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この国に嫁いできて鶯になるのは初めてだ。本当に見事に鶯になっている。
「小麗、すごいわね、これ」
私が感激しながらそう言うと、小麗が微笑んだ。
「ええ、見事な鶯になっておられます、鶯妃」
髪の色が体の色にならないか心配したけど、普通の緑色だったから安心した。桃色だったら潜入なのに目立ちすぎると思うから。
「さあ、行きましょう。後宮内の探索に」
私がそう言うと小麗は頷いて歩き出す。まずは小麗が普段から仲良くしている後宮の医官さまの元に向かう。麗麗の教育で仲良くなれる人とはできるだけ関わって伝手を得るように言われているようだ。医官の詰所に着くと、小麗が扉を軽く叩いて声をかける。
「医官さま。小麗です」
「小麗さんか。いらっしゃい。今日はどんな用だい?」
医官さまの言葉に小麗は答える。
「実は、母が頭痛がすると言っておりまして。診察に来てくださらないかと」
これは事前に準備した嘘だ。頭痛なら本当に痛いのか本人しか分からないから、嘘でも問題ない。
「麗麗さんが頭痛なんだね?分かった、すぐ行くよ。君はここでゆっくりしていてくれ。好きな時に帰って良いから。春鶯宮で間違いないかな?」
「はい。鶯妃の春鶯宮です。よろしくお願いします」
小麗がそう言うと、医官さまは穏やかに微笑んでいくつかの薬を持つと詰所を出ていった。医官さまがいなくなったのが分かると、私は小麗の袖から出て元の姿に戻った。
「さ、早くどこの宮に多く出入りしたかの記録を探しましょう」
後宮の医官はどこの宮に誰の診察に行ったのかを細かく記録している。つまり、それを見れば誰がどんな体調なのかが分かり、どの妃が身ごもっているのか、もしくは誰も身ごもっていなくて、ただの噂話なのかが分かるということだ。私は医官さまの詰所の棚にある紙を片っ端から見ていくけど、頭のどこかではもっと分かりにくい所に厳重に保管しているということが分かっていた。私が机の引き出しの中を調べていると、小麗が声を上げた。
「鶯妃!見つけました!過去の記録が全て載っています」
小麗は棚の上に置いてある箱の中から分厚い冊子を取り出す。私はそれを渡してもらい、急いで紙を捲る。
「……あったわ」
私が言うと小麗は冊子を覗き込んでくる。
『冬燕宮 燕妃
体調に問題なし。皇帝の初めての御子を望める』
「良かった、鷹妃じゃないわ。燕妃は穏やかなお人柄と言うし、国母に相応しいでしょう。それに北林に好意を示してくれている家が生家だから、北林の民に有利に働くわ」
私がホッとして呟くと、小麗がまた紙を捲った。
「あら?続きがありますよ?」
その頁に書いてあったのは、あまり嬉しくないこと。
『森鷹宮宮 鷹妃
ご懐妊の兆候あり。これから様子を見ていく』
「ああもう、何でよりにもよって。南空の皇帝は我が北林を敵視しているわ。これで生まれた子供が男児だったらどうなるか」
私がため息をつきながらそう言うと、小麗は気の毒そうに私を見てから冊子を元の場所にしまった。
「人の来る気配がします。ここから出ましょう」
その言葉に私は力なく頷いて鶯の姿になって、小麗の袖に潜り込んだ。




