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【書籍化】公爵家の料理番様 ~300年生きる小さな料理人~  作者: 延野正行
第八部

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298/302

第278話 炎の魔剣VS炎の魔剣

☆★☆★ 発売まであと2日です ☆★☆★


「公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人」単行本8巻まで、あと2日!

すでに書店に並んでいるところもあるみたいなので、見かけましたらよろしくお願いします。

ヤンマガWEBにて、4巻まで無料で読めるみたいなので、そちらもぜひ!


挿絵(By みてみん)

「うおりゃああああああ!!」


 裂帛の気合いが田舎の街道沿いに響く。

 牧歌的な風景とは裏腹に、行われていたのは激しい戦闘だ。


 聖カリバルディア剣教騎士団vsレティヴィア騎士団。


 その数20対3。


 数の上では後者が不利であることは明白だった。

 しかし、その戦況はまったくの逆だ。

 目に見えて、押しているのはレティヴィア騎士団のほうだったのだ。


「ぬあああああああ!!」


 悲鳴を上げながら、聖カリバルディア剣教騎士団団長イグナーツは吹き飛ばされる。

 すでに幾たびも砂を舐めてきたのであろう。

 大きな身体は砂と灰にまみれていた。


 対するレティヴィア騎士団のフレッティは、ほぼ無傷と言っていい。

 『セラフィムの焔(セラフィムブレード)』と名付けた炎の魔剣から、その力を引き出すことすら苦心しているイグナーツと違い、フレッティの手に握られたフレイムタンからは、常時炎が燃えさかっている。


「な、なんなんだ、こいつ! 本当に我が輩と同じ魔剣士か?」


 疑義を呈するイグナーツに、フレッティは剣先を向ける。

 鋭く差し出された赤い剣を見て、イグナーツの口から悲鳴が漏れた。


「単純に鍛錬の差だ。どうせ団長であることに胡座をかいて、ろくに鍛錬してこなかったのだろう」


「な、なんだと! お前に何がわか――――」


「わかる!」


 フレッティは鋭い口調と同時に、剣先をイグナーツの鼻に向けた。


「打ち合った時の剣の感触。炎の強さ……。そういうもので、すぐにわかるんだよ」


「うるせぇ!! ……お、おい! お前ら、何を手こずってる。早く我が輩を助けろ!」


 絶体絶命の窮地の打破を、イグナーツは他の騎士に求める。


 その振り返ったイグナーツが見たものは、たった2人の騎士に圧倒される聖カリバルディア剣教の騎士たちだった。


「ふん!!」


 ガーナーが軽々と鎧を着た騎士数人を持ち上げ、投げ飛ばせば……。


「はあああああああああああ!!」


 リチルは魔法でブリザードを生み出し、騎士達を氷漬けにする。


 イグナーツを除く精鋭の聖カリバルディア剣教騎士団は、半刻とかからず全滅した。


「馬鹿な……。我々はカリバルディア様に選ばれた剣教騎士団だぞ」


「神を信仰することを俺は否定しない。だが、自分を強くすることは自分にしかできない。神に選ばれたからといって、神が自分を強くしてくれるわけではないのだ!」


「黙れ、異教徒が!!」


 イグナーツは土を掴むと、フレッティに投げる。

 些細な仕返しだったが、ほんの数秒稼ぐには十分だった。

 立ち上がり、剣を取ったイグナーツは、再びフレッティと対峙する。


「聖カリバルディア様こそ、この世界の唯一神! 選ばれた我が輩こそが、世界最強なのだ!!」


 言葉の意味こそ支離滅裂だったが、イグナーツから噴き出る炎は最強を謳うにふさしく、激しいものだった。むしろあまりにも激しく燃えさかる炎は、イグナーツの肉体の一部を徐々に焼いていく。すでに肌は真っ赤になっていたが、イグナーツは炎の中で笑っていた。


 炎の化身となったイグナーツを見て、フレッティは眉をひそめる。


「お前、死ぬ気か?」


「死ぬ? 違うな。この身はすでにカリバルディア様に捧げた。この身を賭して、異教徒を討てるというなら、それはもはや本懐よ!」


「大した信仰心だ。そこだけは褒めてやる」


「行くぞ、フレッティ・ヘイムルド!!」


「こい! イグナーツ!!」


 イグナーツは剣を上段に構えると、大きな炎の渦が空を覆い尽くす。

 禍々しくも力強く、赤い邪竜のように暴れ狂う。

 それはイグナーツという男の魂を代価に得た力のように見えた。


 その力は横で見ていたリチルの顔が青ざめる。

 寡黙なガーナーですら、慌てさせた。


「フレッティ団長!」


「団長!!」


「ふはははは! 力が溢れる! 勝てるぞ! 我が輩は勝てるぞ」


 魔剣と一体となったイグナーツの身体は完全に炎に飲み込まれる。

 もはや原形すら失われ、フレッティに赤い身体を近づけていった。


 対するフレッティは落ち着いていた。


「フレイムタンよ、俺に力を貸してくれ」


 剣を胸の前で握り、その瞬間身体から炎が溢れる。

 ただの炎ではない。イグナーツの炎が赤黒いのに対して、フレッティの炎は明るく白を帯びて輝いてた。


「綺麗……」


 リチルがそう漏らしてしまうほど、フレッティの姿は神々しい。

 人間を罰するため地上に降りてきた熾天使のようだった。


「な、なんだ、その姿は……。まるで神のようではないか。あり得ない……。あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない。……認められない! 認められない!! お前など、絶対に神ではない!」


 イグナーツが突撃してくる。

 炎を広げ、周囲の風景と一緒にフレッティを飲み込もうとする。


 まさに悪魔の力……。


 しかし、フレッティの動作は緩やかだった。

 丁寧に構えると、蝶でも止まるかのような動きで剣を振るう。

 いや、実際その剣速は速く、あまりにも速すぎてゆっくり動いているようにさえ見えた。


 パンッと破裂音が響く。

 赤黒い炎が弾けると、中から裸のイグナーツが現れる。

 重度の火傷を負っていたが、そんな重傷を負っても意識はあった。


 フレッティが側に立つと、ギョロリとした琥珀色の瞳を向ける。


「何故、殺さなかった……」


「俺もお前も神ではない。人間だ。だから人間として罰を受けろ」


「……く、くそ」


 ついにイグナーツは意識を失った。


 ようやく殺意が引いて行くのを見て、フレッティはフレイムタンを鞘に収めた。


 そこにリチルたちが合流する。


「団長、大丈夫ですか?」


「ああ。なかなか手強かったな。ルーシェルくんの魔獣料理がなかったら、負けていたのは俺のほうだった」


 ほう、と息を吐く。


「ルーシェルくんとアルマさんは、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だよ、リチル」



 あの2人は無敵のコンビだからね。



 ◆◇◆◇◆  一方、ルーシェルは……  ◆◇◆◇◆



「なんとなく来るのではと思っておりました、子爵閣下殿」


 教会裏の穴の底で、ヴェリオ司祭は振り返る。

 やってきた僕たちを見ると、蛇のように目を細めるのだった。


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