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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第八章 新たなる想い
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初恋 その3

 シオンの視線に気付いたのか上気した顔の少女が慌ててスカートで隠してしまった。

「ご、ごめん!! こんな細い脚……じゃなくて体で剣士ってすごいなあと……」

 言い訳がましい自分に腹が立ち、漆黒の髪をかきむしると少女はクスッと笑った。

「男の人が羨ましいわ。腕、見せてもらっていい?」

 頷いて袖をまくって見せるとブランデー色の瞳が輝き、白い指に触られてシオンは高揚してくる気持ちを抑えるのに必死である。

「逞しいのね。それに綺麗」

「俺が? 君の方が綺麗だよ」

 少女は怪訝な顔をしてやがて頬が真っ赤に染まったので、シオンは言い方が舌足らずだったと焦って補足した。

「その綺麗なのは腕で……、いや、脚も綺麗で……」

 言えば言うほどどつぼにはまり、口ごもるシオンは気恥かしさでつい顔をそむけた。


 -うわあ……。変な奴と思われたらどうしよう……。

 

 そんなシオンの心配をよそに「有り難う」という返事が返ってくる。口調が穏やかなのでぎこちなく彼女に振り向くと笑顔でいてくれた。

「そうだ。名前を訊いていなかったな。俺はシオ……」

 言い掛けた時に蹄の音が聞こえたので振り向くと堂々とした剣士が馬に乗ってやって来た。

「心配したぞ」

 彼の師だった。馬から下りて座っているシオンを抱き起こす。

「このお嬢さんの連れの者からお前が怪我をして動けないと聞いて飛んで来たんだ」

「すみません」

 よりによって格好悪いところを見られたとシオンは項垂れた。誰に対してかと言うと勿論彼女である。

 同い年の少年に比べて身長も体格もいいシオンを軽々と馬に乗せると自分も跨った。

「世話になったな。礼をしたいが急ぐ用が合ってこれで失礼するよ」

 馬上で一礼する剣士に少女も丁寧にお辞儀で返した。  

 師が手綱を引いたので慌ててシオンは口早に訊く。

「君の名前は?」

「アリシアよ。あなたは?」

「俺はシオン!!」

 走り出した馬から、果たして自分の名前が上手く伝わったかを自信がないが少女の名前が判明しただけでも大きな収穫だ。

「アリシア……」

 ブランデー色の長い髪を靡かせて太陽のように眩しい笑顔の主の名を胸に刻み込む。

「剣より先に女の口説き方を覚えるとはな」

 からかう師に「そんなんじゃありません!!」と口を尖らしてみたものの心の中はアリシアの微笑みで満たされていた。

 彼女も剣士になると言っていたがそうしたらまたいつか会えるかも知れない。あの美貌なら何処ですれ違って分かる自信がある。

 もし、その日が来たら今度こそ言いたい。

 君が好きだと……。



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