3.洛中の烈火、揺らぐ境界-1
東海道を西へ進むこと数日。鈴鹿の山越えを終え、ついに私は、山に囲まれた古の都――京都の地へと足を踏み入れていた。
三条大橋を渡ると、江戸のあの開けた、どこか喧騒の中にも大らかな活気がある空気とは、明らかに異なる重苦しさが肌を刺した。狭い路地が碁盤の目のように交差するこの街は、千年の歴史が育んだ気品の裏に、ドロドロとした人間の怨念と政治の毒を隠し持っている。至る所に各藩の藩士たちが目を光らせ、すれ違う者たちの誰もが、互いの出所を探り合うように視線を険しく尖らせていた。
私が京都へやってきた理由は、ただ一つ。大老・井伊直弼の直属暗殺組織『暗部』が、京に集まる倒幕派を根絶やしにするために、拠点を丸ごとこの地へ移したからだ。そして、その闇の最奥には、完全に心を壊され、幕府の最高傑作の人形と化した私のお兄ちゃんがいる。
「必ず、見つけ出す……。」
鴨川の濁った川面を見つめながら、私は懐の短刀を小袖の上からそっと確かめた。勝海舟先生が教えてくれた情報の通りなら、暗部はすでに京のどこかに強固な潜伏拠点を築いているはずだ。だが、外界から隔絶された隠れ里出身の私にとって、この京都の複雑な街並みと、複雑に絡み合う人間の関係性は、江戸以上に視界を遮る霧のようだった。
さらに、この街にはもう一つの熱が渦巻いている。
松陰先生を失い、復讐の修羅と化した久坂玄瑞さんたち長州の志士。それを裏から止めようともがく龍馬さんや桂さん。そして、あの江戸の夜、私に「世界を力尽くでぶち壊せ」と言い放ち、狂気を燃やす高杉晋作さん。彼らもまた、この京都という巨大な坩堝のどこかにいるはずだった。
その日の夜更け、私は暗部の痕跡を探すため、密かに木屋町の暗い路地を這っていた。高瀬川の水面に行灯の光が揺らめく中、突如、前方から激しい足音と、金属が激しくぶつかり合う音が響いた。
「――そこな不逞浪士、神妙に縛に就けぃ!」
鋭い怒号が夜の静寂を切り裂く。
見合せていた路地の陰から飛び出してきたのは、血に塗れた刀を構えた長州風の男と、それを追う、見覚えのある浅葱色の羽織を着た数人の剣客たちだった。
壬生浪士組――。
思わず息を潜める。江戸で遭遇した近藤勇や土方歳三たちが結成した、幕府直轄の「新撰組」と呼ばれる治安維持組織だ。今はまだ京の人間から「壬生狼」と蔑まれながらも、その剣技と容赦のなさは、すでに京の志士たちを震え上がらせ始めていた。
「チッ、幕府の犬どもが……!」
逃げてきた男が、私の潜む路地へと飛び込もうとした瞬間、浅葱色の影が風のようにその背後に躍り出た。
「はい、そこまでですよ。」
鈴の鳴るような、ひどく場違いで、冷徹な声。闇を切り裂いたのは、沖田総司の刀だった。
一閃。
男は悲鳴を上げる間もなく、喉元を深く裂かれ、高瀬川の冷たい水の中へと崩れ落ちていった。
「ふぅ……。京都の夜風は、江戸よりも少し冷たいですね。」
沖田総司は刀の血を軽く振ると、懐から手ぬぐいを取り出して刃を拭った。その白い肌は相変わらず病的なまでに美しく、その瞳の奥には、底の知れない暗黒が揺らめいている。私は気配を完全に殺し、壁のシミになりきるようにしてじっと息を止めていた。隠れ里で叩き込まれた隠蔽の技。さすがの沖田総司も、私自身の気配には気づいていないようだった。けれど、総司は死体を見下ろしたまま、ふっと楽しそうに口元を歪めた。
「そういえば、江戸で逃がした『黒猫さん』も、そろそろこの街に着いている頃でしょうか。土方さんが首を長くして待っていますよ。……次に会ったら、今度こそ僕が綺麗に捌いてあげなくちゃ。」
総司たちは、そのまま静かに死体を回収し、闇の向こうへと去っていった。
