太郎と不法投棄2
部活を解散し、僕と絵里香さんはカフェで時間をつぶした後、問題の山中へ向かう。初めて異性とのデートだと言うのに、気になるのは向かいの人の唇・・・・・・・からチラチラ見える牙だった・・・。
「どうしたのよ? 銀治と話すみたいに私とも話をしてよ。それとも、女性相手だからって緊張しているの? ウフフ」
女性相手だからって理由ならもう少し話が出来ると思う。言葉が出ないのは、口の奥でカチカチと音をさせている奥歯のせいなんです・・・。
「ひょっとして・・・血を吸うと思ってるとか? 大丈夫よぉ。今はそんな気が無いし、あったとしても献血で抜かれる量と同じくらいしか吸わないから死にはしないわよ!」
「あ・・・あの、吸われちゃうと僕も吸血鬼になっちゃうんですか?」
「そんな訳ないでしょ! それじゃあ、私のファンクラブの人たちは全員バンパイアになってるじゃない!」
(やっぱ吸ってるんだ・・・)
「それは人間が私達を恐れるあまり作り出した間違いよね。大体、私は太陽も怖く無いし! ニンニクは・・・ニオイがちょっと苦手だけど、それはただ単に臭いからだしね!」
「あの・・・吸いたくなった時は言ってくださいね・・・。腕出しますから・・・。急に後ろから噛まれるのは恐いんで・・・」
「あはは! その時はそうするわね! それに・・・太郎は朱魅のお気に入りみたいだから・・・よほどの事が無い限りやめとくわ!」
「え・・・。お気に入り?」
「あの子強いからね。美沙はどうかしらないけど、私は初めてあった時、とてもかなわないから・・・ケンカはやめとこうって思っちゃったわけよー。多分、銀治程度なら玉座から動かないでぼろ雑巾のように出来ると思うわよ!」
(やってました・・・)
「でもまあ、朱魅が恐いから部活に入った訳じゃないわよ。太郎ならどうする? 周りがモンスターばかりの毎日。そこで自分と同じ人間が現れて部活に勧誘してきたら」
「そ・・・それはもちろん飛びつきます!」
「まあちょっと違うかもしれないけど・・・そんな感じね!」
僕は絵里香さんや美沙さん、それに小里ちゃんがスムーズに勧誘に応じた理由が今やっと分かった。
絵里香さんと話しているうちに、僕の緊張(恐怖)もほぐれ、バンパイアと言ってもそれほど気にするほどの存在でもないんじゃないだろうかと思えるようになってきた。話は通じるし、ユーモアはあるし、何より美人だ。人間の中にもっと手に負えないような犯罪者はたくさんいるだろう。
「あれね・・・。ひどいわね・・・」
僕達はガードレールに手をかけて上から見下ろす。谷になっている部分にゴミが山のように積みあがっている。電化製品から怪しいドラム缶までさまざまだ。
「思ったよりすごい・・・って言うか、僕が受験勉強中に見つけた時のここのインターネット画像よりも・・・更に多くなっている気がします・・・」
「ゴミを捨てるのにお金がかかるのは当たり前。それを払うのが嫌だからって・・・、こんな事をするなんて・・・人間としてもゴミね。間引いてやろうかしら・・・」
銀治君と同じで、最後の一言が実行可能なだけあって怖い・・・。
「あ・・・あの・・・。悪い人にはそれ相応の罰が待っているんで・・・。出来れば・・・あの・・・人間同士で裁きを下してあげたいな・・・って・・・」
「あは! わかってるわよ! 人を殺すなって言っているのよね? 太郎はやさしいねー。・・・でも、私に危害を加えようとする奴らは・・・私が裁いても良いわよね?」
絵里香さんの瞳は少し赤みを帯びているように見えた。
「えっと・・・。で・・・出来るだけ・・・、半殺し程度で・・・」
「あははっ! 半殺しねっ! 分かったわよ! じゃあ、半殺しと、血液500mlで手を打ちましょう!」
「よ・・・よろしくお願いします・・・」
