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あのお茶会から三週間。私が後宮の生活に慣れ始めた頃、華鳥宮で異変は起こった。妃の誰かが亡くなったという噂が流れてきたのだ。どこの妃か知らないが、それがもしも南空の鷹妃だったとしたら、北林にとっては大きな有利点だ。もしも北林の妃である私が寵愛を得られるんだったら、姉の方を嫁がせれば良かった、みたいなことを言われるかもしれない。まったく、それでも父親か、とため息をつきたくなる。そこまで考えて、私は思い付いた。そうだ。いっそのこと、潜入でもしてしまおうか。そう考えた私は、眞美や麗麗を含めた完全に信頼できる侍女たちを集めた。
「お呼びでしょうか、鶯妃」
私にそう問いかけてきた侍女たち。私は椅子の肘掛けに頬杖をつき、悪戯っ子のような表情を浮かべた。
「どこかの妃が亡くなった、という噂は聞いたでしょう?だからね、私、どの妃か探すために変装して色々な宮に潜入しようと思って。誰か、付いて来てくれる者はいない?」
私がそう言うと、侍女たちは顔を見合わせた。困惑しているのが目に見えて分かる。少し考え込んだ仕草を見せた後、侍女たちは一人の侍女を私の前に導いた。
「小麗。あなたが来てくれるの?」
私が尋ねると、彼女は拱手をしながら頷いた。次に口を開いたのは麗麗。
「私の娘です。武術の腕に覚えがございますので、お供に。十八です」
麗麗の言葉に、私は目が点になる。そして、彼女の娘だという小麗に目を向ける。なるほど、確かに似てる。私がほへーと納得していると、小麗がずいっと近付いてきた。
「な、何かしら」
負けじと私もずいっと顔を近付けると、小麗はにっこりと笑った。
「鶯妃。鶯妃では、潜入などできません」
「髪色と瞳の色が目立つと言うのでしょう。私がそんなことも考えていない馬鹿だと思った?」
私が負けじと顔を近付けながらにっこりと笑うと、私たちの間に白くて健康的な手が割り込んできた。手の主を二人で辿ると、麗麗の呆れた顔がそこにあった。
「小麗。鶯妃に対して失礼な口を利くのはやめなさい。鶯妃も鶯妃です。この子の馬鹿らしい挑発に乗らないでください」
私と小麗は顔を見合わせ、次の瞬間大声で笑いだした。
「ねえ、小麗。私もちゃんと考えてるのよ。鶯妃の力を使って鶯になれば良いのよ。それであなたの着物の袖に隠れるの。ね、馬鹿じゃないでしょう?」
私が桜色の豪奢な椅子の肘掛けに肘を立てながら余裕の笑みを向けると、小麗は感心したような表情をしていた。
「なるほど。私もその案は思い付きませんでした。流石でございます」
「まあ、これでも母国で姉がする分の公務をこなしていたから」
私は少し憂鬱な気分でそう答えた。あの家族のことは考えたくない。私が北林のことを考えるのは家族のためではなくー母と同母の兄弟は別だがー北林という国の民のためだ。民のために良い政策をすることこそが、皇女の役目だと思うからだ。なのに、姉はその風上にも及ばない贅沢三昧。父は皇帝としての責任は持っているが、母と私を含む子供たちは顧みない無責任な人だから、反面教師的な感じで国民に対する愛が深いのだ。




