③ 復活の花祭り
その日、王都は人で溢れかえっていた。
王城前の広場には豪華なステージが作られて、ステージ上には色とりどりの春の花で飾られた櫓が高々と組まれている。
人々は今年の祭りのメインとも言える花の巫女の登場を、今か今かと待ち構えており、辺りは明るい喧騒に包まれていた。誰もが街を救ってくれた英雄、勇者とも呼ばれる花の巫女を讃え、一目でもその姿を見たいと集まってきているのだ。
一方、そんな明るくも賑やかな民衆の騒ぎも届かない王城の一室。そこに誂えられた控室で、私はカチコチに緊張していた。
今日の私は、真珠のような光沢を持つ真っ白いローブ、足元まですっぽり隠す巫女の衣装に身を包んでいる。ふんわりと柔らかい素材でできたローブには、ところどころ金糸で瀟洒な刺繍が施されており、荘厳な雰囲気を醸し出している。
頭には、こちらも色とりどりの花で造られた冠が載せられ、冠からは顔を隠し、さらに後ろにも長く引くベールが伸びている。
事前に練習した歩き方も、俯き加減でしずしずと一歩ずつ進んでいくことになっているので、ベールに隠された顔が露わになることは無い。
無いのだが、それでも人前に立つのは苦手なんだよう。このコスプレのような衣装のせいで、プレッシャーが倍加している気がする。
「あらあら、ななさん。ずいぶん緊張されてますね? お水飲みます?」
「お姉ちゃん、私たちがついてるんだから大丈夫だって!」
「そうだぞ。俺たちが誰も姉ちゃんに近づけないから安心しろ」
私を先導して儀式を執り行ってくれるのは孤児院のシスター。シスターも今日は聖職者の衣装を着ていて威厳たっぷりな感じ。
私の周囲を固めてくれるのも、いつもの孤児院の子どもたち。小さい子たちは後ろに引きずるベールの裾を持って続いてくれる。
みんなもそれぞれ妖精のように可愛い衣装を身に着けている。
やばい、たまんない。かわゆすぎる!
あーっ、写真に撮りたい!
そんなことを考えてたら、少しだけ緊張もほぐれてきた。
「うん。今日はお願いね。儀式が終わったら、みんなで壁の絵を見に行くんだもんね! それを支えに頑張るよ」
◇
今回の受勲式に当たり、私がお願いしたのがこれだった。
稚児行列の子供を、壁の外の孤児院の子どもたちにして欲しい。
私が安心して頼れる子どもたちだし、知らない子では無理だとワガママを言ってみた。これこそ、子どもたちが壁の中に入れる貴重なチャンスだと思ったから。
「こんな形だとしても、私が人前に立てるようになったのは、あの子たちのおかげなんです。あの子たちが傍に居てくれるなら……、受勲式の舞台にも立てると思うんです」
本来なら街に入れない子どもたちを強引にねじ込んだ。
年金の月額二千Gに関しても、私に一千G、孤児院に一千G払ってもらうようにお願いした。
月に二百万なんてどうしていいかわからない。
百万でも多すぎだ。きっと貯金が増えてくばかりだろう。
それに私の収入として支払われれば、日本に税金としてたくさん持って行かれてしまうと思う。それなら、半分を直接孤児院の運営資金に回してもらった方がずっと良い。
「私も、あの子たちと同じ……。親に捨てられた身寄りの無い人間なんです……。どうか、私の異世界の兄弟たちにお慈悲を……」
波ながらに訴えたのが功を奏した。
褒賞金の半分という大きな金額を差し出したのも、王様の心に響いたみたい。
そこで、王国側としても、私がそこまで大切に思っているのなら……と、今回のお願いを受け入れてくれたんだ。
涙ながらに震える声になってしまったのは、今回のお願いのために、非公式とは言っても直接王様に面会しなければいけなかったから。
非公式だから余計に距離が近くて、緊張と男性が怖かったせいだったと言うのは、ちょう子さんと私だけの秘密。
とは言え、交渉は上手くいった。
今日だけは、孤児院の子どもたちも、街の中でお祭りを楽しむことも許可された。
ついでに言うと、私の取り分の年金、月百万円に関しても、ちょう子さんが上手く取り計らってくれた。
今後、ギルドの相談役として、私を正式にギルドの職員という扱いにしてもらえることになった。日本でなんか上手いこと企業登録されているらしい、派遣会社の社員の給与として支払われるみたい。異世界の国の貴族年金的な収入なんて、日本でどう扱っていいものか困るもんね。
さすがちょう子さん!
私は今まで通り、自由にギルドに顔を出して、新人さんたちの話し相手をしたり、初仕事のお手伝いをすれば良い。ギルドからの給与と合わせて、年収千五百万円ほどになり、税金もろもろ引かれた手取りが一千万円くらいになるようにしてくれるという話だ。
これだと税金関係の私の苦手な手続きを全部、ギルドと税理士さんに任せられるということなので、ありがたいことこの上ない。
ちなみに、ギルドで全く仕事しなくても、二十年は千二百万円の年収があるので、手取り八百万以上は入ってくる。
それだけでも使い切れないので、自由出勤でもいいらしい。しばらくは、ちょう子さんが忙しいし、私も手伝いたいので通い続ける予定だけど。
◇
「お時間です。皆様、ご用意を」
お城の案内係の人に声を掛けられた。
これから私たちは、王城の正門を出て、稚児行列と共に広場のステージへ向かう。
さあ、出発だ。
みんなは緊張よりも、初めての街の中にワクワクしているようで、晴れがましい笑顔を見せている。私は俯き、ローブの裾を踏まないようにとそれだけに集中して歩き出した。
道中、街の人々からはフラワーシャワーを浴びせられ、ゆっくりとした足取りでたくさんの祝福と感謝を受ける。
街中に溢れる明るい笑顔と歓声の中、厳かに行列は進み、いよいよステージの上、櫓の前に立つ王様の前で跪いた。
手を胸の前でクロスに組み、長く迂遠なありがたいお言葉をいただく。
隣で傅いていたシスターが立ち上がり、一歩前に進み出たらクライマックス。
王様より賜った勲章のタスキが、シスターの手により私の肩に掛けられた。
その瞬間、一斉に広場に溢れ返す人々からワーッと歓声が上がり、大きな拍手に包まれる。
私も立ち上がり、ローブの裾をつまみ、片足を少し後ろに引いて膝を折る。そのまま一、二、三、と数えたら、これで儀式は終了。
ちらりと目をやれば、子どもたちも仕事をやり遂げ誇らしげだ。
後はラッパ隊と騎士に守られながら、来たときと同様にしずしずと王城へ戻るだけ。
帰り道でも沿道に集まった人たちから、たくさん声を掛けられた。
でも、この時すでにオーバーキルだった私の頭の中は、
「これが終わればみんなと壁に行ける。これか終われば……」
現実逃避のために、呪文のように同じ言葉がひたすら繰り返され続けていたので、もう何も聞こえてはいなかった。
何はともあれ、ミッションコンプリート。




