② 増える登録者
新しい入り口を開く魔道具が本格稼働してからというもの。続々と……、と言うほどではないけれど、少しずつギルドを訪れる人も増えてきた。
ちょう子さんはてんてこ舞いに忙しそうにしているけど、それでもすごく嬉しそう。
長年の悲願が形になってきてるのだから、然もありなん。
私も少しでもちょう子さんの負担を減らせたらと思い、新人さんたちの話を聞いたりして、みんなにここを受け入れてもらえるようにお手伝いしている。
あつし君の時の反省もあり、比較的前向きな人には、早い内から異世界の話を打ち明けることにしたようで、ここが異世界ギルドであるということは、人伝に訪問者たちにあっという間に広がった。
元々、いきなり現れた不思議な穴や階段を見つけ、そこに興味を持って一歩踏み出そうとしてくれる人たちだから、大概この手の話に免疫がある。
すぐに信じられるかどうかは別としても、「やっぱそう言うことだよね」とか「ここでなら頑張れるかも」という柔軟な考えに行き着いてくれる人は多かった。
一度は逃げ出してしまっても、居場所を必要としてる人は、また戻ってきてくれる。
私はそんな人たちと、のんびり時を過ごしたり、何をしてあげれる訳でもないけど話を聞いてあげたりしている。
中には、私と同じように「人はコワイけど犬は大好き」という人もいるので、一緒に犬を撫でるお仕事をしてみたりもした。
あつし君も何人か自分の現場を体験させたりしているみたい。ちょう子さんもありがたがっているけど、私としても男の人を担当してくれるので助かっている。
先を急ごうとすれば、誰かにどこかに歪みが出る。のんびり、のんきに進みましょう。
というちょう子さんの方針により、それでもバタバタはしているけれど、異世界ギルドはゆっくりと動き出している。今のところ大きな問題も起きてはいないから、急がば回れのちょう子さんの方針は上手くいっているんだと思う。
◇
ある日、ちょう子さんから話があると、真剣な顔で言われた。思わず身構えてしまう。
「春が来て『復活の花祭り』が王都で行われます。昨年の偉業を称えて、祭りの場でななさんの受勲を行いたいと打診されました」
なんだか大仰な話になりそうで冷や汗をたらす私に、ちょう子さんは必死で説得してくる。
スライム事件の当時、王国としてはシステムの改善や事件の検証、人員の補充、整理などなど。国庫からの支出が嵩んで、私に対する褒賞の予算を十分に取れず、七万Gが精一杯だった。
しかし、王国の、ひいては大陸の危機を救ってくれた対価として、全く不足していると気に病んでいたのだそうだ。会議と予算の調整の末、今後二十年間、毎月二千Gを年金の形で支払う方針が決まったらしい。国庫に負担を掛けずに予算を捻り出すには、この方法しかとれないということで、すでに王国側としては決定事項なのだ。
「年金という形をとるに当たり、正式に受勲の儀を執り行いたいという話なんです」
「え、ええ? 二千G? えっと二十万……じゃなくて二百万? 毎月!?」
ムリ、ムリ、ムリ!
もらえるのは嬉しいけど、そんなお金をどうしていいのかわかんない!
それに人前で、大勢の人の前でなんかするとか私にはムリ!
「復活の花祭りというのがわからないですけど、きっとたくさんの人が集まるんですよね……?」
そんなところ行けないッスー!
復活の花祭りは、雪に閉ざされた冬が明け、大地が復活し花の咲き乱れる春を祝うお祭りで、こちらで言う新年のようなものらしい。
舞台の上、花で飾られた櫓に女神様を迎え入れて、今年一年の平穏と豊穣を願う儀式があり、その場で受勲式も行われるのだそうだ。
「ななさんには、世界に平穏をもたらした花の巫女として登壇していただきたいのです。衣装は巫女のローブにベールが付きますので、人前には出ますが顔までは晒されません。
稚児行列と言って、巫女の周囲は小さい子どもたちに囲まれますので、人が近づいてくることもありません。警備の者も子どもたちのさらに外側に配置しますので。直接ななさんに近づいたりしないように徹底します」
その状態で櫓の前まで歩み、跪き、王様からタスキのような勲章を贈られればそれで終了とのこと。
「受勲の儀式も王から直接ではなく、一度女神教の聖職者の女性に手渡してから、ななさんにタスキを掛けてもらうようにしました」
異世界から来た花の巫女として式が行われるので、身バレ顔バレもしないから、なんとか受けてくれないかとひたすら頼まれる。
花の巫女に対する褒賞金として、年金……つまり月賦で分割払いすることで、なんとか予算に組み込めたので、どうしても必要な儀式なんだって。しかも既に決定されている。
これを受けないとちょう子さんはとても困る。
このギルドが本格的に動き出したくそ忙しい時に、私のためとは言えちょう子さんの負担をさらに増やしてくるとは嘆かわしい。
いや、国の面子の問題なのか?
どちらにせよちょう子さんは上と私との板挟み。
国はどうしても報いたい。
私は人の視線が苦手だと知っている。
だから可能な限り私への負担を小さくするように取り計らってくれたのだろう。
この大事な時にすみません。
「ありがとう、ちょう子さん。受けやすいように気を遣ってくれたんだよね?」
私としても登録者が増えたことで、ギルド内のお手伝いの時間が増えて、現在仕事量は減っている。
今後も、お菓子作りのできる子にはクッキーの納品のお仕事も回してあげたいし、ワンワンのところなら行けると言う子もいるので行かせてあげたい。
私のしていたお仕事は、あまり人と会わずに済むものなので、それならできそうだと言う人が多いんだ。
年金がもらえるなら、ギルドのお手伝いに専念できるようになるし。
たまにワンワンのところや孤児院に顔を出せるのなら、お仕事は譲って構わないんだから。
きっと受けた方が良いに決まってる。
「わかりました。ありがたくお受けします」
ちょう子さんの顔にも、ホッと安堵の表情が浮かんだ。
ごめん、ちょう子さん。
ちょっとだけワガママ。
条件付けさせてもらってもいいかな?
「ただ、二つほどお願いがあるんですが……」




