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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第八章 新たなる想い
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初恋 その1

何故シオンはアリシアへの愛が深いのか……。

二人のあどけないほのぼのとしたエピソードです。

 ブーゲン父子と別れてまた三人の旅が始まった。

 白馬に揺られるアリシアを見つめるシオンの視線にフィリカは首を傾げる。


 -シオンって時々懐かしそうにお姉様を見るのねえ……。二人は知り合い?


 シオンとアリシアはコーラム公国で出会ったと聞いているが、それ以前に少なくともシオンは知っていた様子である。

 休憩で水筒の水を飲むシオンにフィリカはその疑問を訊いた。

「ねえ、お姉様を前から知っていた?」

「お前さんは勘がいいな」

「へえ。何処で?」

 漆黒の瞳をアリシアに向けると彼女は怪訝な顔をしてこちらを見ている。

「コーラムより前なの?」

 溜息一つついてシオンはもう一度水を飲んで空を見上げた。

 あの日と同じ雲一つない青空を。



「最悪だ……」

 漆黒の髪の少年は思わず雲一つない空を仰いだ。

 師と修行でこの村へ来ていたのだが、野宿の為の食糧調達へ向かったこの少年は不覚にも猟師が仕掛けた罠に左足を取られて大怪我を負ったのだ。 

 時にシオン・フォレスト十五歳の夏の出来事だった。

 下手に動き回るとようやく止まった血がまた吹き出すとも限らないので大人しく座って師を待つしかない。幸い利き足ではなかったのでほっとしたが、夜になれば血の臭いを嗅ぎ付けた猛獣が集まる状況は楽観視できなかった。

 師との運命的な出会いで剣士への道を選んで二年、修行は厳しくもあり楽しくもある。形ばかりの剣を腰に提げているがやはり師のいぶし銀の重厚な剣は憧れだ。

 朝から晩までみっちりと剣術、体術、勉学の基礎を叩きこまれて少しは一人前になったと自負していた矢先の事故に心が萎える。

 十三歳の頃よりは身長もかなり伸びた。精悍さが増して通り過ぎる女性達が振り向くほどの顔つきとなった。つまり、姿は一人前でも注意力、慎重さ、洞察力全てにおいて精神面はまだ子どものままだと思い知らされる。

 木陰で休んでいるものの喉の渇きは潤せず次第に息使いも荒くなってきた。


 -熱が出てきたか。


「シオン、あなたは小さい頃から熱に弱いから体だけには気を付けてね」

 耳元で母の声が甦る。

 とにかく水を……と這うように木陰を離れたのだがこういう時に限って川や湖がない。注意深く水音を探るも朦朧とした意識ではままならず仰向けになると指一本すら動かせなくなっていた。

 したたる汗と傷が化膿して疼く左足で辛うじて意識を保っているがこの状態ではいつまでもつか時間の問題である。

 こんな山里離れた所に通り掛かる者もおらず、師との連絡手段もなく絶望しかけたその時だった。


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