新選組の刃は、確実にこの街の闇を浸食している。そして、その新選組を裏から操り、あるいは彼らをも利用して京を血で染めようとしているのが、お兄ちゃんを囚う幕府の『暗部』だ。
私は暗闇の中でゆっくりと立ち上がり、沖田たちが去っていった方向とは逆の、長州藩邸がある河原町の方角を見つめた。高杉さんは今、どこで、どんな顔をして三味線を弾いているだろうか。ふと思い出すあの人の横顔。あの人が世界を燃やし尽くす前に、そして私のお兄ちゃんが完全に人の心を失う前に…。
「何としても、見つけないと。」
私は再び闇の中に潜り込んだ。
高瀬川のせせらぎから離れ、私は冷たい夜気を孕んだ河原町の通りへと静かに身を躍らせた。
京都の夜は、江戸よりも格段に暗い。等間隔に並ぶ町家の軒先には、固く閉ざされた大戸が連なり、行灯の光さえも絞られている。まるで街全体が息を潜め、いつどこから飛び出してくるか分からない刃の影に怯えているようだった。
長州藩邸の周辺は、とりわけ張り詰めた空気が漂っていた。門前には固く槍を握った藩士たちが立ち、周囲の暗闇を鋭い目で見張っている。私が江戸の練兵館で手伝いをしていた雑用係の「茜」として、このまま正面から入るのは得策ではなかった。あそこには今、日本中から集まった過激な攘夷志士たちがひしめき合っている。私の目的はあくまでお兄ちゃんを縛る『暗部』の捜索であり、長州の政治的な暴発に巻き込まれるわけにはいかない。私は藩邸の裏手にまわり、かつて桂さんから聞いていた、なじみの志士たちが密かに連絡用に使っているという古びた質屋の勝手口へと近づいた。気配を断ち、引き戸をわずかに引いて滑り込む。
「……誰だ?」
闇の中から、低く鋭い声が響き、同時に冷たい鉄の匂いが近づいた。
「練兵館の、茜です。桂さんか、坂本さんはおられますか?」
私が声を潜めて名乗ると、一瞬の沈黙の後、カチリと火打石が鳴り、小さな灯火が男の顔を照らし出した。そこにいたのは、少しやつれた顔をした桂小五郎さんだった。
「茜さん……! 無事、京へ着いたのだね。怪我の具合はどうだ?」
「はい。もう走る分には差し支えありません。」
桂さんは安堵したように息を吐き、私を奥の狭い畳敷きの部屋へと導いた。部屋には、江戸の練兵館にいた頃とは比べものにならないほど、重苦しい空気が沈殿していた。
「龍馬なら、今は別の隠れ家で土佐の連中と合流している。京の情勢は最悪だ。江戸で松陰先生が処刑されて以来、久坂たちの怒りは完全に制御を失っている。彼らは公家たちに接近し、朝廷の権威を使って幕府を武力でねじ伏せようと躍起になっているのだ。……だが、それを幕府方が黙って見ているはずもない。」
桂さんは眉間を深く揉みほぐしながら、京都の厳しい現実を語った。先ほど木屋町で目撃した、沖田総司による浪士の斬殺。あれは氷山の一角に過ぎないのだろう。新選組という鋭い牙が、毎夜のように倒幕派の首を狙って暗躍している。
「大老直属の『暗部』について、何か新しい手がかりはありますか?」
私の問いに、桂さんは苦渋に満ちた首を振った。
「すまない。勝先生からの情報通り、彼らが江戸からこちらへ拠点を移したのは間違いない。だが、暗部は幕府の公式な組織ではないのだ。所詮は井伊直弼の私兵であり、隠密。新選組のように浅葱色の羽織を着て表を歩くわけではない。完全に京の闇に同化している。諸藩の耳目をもってしても、その潜伏場所の尻尾すら掴めていないのが現状だ。」
やはり、そう簡単にはいかない。お兄ちゃんがこの街のどこかにいることは分かっていても、闇雲に歩き回るだけでは、こちらが新選組か暗部に見つかって消されるのがオチだ。ご都合主義な奇跡など、この冷酷な戦場には転がっていない。自らの足で、地道に、死線の下を潜りながら情報を手繰り寄せるしかないのだ。
