2.お膝元の暗雲と交差する正義-1
神田にある練兵館の朝は、張り詰めた空気と、突き抜けるような気迫がこもった掛け声で始まる。
「面――っ!」
「打ちが軽いぞ、もう一歩踏み込め!」
道場から響く竹刀の音を聞きながら、私は裏手の井戸端で、黙々と道場生たちの道着を洗っていた。
冷たい水に手を浸すと、感覚がじわじわと麻痺していく。けれど、この痺れるような冷たさこそが、かつて隠れ里で『影』として生きていた私にとって、最も馴染み深い感覚だった。
江戸に来てから、数日の月日が流れていた。
昼間、私は龍馬さんや桂さんの配慮によって、道場の雑用を手伝う少女として身を隠している。気配を限界まで薄め、誰の目にも留まらないように動くことは、私にとって呼吸をするよりも簡単なことだった。けれど、夜が訪れ、江戸の街が深い闇に包まれると、私の身体は再び『影』へと戻る。
「……今夜も、霧は出ないな。」
夜更け。
私は道場の屋根からひらりと飛び降り、音もなく江戸の夜の街へと駆け出した。目指すは、お兄ちゃんが囚われているという幕府の重要拠点、桜田門の周辺。外界の夜は、隠れ里の夜よりもずっと複雑だ。大通りには、大老・井伊直弼が放った『見廻り』の役人たちが、松明を掲げて目を光らせている。安政の大獄の嵐が吹き荒れる江戸では、少しでも怪しい動きを見せる者は、容赦なく捕縛され、伝馬町の牢屋敷へと連行されていく。私は家々の屋根瓦の上を、猫のようにつま先だけで渡っていく。風の音に紛れ、月明かりを背に受けないよう、常に建物の影を選んで進む。桜田門の近くまで辿り着くと、そこには昼間よりもさらに重苦しい静寂が広がっていた。巨大な石垣と、固く閉ざされた門。その周囲を、厳重な甲冑を身にまとった兵士たちが隙間なく警護している。それだけではない。門の奥、一般の人間が決して立ち入ることのできない敷地の奥深くから、ひどく冷たく、悍ましい『気配』が漂ってくるのを感じた。
間違いない……。ここに、あの男たちの組織がある。
里を滅ぼし、お兄ちゃんを連れ去った、幕府の最凶暗殺組織『暗部』。
門を見つめる私の右手が、自然と腰の短刀の柄へと伸びる。憎しみで胸の奥がドクドクと激しく脈打つ。今すぐこの門を飛び越え、立ち塞がる兵士たちをすべて排除して、お兄ちゃんを助け出したい。けれど、桂さんの『焦って一人で動くな』という言葉が、辛うじて私の暴発を押し留めていた。今の私が無策で飛び込めば、お兄ちゃんに辿り着く前に、この強大な幕府という国家の力に圧殺されてしまう。悔しさに唇を噛み締めながら、私は一度、練兵館へと引き返すことにした。
道場の裏口から静かに忍び込むと、奥の座敷から、微かに灯火の光が漏れているのが見えた。
お茶を持って報告に行こうと近づくと、中から龍馬さんと桂さんの、いつになく深刻な話し声が聞こえてきた。
「……やはり、松陰先生は死罪を免れんようか。」
桂さんの、悲痛な声だった。いつも凛として崩れない彼の声が、今夜はひどくかすれて、震えている。
「長州の、吉田松陰先生かえ。井伊の奴、そこまでやるか……。あの御仁は、ただこの国の未来を憂い、若者たちに学問を教えていただけじゃないか。」
龍馬さんの声にも、いつもの陽気さは微塵もなかった。地を這うような、深い怒りが滲んでいる。
「松陰先生は、私たち長州の志士にとって、魂の親とも言えるお方だ。先生の教えがあったからこそ、私たちはこの国を異国から守り、新しく変えようと立ち上がることができた。それなのに、幕府はその光を、力尽くで踏みつぶそうとしている。」
桂さんが拳を固く握りしめ、畳を叩く音が聞こえた。
「狂っている……。今の幕府は、己の権力を守るためなら、どんなに尊い命であっても容赦なく奪う。こんな間違った時代は、私たちの手で終わらせなければならない。倒幕のうねりは、もう誰にも止められないぞ。」
