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第一話:ハトは“平和の象徴”なんだってさ(一頁)

【神は地上の人間たちの堕落し切った姿に怒り、大洪水で人間たちを絶やすことを企てたが、“神と共に歩んだ正しき者”であるノアとその家族だけは助けることとし、ノアに大洪水を乗り切るための方舟の製作を命じた。命令に従って方舟を製作して大洪水から逃れたノアとその家族に対し、神は祝福を与えて二度とこのような洪水を起こさないことを約束した。】――『創世記』6:12〜9:11(筆者要約)――


 なぜだろう。この物語を読むと無性に胸が痛くなる。善人が救われる物語であって、悲痛な物語ではないはずなのに。


 なぜだろう、この物語を読むと知らない女性の声が頭をよぎる。ノアという男性の物語であって、女性の物語ではないはずなのに。


 そんな感覚を抱きながら、俺は手元の旧約聖書を閉じ、腰掛けた椅子の背もたれに沿って体を反らし、伸びる。中学校に併設されている図書室のように小ぢんまりとした市営の図書館の一画で長いこと読書に耽っていたわけで、固くなっていた俺の背中はバキボキと音を立てて解れていく。


 別に、信仰心が深いから旧約聖書を読んでいたわけではない。街中の至る所に居るカラスやスズメ、ハトの中で何故、ハトだけが “平和の象徴”だなんて優遇された扱いを受けているのかが気になって調べていたところ、 どうやら旧約聖書に記されている“ノアの方舟”という話が元になっているらしかったから、読んでみただけのこと。


 そして、旧約聖書を読んだことでこの疑問はすんなりと解消された。


 方舟に乗って大洪水から逃れたノアは、ハトを放つことで洪水が終わったかどうかの確認をしたところ、ハトがオリーブの若葉をくわえて戻って来たため、水が引いていること、すなわち大洪水が終わったことを悟ったらしい。つまるところ、神の怒りが晴れて平和な世界が到来したことをハトが知らせたも同然であることから、ハトが“平和の象徴”としての地位を確立したらしい。


 ちなみに、カラスも同じようにノアによって放たれたが、手ぶらで戻って来たらしく、こんな大昔からカラスはハトよりも悪い印象を持たれていたようで、現代におけるカラスの悪印象の礎が既にここにあった気がしてならない。


 そんなこんなで、最初はハト云々が気になって読み出した旧約聖書であったが、それよりも今は、この謎の感覚が気になって仕方がない。それに、旧約聖書の“ノアの方舟”に関係する部分を読んでみて、不思議に思った点も幾つかあり、妙にそれも気になってしまう。


 席に着いている間に何度も読み返したが、妙な感覚も、疑問点も晴れることがないまま閉館時間が近づいて来たため、俺は大人しく本を元の棚に戻し、図書館を後にした。

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