「――何を深刻な面をしてやがる。」
その時、部屋の襖が音もなく開き、聞き馴染んだ低い声が滑り込んできた。見上げた先にいたのは高杉さんだった。
彼は藍色の羽織を肩に引っ掛け、いつもと変わらない不敵な笑みを浮かべてそこに立っていた。手には漆黒の三味線ではなく、一本の煙管が握られている。
「高杉さん……。」
「江戸の山猫が、ようやく京の都に迷い込んできたか。坂本が今頃、お前が途中で野垂れ死んでいないかと、大真面目に心配していたぞ?」
高杉さんは私の前の畳に腰を下ろすと、煙管に火をつけた。紫煙が部屋に広がり、その向こうにある彼の切れ上がった瞳が、私を値踏みするように見つめる。
「……少し、痩せたのではないですか?」
ふと、彼の顔色の白さが気になって、私は言葉を掛けた。江戸にいた頃よりも、どこか肌の透明感が増し、頬の線が鋭くなっているように見えたのだ。高杉さんは一瞬、煙管を持つ手を止め、それから何でもないようにふっと鼻で笑った。
「京の飯が、どうにも口に合わんだけだ。水が変われば身体の調子も変わる。お前こそ、あの『人形』に付けられた傷はもういいのか?」
「はい。問題ありません。」
「ならいい。……だがな、茜。お前が追っている連中は、この京の街を裏から支配しようとしている特権階級の影だ。お前がどれだけ里の技を持っていようが、一人で挑めば、今度こそあの兄貴とかいう奴に本当に骨まで噛み砕かれるぞ?」
高杉さんの言葉には、いつもの冷ややかな突き放しの中に、どこか私を思い留まらせようとするような、重い響きがあった。その時、高杉さんが不自然に胸元を抑え、低く短い息を吐き出した。彼の喉の奥から、乾いた掠れた音が漏れる。
「高杉さん? どうかしたのですか?」
「……何でもない。煙が、少し喉に障った…ッ!」
彼は私の視線を遮るように顔を背け、冷えた茶を一口に飲み干した。その指先がわずかに震えていたように見えたけれど、御殿山の焼き討ちから続く連日の過酷な逃亡生活による疲労が溜まっているのかもしれない。
「久坂たちが、近いうちに何か大きな動きを見せる。長州がこの都で火を吹けば、新選組も、お前の追う暗部も、嫌でも表に引きずり出されることになるだろう。」
高杉さんは煙管を懐に収めると、立ち上がり、窓の外の暗い京の空を見つめた。
「世界がひっくり返る瞬間を見逃すなよ、茜。お前がその手でお兄ちゃんって奴を取り戻したいなら、その混沌の真ん中に飛び込む覚悟を決めておけ。」
彼の背中を見つめながら、私は懐の短刀の柄を固く握りしめた。
不穏な鳴動を続ける京都の夜は、そうしてゆっくりと更けていくのだった。
三条通から一本入った裏路地は、昼間の暑さが嘘のように、冷たい夜気と澱んだ湿気が地面にへばりついていた。
長州の志士が「暗部」の手によって一瞬で仕留められたあの現場から数日。京の街の緊張感は、いよいよ沸点に達しようとしていた。
私は、町家の屋根瓦に身を潜め、夜の静寂を見下ろしていた。暗部の行方を追うため、彼らが仕留めた死体の周辺を調べていたが、それ以上に私の目を引いたのは、浅葱色の羽織を纏った新選組の不自然な動きだった。今夜の彼らは、通常の巡邏とは明らかに違っていた。十数人の隊士がいくつかの班に分かれ、まるで大きな網を絞り込んでいくように、特定の区画を包囲しつつあったのだ。
彼らが狙っている標的が誰なのか…その答えはすぐに分かった。
包囲網の中心に向かって、一人の大きな男が、草履の音をあえて殺しながら歩いている。長い髪を後ろで結び、懐に手を差し入れた独特の歩き方。
龍馬さん!