僕のこの言葉で、ひょっとして犯罪者と言えども、数百人の命が助かるかもしれない・・・、そう思った。
「・・・ん? 車・・・。太郎、隠れましょう」
山道にヘッドライトが見える。それは、慌てて木の陰に隠れた僕達の目の前を通り過ぎて行ってしまった。
「太郎、まだ4月だから蚊はいないと思うけど大丈夫? 噛まれて無い? 私は蚊に噛まれたこと無いけどね。バンパイアから血を吸うのは蚊と言えども無理みたいね!」
絵里香さんは口角を上げて微笑む。僕は愛想笑いではなく、白い歯を見せて笑ってしまった。
僕達は30分ほどそうしていただろうか。絵里香さんの話は楽しく、ファンクラブがあるのも大いに納得できる。そんな僕達に、先ほど通り過ぎた車とはまた違ったエンジン音が聞こえてきた。音が不ぞろいでバラつきがある。それに、この排気量が大きそうで低い音は・・・トラックのような気がする。
「あまり整備されてないような車が近づいてくるような気がしますね・・・」
「見えるわ。トラックね」
「見えるんですか? 僕にはライトの光以外さっぱり・・・」
「私は当然、夜目が利くのよ!」
その車は相当重いものを積んでいるのか、エンジンをかなり吹かしながら坂を上ってくる。そうして、先ほど僕達が谷を覗き込んでいた場所に止まり、エンジンを切り、ヘッドライトも消した。
(怪しいわね。初日にして当たりかな)
(ゴミを回収しに来てくれた業者って訳じゃなさそうですね。すでに荷台は満タンだし、夜に来るのも変ですもんね・・・)
僕達は小声で話をする。トラックから降りてきた作業服姿の男二人は、街灯の光の中で仕事をしているようだ。何かが谷を転がり落ちるような音と、そして谷の底で物がぶつかるような音も聞こえてくる。
(決まりね。太郎は危ないからここで見ていなさい)
絵里香さんは僕を残して悠々とその怪しい男達に近づいていく。「女性一人で行かせられない!」なんてセリフを言うチャンスだが、それは人間の女の人相手の時用に僕は取っておくことにした。
「みーちゃった。おじさん達がここで勝手にゴミを捨てていた人達だったのね! 社会のルールも守れないなんて・・・天に代わって吸血鬼が成敗しちゃうぞっ!」
不意にかけられた絵里香さんの声に驚いた様子の男達だったが、相手が高校生の女の子だと知ると、逆に近づいてきた。
「お嬢ちゃん、こんな時間に山道を一人歩き? 危ないよぉー」
「そうそう、何かあっても文句は言えないよねぇ・・・」
一人が絵里香さんの腕を掴んだ。
「人気が無いところで、何かあっても文句は言えないって言うのはおじさん達も同じ。でも、ラッキーな事に私は太郎と約束したのよね。普通なら・・・もうあなた達の首は胴体とバイバイしちゃってる所なんだけどねー」
そう言いながら絵里香さんは自分の腕を掴んでいる男の手を逆側の手で掴む。
「・・・・、気味悪いお嬢ちゃんだな・・・。もしかして何か薬でも・・・ぐっ・・・ぐわぁぁぁぁ!」
静かな山間に男の悲鳴がこだました。その男は絵里香さんから離れると、腕を押さえて後ろに下がり、トラックに背中をついた。
「もろいわね、人間は・・・」
「ば・・・化け物・・・。幽霊かっ!」
男の声は震えていた。幽霊ね。普通そっちだよね。ここでの答えは、まさかの『バンパイア』まあ、なかなかこの正解は出ないよね・・・。
もう一人の男は慌ててトラックに乗り込んだ。とたんにヘッドライトが点灯する。
「もうっ! いきなり・・まぶしいわね・・・」
絵里香さんは顔を手で覆う。そのとき、もう一人の男がトラックの陰から何かを取り出し、振り上げた。
[ザクッ!]
「きゃっ!」
短い棒のように見えたそれだったが、振り下ろされると絵里香さんの体にくっついたままになる。棒と絵里香さんとの体の間に、銀色に光るものが見えた。・・・刃物だ!