座敷の外で、私はお盆を抱えたまま、じっとその言葉を聞いていた。
吉田松陰。会ったこともないその人物のために、桂さんや龍馬さんは、これほどまでに胸を痛め、命を懸けて幕府と戦おうとしている。彼らが掲げる『攘夷』や『倒幕』という思想。それは、私が抱いているような「家族を殺された個人的な復讐」とは違っていた。もっと大きくて、もっと尊い、この国に生きるすべての人々の未来を守るための『信念』。その熱さに触れるたび、私の胸の奥に、復讐の炎とは異なる、小さな、けれど消えない灯火が灯っていくような気がした。
お茶を差し出すと、桂さんは無理に微笑みを作って私を迎えてくれた。
「帰ったか、茜さん。夜の偵察、苦労をかけるね。」
「いえ……。桂さん、お兄ちゃんの件で、何か新しい情報はありましたか?
」
私が尋ねると、桂さんは懐から一枚の古びた図面を取り出し、畳の上に広げた。
「我が長州の隠密が、命懸けで手に入れた桜田門内部の、古い建築図面だ。現在の『暗部』の施設は、この地下に建造されている可能性が高い。だが、入り口には特殊な鍵と、彼ら独自の『合言葉』が必要になるらしい。」
「合言葉……。」
「ああ。それも、日によって変わる。内部に潜入するには、その合言葉を管理している幕府の幹部から、直接情報を奪うしかない。だが、現在の江戸でそれを調べるのは極めて危険だ。なぜなら、井伊直弼の足元を固めるために、近頃、腕利きの浪士集団が市中の見廻りを強化し始めているからだ。」
「腕利きの浪士集団?この前話していた浪士組ですか?」
「気づいていたか。……そうだ。試衛館という道場の者たちを中心とした、近藤勇や土方歳三といった凄腕の剣客たちが、幕府の命を受けて動いているらしい。彼らは討幕派の志士を狩るために、獣のような執念で街を徘徊している。」
「近藤……土方……。」
その名を聞いたとき、私の背筋に、冷たい戦慄が走った気がした。
翌々日の夜。私は桂さんから得た図面の情報を元に、桜田門のさらに外縁にある、武家屋敷街へと潜入していた。幹部たちの出入りを監視し、合言葉の手がかりを掴むためだ。
大きな屋敷の塀の上に身を潜め、息を殺して通りを見下ろす。すると、前方の角から、カラン、カランと規則正しい下駄の音が聞こえてきた。現れたのは、数人の男たちだった。先頭を歩くのは、羽織を纏った、体躯の大きな男。その隣には、冷徹な眼差しをした、長い髪を後ろで結んだ男。
そして、もう一人――。
「土方さん、今夜は随分と静かですねえ。志士の鼠どもも、寒さに震えて穴を掘って隠れているんでしょうか?」
冗談めかした、けれど底冷えするような声を出したのは、色白い肌の、年若い少年のような剣士だった。その背中には、身の丈に合わないほどに長い刀が差されている。
「油断するな、総司。松陰の処分が決まり、長州の過激派どもがいつ暴発するか分からない。俺たちの仕事は、この江戸の治安を守り、幕府の威信を汚す不逞浪士を一人残らず叩き斬ることだ。」
冷徹な眼差しの男――土方と呼ばれた人が、低い声で応じる。
「分かっていますよ。近藤さんも、僕たちの働きを期待してくれていますからね。この国を、異国の脅威から守るためには、まずは身内の泥を払わなきゃいけない。幕府という絶対の柱が揺らいだら、日本は終わりだ。」
総司と呼ばれた少年のような剣士が、ふっと無邪気に笑った。けれど、その笑顔の裏にあるのは、躊躇なく人の命を奪うことのできる、圧倒的な『死の気配』だった。私は塀の上で、指先が凍りつくのを感じていた。彼らが語る言葉。それは、私にとっては「里を滅ぼした悪の組織の言い分」のはずだった。けれど、彼らの声には、一片の迷いも、私欲もなかった。彼らもまた、龍馬さんや桂さんと同じように、「この国を守るために、幕府を支える」という、命懸けの正義(信念)で動いているのだ。
幕府は……単なる悪じゃない……?