彼は、他藩の過激派を宥めるための会合の帰りだろうか、いつになく険しい表情で周囲の闇を警戒していた。
まずい……!龍馬さんが囲まれている!
私は屋根を音もなく跳び、龍馬さんの進行方向へと先回りを試みた。だが、新選組の動きはその一歩先を行っていた。
「――そこまでだ、土佐の坂本龍馬だな?」
木屋町の暗い十字路。建物の影から、ぞろぞろと浅葱色の羽織を纏った男たちが姿を現した。
先頭に立つのは、新選組十番隊組長、原田左之助。その手には、夜光を浴びて鈍く光る大身の槍が握られている。周囲を囲む隊士は六人。さらに、背後の路地からも退路を断つように別の隊士たちが現れた。完全に退路を塞がれた、完璧な待ち伏せだった。龍馬さんは足を止め、ふぅと深く息を吐き出すと、懐からお馴染みのスミス&ウェッソンのリボルバーを引き抜いた。
「新選組の皆さん、夜遅くまでご苦労なことじゃちや。わしのようなしがない素浪人に、随分と大層な面を揃えてくれたねぇ?」
「口の減らない奴だ。上様のご上洛を控え、洛中の不逞浪士は一匹残らず処刑せよとの御命令だ。お前が他藩の過激派と内通している証拠は挙がっている。大人しく縛に就くか、ここで錆になるか、選べ。」
原田が槍の穂先を龍馬さんの胸元へと突きつける。
「縛に就く気はさらさらないきにッ!」
龍馬さんが引き金を引くのと、原田が槍を突き出すのは同時だった。激しい銃声が夜の街に轟く。弾丸は原田の肩をかすめ、背後の町家の柱を砕いた。原田は怯むことなく、その巨体からは想像もつかない速さで槍を繰り出す。龍馬さんは北辰一刀流の鋭い身のこなしでそれを紙一重でかわし、腰の吉行を引き抜いて応戦した。だが、多勢に無勢。狭い路地裏での戦いは、長身の龍馬さんにとって圧倒的に不利だった。原田の放つ重厚な槍の一撃を受け止めるたびに、龍馬さんの足元が泥にめり込む。さらに、周囲の隊士たちが隙を突いて四方から刃を突き出してきた。
「ゲホッ……、くそ、囲みが厚いちや……!」
龍馬さんの白刃が隊士の一人を斬り伏せるが、同時に別の隊士の刀が彼の太ももを浅く切り裂いた。よろめく龍馬さん。その瞬間を、原田は見逃さなかった。
「終わりだ、坂本!」
原田の槍が、容赦なく龍馬さんの喉元を貫こうと、一直線に放たれた。龍馬さんは刀を戻せず、銃の弾丸も尽きている。死の刃が彼の皮膚に触れる、まさにその刹那だった。
――キィンッ!!
闇を切り裂く甲高い金属音が響き渡り、原田の槍の穂先が強烈に弾かれた。
「な、何だと!?」
原田が目を見張る中、龍馬さんの前に滑り込んだのは、黒い死装束を纏った私だった。両手に握った一対の短刀で、原田の渾身の突きを横になぞるようにして受け流したのだ。お兄ちゃんとの戦いで負った脇腹の傷が、引き裂かれるような激痛を訴えたが、そんなものを気にする余裕はなかった。
「茜……! おんしゃあ、何でここに!」
「話は後です、龍馬さん。走れますか?」
私は背後の龍馬さんに短く告げながら、鋭い視線を新選組の面々に向けた。
「ほう……江戸で土方さんや総司が言っていた、神田の山猫とはお前のことか。」
原田が槍を構え直し、獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべた。
「小娘一人が増えたところで、新選組の包囲網は破れんぞ。まとめてあの世へ送ってやる!」
原田の合図と共に、残った隊士たちが一斉に襲いかかってきた。私は真っ向から刃を交える愚を犯さなかった。怪我が完治していない身体で、新選組の剛剣と渡り合えるはずがない。ご都合主義な奇跡など、この戦場には存在しないのだ。私は懐から、里の特製である煙硝を仕込んだ鉄礫を数個、地面に向かって叩きつけた。
――パァンッ!!
