとやめるように説得したいものだ・・・。
「んじゃ、今日の見回りのくじ引きでも始めようかっ!」
朱魅さんは昨日と同じく人数分の棒を握って出した。僕をじっと見つめ、「さあ引け!」と言う視線を送ってくる。普通・・・昨日行った人は除外とかじゃないんだろうか・・・。
「えー。それじゃあ、また今日も僕が当たれば行かなきゃ行けないって事ですか? それに昨日の今日であの人達来るかなぁ・・・?」
と僕は若干の不満を漏らしつつも、ぐいぐいと僕の顔の前に突き出してくる棒の中から、一本引き抜いた。今日は色が付いていない。はずれだ。
「ふーん・・・。今日は来ないみたいだなっ! じゃあ本日は自由行動にするぞ」
朱魅さんはそう言いながら握っていた棒をすぐに机の中にしまいこんだ。
「えっ・・・? な・・・何でですか? 僕が引いた後いきなりそんなこと言い出すなんて・・・?」
僕は訳も分からず朱魅さんの顔を見る。来ない事を朱魅さんはあらかじめ分かっていたのか? いや、それなら僕がくじを引く前にそう言えばいいはずだ。僕に引かせた意味って・・・?
そんな事を深く考える暇も無く、僕は気がつけば部室で対戦テニスのテレビゲームをやっていた。僕・朱魅 幹部チームVS銀治・絵里香 平チームだ。途中、力を入れすぎてコントローラーを破壊した銀治君は、同じチームの絵里香さんから壁に三回ほど叩きつけられた。
小里ちゃんは漫画を書き、美沙さんは静かに読書をする。このような毎日が一週間ほど続いた・・・。