私の心の中に、初めて大きな戸惑いが生まれた。
私の村を焼き、両親を殺したのは、確かに幕府の人間だ。それは絶対に許せない。けれど、今目の前を通り過ぎていく男たちは、その幕府を守るために、己のすべてを捧げて戦っている。桂さんたちの正義と、彼らの正義のぶつかり合い。一体何が正しく、何が間違っているというのだろう。
「――おや?」
突然、総司と呼ばれた少年のような剣士が足を止め、私の潜んでいる塀の方へと視線を向けた。その透き通るような瞳が、闇の奥にいる私を正確に捉えたような気がして、私は思わず呼吸を止めた。
「どうした、総司?」
「いえ……。気のせいか、可愛い山猫の気配がしたような気がしまして。」
気づかれている…!?
総司は妖しく微笑むと、再び歩き出した。男たちの影が、ゆっくりと夜の闇の向こうへと消えていく。
彼らの姿が見えなくなった後、私はようやく、大きく息を吐き出した。全身から冷や汗が吹き出していた。これが、江戸。佐幕派の強者たちが蠢く、修羅の街。私は腰の短刀を、そっと抱きしめる。
お兄ちゃん。私は今、とんでもなく巨大で、複雑な戦いの中に足を踏み入れてしまったのかもしれない。
討幕派の熱き志、佐幕派の譲れない正義。その二つの激流に揉まれながら、私の心は、揺れ動き始めていた。けれど、どんなに世界が混迷を極めようとも、私の目的はただ一つ。あなたを、あの闇から救い出すこと。
私は夜空に浮かぶ、薄暗い月を見つめながら、自らの信念をもう一度、深く心に刻み込むのだった。
きらきらと輝く木漏れ日が、江戸の賑やかな街並みを照らしていた。
前夜の重苦しい雨が嘘のように晴れ渡った日本橋の通りは、天秤棒を担いだ魚売りや、華やかな小袖を着た町娘たちでごった返している。私は練兵館の大きな買い物籠を腕に下げ、人混みの隙間を縫うようにして歩いていた。昼間の私は、ただの大人しい住み込みの雑用係。気配を消し、猫のように足音を立てずに歩く術は、ここでは「人混みで他人にぶつからないための知恵」として大いに役立っている。
「大根に、お豆腐に、あとは道場生たちのための常備薬、か……。」
龍馬さんに名付けてもらった『茜』という名前が、胸の奥で小さく木霊する。
あの日、彼から貰った光の色を思い出すたびに、復讐の冷たい炎で凍りつきそうになる私の心は、かろうじて人の温もりを繋ぎ止めることができていた。けれど、夜になれば私は再び『影』となり、お兄ちゃんの行方を追って桜田門の暗闇を這う。そんな二重の生活が、私の心と身体を少しずつ摩耗させているのも事実だった。
「おい、邪魔だ! どけ!」
突然、前方の路地から荒々しい怒号が響き、買い出しの人々が悲鳴を上げて左右に割れた。見れば、酒に酔った数人の浪士が、抜身の刀を振り回しながら通りを暴れ回っている。町人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、果物や野菜が地面に散乱した。私のすぐ目の前で、小さな子供が逃げ遅れ、転んで泣き叫んでいる。その頭上に、男の凶刃が振り下ろされようとした。
――ダメッ……!