凄まじい爆音と共に、目の前が真っ白な濃煙で満たされる。新選組の隊士たちが「目をやられた!」「煙幕だ!」と動揺し、刃が空を切る音が聞こえた。
「原田さん、そっちへ行ったぞ!」
煙の向こうから、原田の槍が勘だけで風を切り裂いて突き出されてくる。私はその刃筋を紙一重でかわしながら、龍馬さんの大きな腕を掴んだ。
「龍馬さん、こっちです!」
「すまんちや、茜!」
私たちは、煙が晴れるよりも早く、複雑に入り組んだ木屋町の路地裏へと飛び込んだ。隠れ里で叩き込まれた京の裏道の記憶が、私の頭の中で地図となって広がる。一歩間違えれば行き止まりになる迷路のような路地を、気配を殺しながら全速力で駆け抜けた。背後からは、新選組の怒号と「逃がすな!」「追え!」という足音が、遠く、近く、何度も響いていた。冷たい汗が全身から吹き出し、脇腹の傷口から再び生暖かい血が滲み出してくるのが分かった。呼吸が乱れそうになるのを必死に堪え、私たちは高瀬川のさらに奥、長州の息がかかった寂れた寺の境内の床下へと、滑り込むようにして身を隠した。
じっと息を殺して、どれほどの時間が流れただろう。
追っ手の足音が遠ざかり、やがて周囲に虫の声だけが戻ってきた頃、私たちはようやく安堵の息を漏らした。
「……助かったちや、茜。おんしゃあがいんかったら、今頃わしの首は三条河原町に晒されちょった。」
龍馬さんは床下の暗闇の中で、傷ついた太ももを大きな手で押さえながら、苦笑いを浮かべた。その顔は青ざめていたが、目の奥の光は失われていなかった。
「新選組の包囲網は、江戸の時よりも格段に早くて正確です。龍馬さんの動きは、完全に読まれていますね。」
私は短刀を鞘に収め、乱れた息を整えながら告げた。脇腹の痛みがズキズキと激しさを増していく。
「ああ、その通りじゃ。上様が京に入られるという話は本気らしい。幕府も、新選組も、本気でこの街の倒幕派を根絶やしにする気じゃ。……けんど、これでああ確信が持てた。」
龍馬さんは痛みに耐えながら、鋭い目で私を見つめた。
「新選組がこれだけ大掛かりに動くということは、裏で『暗部』も間違いなく連動しちゅう。あいつらは表の新選組に泥を被らせて、自分たちは闇の中で効率よう志士を狩りよるがじゃ。おんしゃあのお兄ちゃんも、その中心におるに違いなか?」
お兄ちゃん。その言葉が、私の胸を焦がす。
今日、新選組と対立し、その刃の冷たさを身をもって知ったことで、彼らの裏にいる暗部の凶悪さが、より鮮明に浮かび上がってきた。現実はどこまでも泥臭く、容赦がない。一歩間違えれば、私も龍馬さんも、簡単に命を落とす。
「茜、おんしゃあの身体もボロボロじゃ。……けんど、わしもあいつら、簡単にこの国を渡す気はなか。晋作も、桂さんも、みんな命を削って戦っちゅうきに。」
龍馬さんの言葉の端々に、過酷な時代への覚悟が滲んでいた。高杉さんの顔が脳裏を過る。あの人もまた、私に「世界をぶち壊せ」と言いながら、この京のどこかで狂気を燃やしているのだ。私は、再び滲み出してきた脇腹の血を小袖で強く押さえつけ、暗闇の中で立ち上がった。
新選組との対立は、これからさらに激化する。そして、その先にある暗部との、お兄ちゃんとの決戦の時は、確実に近づいている。私は自分のすべきことを、その引き返せない執念を胸に、さらに深い洛中の闇へと、突き進んでいくのだった。




