① 雪解け
関東地方では、ようやく梅雨明け宣言が発表された今日この頃。
異世界でも雪解けの季節を迎えた。
ようやっと、久しぶりに孤児院の子どもたちに会いに行ける。
たくさんお菓子を焼いてお土産を用意した私は、ぜひ紹介したいからとあつし君も誘って、いつもの壁の外の孤児院へと出掛けた。
楽しみだけれど心配でもある。
みんな元気にしてるかな?
少々気が逸っていたのか、転移室を出ると駆け足で門をくぐり抜け敷地に特攻してしまった。
「ちょっ、ななさん! 待って!」
「あ、ごめん。なんか焦っちゃった」
慌ててあつし君も追い掛けてくる。庭先でそんな風に騒いでいたものだから、
「おねえちゃん!」
「ほんとだ!」
「久しぶり!」
目ざとく私たちを見つけた子どもたちに手を引っ張られ、教会の中に連れ去られる。後ろを確認すると、微笑ましそうに口元を緩くしたあつし君も、ちゃんと付いてきてくれていた。
「まあまあ、ななさん!」
「お久しぶりです。みんな元気に過ごせましたか? シスターもお変わりないですか?」
「ななさんのおかげで、今年は何も不自由無く冬を越せましたよ。どうもありがとう。ななさんも元気そうね。よかったわ。……そちらの方は?」
一歩前に出たあつし君がペコリと頭を下げる。
「初めまして、あつしと言います。ななさんとは同郷で、今日は誘われてお邪魔しました」
あつし君もシスターほど年配だったり、子どもたちほど幼い子なら女性でも落ち着いていられるらしい。その辺は事前に確認済みなので、不安を覚えることなく同行してくれてる。
それに、彼も私もいろいろ乗り越えたおかげで多少は図太さを手に入れて、以前ほどビクビクしなくなった。人見知りしないと言えるにはまだまだだけど。
春は其処彼処にその訪れを感じさせているものの、畑仕事が本格的に始まるのはまだもう少し先ということで、今日は年長の子たちもみんな揃っている。
続々と集まってきた子どもたちから次々に質問攻めにあってしまった。みんな久しぶりなので話したいこともたくさんあるのだ。
「お姉ちゃん、異世界の人なんでしょ?」
「おにいちゃんも?」
「すこいね!」
子どもたちには、特段そういった事情を話したことはなかったのに、「異世界の人」というワードが出てきて少し驚いた。
「雪解けのバザーに来てくれた人が教えてくれたんだ」
例年の雪解けのバザーは、取り引きのある商人の人たちが食料や生活用品を届けに来てくれて、冬の手仕事で作ったものを少しばかり買っていってくれる慈善半分な部分もあるバザーだった。
でも、今年のバザーは少し違った。
昨年秋の冬支度のためのバザーで折り紙細工を並べたことが、冬の間に街の中で話題に上がったらしい。他の異世界人絡みの噂とともに駆け抜けて、街の住民たちもわざわざ壁の外の孤児院まで、その可愛らしい紙細工を求めて少なくない人数が訪れてくれた。
「俺たちは壁の中には入れないからさ。街の人たちにいろんな話を聞かせてもらったのなんて初めてで楽しかった!」
「うん、そう! 異世界の人はすごいんだって教えてくれた!」
「ここのおりがみも、いせかいのものだからすごいんだって!」
街に戸籍があるシスター以外は壁の中には入れない。だから子どもたちは、たまに来る商人さんや慰問の人、農家の人たちとしか触れ合ったことがない。
街の人の話は刺激的で、たくさんの人が訪れてくれたことも、とても嬉しかったようだ。
「お姉ちゃんに教わって冬の間に作ったものも、みんな喜んで買ってくれたよ」
「わたしもおしぼりにんぎょう、いっぱいつくったんだよ!」
「俺もミサンガ作り上手くなったぞ」
持ってきたお菓子をつまみながら、ちらほらと花の咲き出した中庭でちょっとしたティーパーティーを楽しむ。その間も嬉しい楽しい報告の数々は止まらない。
子どもたちの笑顔も花が咲いたように輝いて見える。私が教えた手仕事も役に立てたようで良かった。
「異世界の人が描いた、すっごいキレイな絵がある壁の話も聞いたよ」
「いいなあ、わたしもみてみたいなあ」
「その絵を描いたのって、このお兄ちゃんだよ」
「えええーっっ!!」
みんなにすごいすごいと持て囃されて、あつし君は照れまくっている。それをきっかけに、あつし君の周りにも子どもたちの輪ができて、やんやと楽しそうにしている。あっという間に打ち解けてしまった。こういうところが、子どもたちの凄さでもあるよね。
「ねえねえ、おねえちゃんもつよい?」
「おにいちゃんも?」
藪から棒になんだろうと思ったら、
「この前の秋に、街が全部壊されちゃうような怖い魔物が出たんだぞ」
「異世界の勇者様が、それを一人でやっつけちゃったんだぜ!」
「カッコいいよねー!」
………………。
勇者様ってなんじゃそりゃ?
知らない、知らない。
そんな大層なことしてないよ!
「い、異世界の人がすっごく強い訳じゃないんだよ。でも頑張ったんだ。ここのみんなも頑張ってるから同じようにすごいんだよ。みんな一緒だよ?」
話を濁しつつ、「ね?」とあつし君に助けを求めると、
「う、……うん。そうだね」
と話を合わせてくれた。
なぜ笑いを堪えているのでしょう?
子どもたちは「ふうん、そうなんだあ」と、一応納得してくれたのか、してないのか?
「でも、あってみたいなあ」
「異世界の勇者様にありがとうって言いたい!」
尊敬と羨望の眼差しで、瞳をキラキラ輝かせている。その無垢な笑顔から思わず顔を逸らしてしまった。
そんな期待されても恥ずかし過ぎる!
彼は苦笑い。
私が最初の登録者で、彼が初めて異世界に来たのはこちらが冬になってから。
秋に現れたという異世界の勇者が誰かなんて、少し考えれば察しがつく。
「ななさん、何やったんだ……? やっぱスゲェや」
こっそりと、呆れたように言われてしまった。
後日談として今日から一日一話ずつ、六日間投稿させていただきます。
ここまでお付き合いくださった皆様に感謝をこめて。
お読みいただきありがとうございます。