身体が本能的に動いた。買い物籠を放り出し、袖の苦無へ手を伸ばそうとした、その刹那。
「そこまでだ、不逞の輩め。」
低く、けれど地響きのように重厚な声が通りに響き渡った。次の瞬間、私の視界を掠めて、凄まじい速さで突進した一人の大きな影が、刀を振り上げた浪士の腕を、鞘に収まったままの太刀で烈火のごとく打ち据えた。骨の砕ける鈍い音と共に、浪士が悲鳴を上げて地面に転がる。
「な、何奴だ……!」
残りの浪士たちが怯えながら構える中、割って入った男は、悠然とそこに立ちはだかった。
がっしりとした逞しい体躯に、浅黒い肌。太い眉の下にある瞳は、驚くほど澄んでいて、人情味に溢れている。その男は、怯える子供を優しく背中に隠すと、浪士たちに向かって穏やかに、けれど絶対の威厳を込めて言い放った。
「白昼堂々、大通りで刃物を振り回して民を脅かすなど、武士の風上にも置けぬ。おとなしく縛に就け。」
「く、くそっ……試衛館の近藤だ! 近藤勇が出たぞ!」
男の名前を聞いた瞬間、私の背筋に冷たい電流が走った。
近藤勇。桂さんが言っていた、幕府の命を受けて江戸の治安を守る、最強の剣客集団の1人。浪士たちはその名を聞いただけで戦意を喪失し、仲間を抱えて一目散に逃げ去っていった。
「やれやれ、怪我はなかったかい、坊。」
近藤は刀を腰に戻すと、すぐに腰を落として子供の頭を優しく撫でた。その笑顔は、さきほど猛獣のような一撃を放った男とは思えないほど、温厚で人当たりが良い。子供が泣き止み、母親が何度も頭を下げて去っていくのを、彼は満足そうに見送っていた。それから、近藤は地面に転がった私の買い物籠に気づき、それを拾い上げてくれた。
「お嬢さんも、怖い思いをさせたね。怪我はなかったかい?」
「あ……はい。ありがとうございます。」
私はとっさに、ただの怯える町娘の仮面を被り、お辞儀をした。
驚きだった。これが、里を滅ぼした幕府の側に立つ男なのか。その掌は分厚く、多くの人間を斬ってきた厳しさがあるのに、私に向ける眼差しには、微塵の邪気も、傲慢さもなかった。
「おや、近藤さん。またそうやって、見境なく町娘に格好をつけているんですか?」
背後の影から、からかうような鈴の鳴る声が響いた。
現れたのは、前夜、武家屋敷街で見かけたあの二人。初めてあの二人に会った夜に桂さんに教えてもらった剣士__土方歳三と、沖田総司だった。
「これこれ、総司。人聞きが悪いことを言うな。俺はただ、困っている人を助けただけだ。」
近藤が苦笑しながら振り返る。その横で、長い髪を揺らした土方歳三が、ゆっくりと私の方へ歩を進めてきた。彼の鋭い、切れ上がった瞳が私を捉えた瞬間、周囲の空気が一変した。まるで、凍てつく冬の刃を突きつけられたかのような、異常なまでの警戒心と、凄まじい圧迫感。土方は私の前で立ち止まると、値踏みするような視線で、私の全身を頭から爪先までじっくりと見つめた。その圧に呼吸が、無意識のうちに浅くなる。
「……土方さん? どうかしましたか」
「おい、お前…。」
土方は近藤の言葉を無視し、低く冷酷な声で私に問いかけた。
「その籠の持ち方、そして足の重心の置き方……ただの町娘じゃねえな。神田の練兵館の道着を着ているが、お前、桂小五郎の身内か? それとも、長州の隠密か。」
その一言に、私の心臓が大きく跳ね上がった。
一瞬で見抜かれた。私がどれだけ気配を消し、普通の娘を装っていても、長年身体に染みついた『影』の身体のこなし、そして練兵館の手伝いをしているという僅かな痕跡を、この男は一目で見破ったのだ。
