夕陽に染めて
まもなくして表彰式が行われた。
優勝したスティールには黄金に輝く勲章が授与されたがそれはかつてブーゲンが手にしたものだった。
「俺達はお役御免だな」
事の成り行きを見守っていたシオンが呟いた。
シオン達三人が未だ興奮冷め止まぬ会場を抜け出すと、門の前にブーゲンが立っていた。
「行くのか」
「ご子息にもよろしく伝えて下さい」
「急ぐ旅ではないと言っていたが」
「長居をしてまた厄介なことに巻き込まれたらたまりませんから」
シオンが悪戯っぽい笑顔で言う。
「別れが惜しいな」
感情に流されない彼にしては珍しく感傷的な台詞を口にしたのでシオンも少し驚いたが聞こえなかったふりをした。
「いつかイルセの墓参りに行こうと思うのだが」
馬を引き連れて二人の横に来たアリシアにブーゲンがこちらを見る。
「母も喜びます」
彼女の微笑みにブーゲンの厳格な顔が一瞬崩れて穏やかな表情を見せた。
「ブーゲン殿もご壮健で」
ひらりと馬に跨ったシオンが一礼するとブーゲンは片手を上げて応える。
アリシアもフィリカを自身の馬に乗せるとシオンに倣ってこの町を去っていくと姿が小さくなるまで見送った。
-イルセよ。運命とは皮肉なもので、アリシアはあの男の弟子と一緒にいる。昔の私達のように……。
目を閉じて感慨深く立っていると授与式を終えたスティールが駆け寄ってきた。
「あの方がたは?」
「これ以上面倒は御免だと行ってしまった。お前によろしくとのことだ」
充分な礼も言えずがっかりしている息子の肩に手を置く。
「また会える時が来る。剣士である限りな」
そう言ってブーゲンの頬が緩んだ。
シオン達に会ってから父親の心境の変化は著しい。それだけ繋がりが深かったのか、何度も訊こうとしたが今の父の表情を見れば無粋だと心の奥に仕舞っておくことにした。
「アリシア」
後ろにいるシオンに呼ばれて馬上で振り向いた。
「ブーゲン殿はイルセ殿のことを……」
「母を?」
少し間が空き、やがてシオンが頭を軽く振って息を吐いた。
「いや、なんでもない」
実はブーゲンはイルセを愛していたと続けるつもりだったが娘の彼女に伝えたとしても、ブーゲンの想いに土足で踏み入れる気がした。
美しい女剣士は厄介だ。
別れ際にシオンに囁いたブーゲンの台詞が耳元に甦る。
「なんかシオン静かだね」
いつになく前を見据えて眉間に皺を寄せているシオンをフィリカが心配していた。
「彼も思う所があるのよ」
三人の横顔が夕陽に染まっていく。




