第一話:ハトは“平和の象徴”なんだってさ(二頁)
赤色のような黄色のような、見る人それぞれなので何色と形容するのが正しいのかは分からないが、とにかく夕日に照らされた住宅街。歩道と車道を分けるガードレールはおろか、白線もない。
そんな住宅街の中心部に位置する我が家を目指して、俺は歩を進める。夕暮れ時だというのに、未だにアスファルトの上で陽炎が揺らめいていて、俺は夏の暑さのしつこさに辟易する。
暑さから気を逸らす意味も込めて、俺は旧約聖書を読んで疑問に感じた部分に思考を飛ばす。
まず、“ノアの方舟”におけるノアの血縁について整理したい。
ノアはアダムとイヴという旧約聖書を読んでいなくても聞いたことのあるようなビッグネームの子孫にあたる。
アダムは神が最初に創造した人間で、次いで創造されたのがイヴ。そんで2人の子どもとしてカイン、アベル、セト、その他に幾人かがいて、アベルはカインに殺されてしまったようなので、“ノアの方舟”の時点では、アベル以外の子どもたちの家系が存在していたことになる。
そして、その内のセトの家系に生まれたのがノアであり、そうすると、ノアの家族以外の人間は大洪水によって滅ぼされたため、セトの家系以外は滅んだことになる。
しかし、旧約聖書の中には、これと矛盾するような記載がある。それは、上記の子どもたちの内、カインの家系に生まれたレメクについて語られている部分である。
【レメクは2人の妻を娶った。1人の名はアダと言い、1人の名はチラと言った。アダはヤバルを産んだ。彼は天幕に住んで、家畜を飼う者の先祖となった。その弟の名はユバルといった。彼は琴や笛を執る全ての者の先祖となった。チラもまたトバル・カインを産んだ。彼は青銅や鉄の全ての刃物を鍛える者となった。トバル・カインの妹をナアマと言った。】――『創世記』4:19〜22――
そう、大洪水によって滅んだはずのカインの家系から遊牧民と音楽家の先祖がそれぞれ生まれているのである。
先祖、と言うからにはその血統に連なる者たちが存在し、また生き残ったはずとなる。しかし、これではノアとその家族以外の人間が滅んだとされる“ノアの方舟”の物語と合致しない。
常識的な範囲で考え得る限りの答えとして最も可能性が高いのは、ヤバルとユバルの子孫または本人がどこかの時点でセトの家系と結ばれた、あたりのことになるだろう。
しかし、そのような内容の記載は旧約聖書の中には登場しない。家族構成を詳しく記す傾向にある旧約聖書において、これほど大きな事象が漏れ落ちることは中々に考え難く、やはりそのようなことはなかったと考えるのが妥当だろう。
そうなると、いよいよ謎である。
これが俺が旧約聖書を読んでいて疑問に感じたことの1つだが、疑問は他にも幾つかあり、どれも先ほどの節に関連したものである。