土方の右手が、冷徹に刀の柄へとかけられる。周囲の町人たちが、ただならぬ殺気に気づいて再び静まり返る。私の袖の中で、苦無を握る指先がじっとりと汗ばむ。ここで戦えば、私の正体は完全に露見する。けれど、この距離で土方歳三の抜刀をかわせるかどうか――。
「まあまあ、土方さん。そうやって美人にばかり凄むのは、江戸の男として野暮天ってやつですよ。」
緊迫した空気を切り裂いたのは、沖田総司の、どこかニヒルな微笑みだった。沖田は土方の肩にひょいと手を置くと、私に向かって、悪戯っぽく、けれど底の知れない影を宿した瞳を向けた。
「それにしても、不思議ですねえ。君、いつかの夜、桜田門の近くの塀の上にいませんでした? とても足の速い、可愛い黒猫さん?」
「――ッ!!」
沖田の言葉に、私は息が止まりそうになった。
気づかれていた。私は完全に気配を断ち、闇に同化していたはずなのに、この少年のような剣士は、やはり私の存在を正確に察知していたのだ。彼の口元は笑っている。けれど、その瞳の奥には、陽の光さえも吸い込んでしまうような、仄暗い闇の深淵が広がっていた。若くして、数え切れないほどの死を看取ってきた者だけが持つ、特異な影。
「総司、お前、何を言って――!」
土方が不審そうに眉を寄せたその時、近藤が二人の間に割って入った。
「これ以上、お嬢さんを怖がらせるな、歳、総司。見てみろ、可哀想に、手がこんなに震えているじゃないか。」
近藤が私の手を取り、買い物籠を握らせてくれた。
確かに、私の手は震えていた。けれどそれは恐怖からではなく、彼らが放つ圧倒的な『強者の気配』に、私の戦闘本能が激しく共鳴していたからだった。
「さあ、お嬢さん、早くお帰り。神田の方なら、あそこの大通りをまっすぐだ。夜道には気をつけなよ。」
近藤はそう言って、父親のような温かい笑顔で私の背中を軽く押した。土方は納得のいかない様子で、最後まで私を蛇のような目で睨みつけていたし、総司は「またね、黒猫さん」と、声を出さずに唇だけを動かして微笑んでいた。三人の背中が、賑やかな日本橋の人混みの向こうへと消えていく。彼らの姿が完全に消えた後、私はようやく、深く溜め込んでいた息を吐き出した。足の力が抜けそうになり、近くの壁に思わず寄りかかる。
「……浪士組。」
胸の奥で、その名前が重く響く。
龍馬さんや桂さんのような、新しい時代を夢見る討幕派の光。そして、今目の前を去っていった、旧き国を守るために命を燃やす佐幕派の狼たち。
近藤勇の、民を愛する嘘偽りのない優しさ。
土方歳三の、組織を守るための異常なまでの冷徹さと警戒心。
沖田総司の、無邪気な笑顔の裏に潜む、ニヒルで仄暗い死の影。
彼らは、単なる『里を滅ぼした悪鬼羅刹』ではなかった。彼らもまた、血の通った人間であり、自分たちの信じる『正義』のために、この狂った時代を必死に生きているのだ。激しい混乱が、私の心を支配する。私の憎むべき幕府の足元には、あんなにも眩しく、そして切ないほどに純粋な命が息づいている。
相容れない二つの正義。その狭間で、私はこれからどうやって刀を振るえばいいのだろう。けれど、困惑と同時に、私の中に、言いようのない強い衝動が芽生えていた。もっと知りたい。あの男たちのことを。彼らが命を懸けて守ろうとする幕府の正体を。
私は買い物籠を強く握り締め、彼らが去っていった空を見つめた。
雲の隙間から差し込む陽の光が、私の影を、これまでよりもずっと濃く、地面に描き出していた。




