辿り着く
灰々津はスマホをいじりながら雑談のように話す。
「防犯カメラに映っていた車のナンバーを検問にかけると、すぐに引っかかった。運転手と同乗者を任意同行させて事情を聞いたところ、ただの県越え中の若者だった。彼らが話した通行ルートのガソリンスタンドの防犯カメラにもその車が映っていた。その時刻は昨夜二十時。検案で出された死亡推定時刻と重なっていた」
つまり、比野が目撃した黒い車の持ち主たちは犯人ではなかったということだ。
下がった遮断桿の前で停車させた保田は、点滅する赤い光を見ながら考える。
田舎で見知らぬ車はただでさえ目立つ。後部座席の窓が隠されていて、運転手の顔も判然としないことから怪しさが増し、遺体を発見した動揺もあって、比野の中ではその車こそが犯人のものだと認識されてしまったのだろう。
隣で、低い声が続ける。
「ネットにある移動販売業者のデータベースから、かるがもスーパーの事業所情報を得た。その代表者名を署のデータベースにかけたところ、二ヶ月前に交通事故で亡くなった女性の兄だとわかった」
踏切を越えて、坂道を上って行く。カーナビは市街地の北にある高台へのルートを示している。
事故記録に記載されている葬儀社から墓地の情報を得たのだろう。目的地である尾堂北霊園に到着すると、駐車場に見覚えがある軽トラがあった。荷台の扉に描かれたかるがものイラストを見つめながら、灰々津の話を聞く。
もはや推理に近かったが、真実である気がした。なぜかはわからない。もしかすると警察官の勘というものかもしれない。
「この役は、守男が適任だ。頼めるか」
保田は苦いものを呑み込むようにうなずいた。
第二区画の端にある墓石の前に、青年がうずくまっている。西の空に沈みゆく光が、彼の影を細長く伸ばしている。
「こんにちは、かるがもスーパーさん……いや、遠藤透さん」
声をかけると、遠藤は背中をびくっと震わせて、ゆっくりと振り向いた。
「おまわりさん……」
なぜここに、尾行してきたのか、などと問いたげな顔を見下ろして、保田は重い口を動かす。
「ごめんね、いろいろと調べさせてもらったんだ。ちょっと話をさせてもらってもいいかな」
遠藤は口を引き結び、また墓石のほうを向いた。
「今朝、赤蔵町で遺体が見つかったんだ。被害者の名前は、坂井徳二。……君も、面識はあるよね」
何も答えない背中へ、言葉を続ける。
「君は赤蔵町を回っているときに、シロが寝ぐらにしている廃屋の存在に気づいた。その裏手にある地蔵にも。でもたぶん初めはあまり気にせず、ただシロにエサをあげるために度々足を運んでいたんだろう。そうするうちに、その廃屋に住み着いた坂井さんと会った」
坂井は四年前、借金の返済で食うにも困り、スーパーで食品を万引きして逮捕されていた。
当時の供述調書に記されていた借入先を捜査員が洗い直したところ、闇金業者である可能性が高いことがわかった。おそらくは取り立てに追われて着の身着のまま逃げ出し、持ち金が尽きるまで電車に乗り、人目を避けて山手を目指し、赤蔵町に辿り着いたのだろう。
「君は坂井さんに毛布を差し入れ、廃棄の食材も渡していたんじゃないか。そのときに雑談もしたんだろう。あの地蔵の信仰についても、ちょっとした怪談話のつもりで語ったんじゃないか」
遠藤の肩越しに、墓前に飾られた白い百合とかすみ草が揺れている。くゆる線香の煙。
「それからしばらくして、君の妹さん、美冬さんが交通事故で亡くなった」
遠藤が、ははは……と乾いた笑い声を上げた。
「妹を亡くしたことで狂った僕が、生け贄地蔵の信仰にすがりついた。ちょうどおあつらえむきに浮浪者がいる。その命と引き換えに妹を生き返らせようとした、ってことですか」
うろんげな目がこちらを向いた。
「証拠は、あるんですか」




