懐かしき名
三人の視線に気付いた青年が振り向き、シオンの姿を見つけると駆け寄ってきた。
「シオン・フォレスト殿でいらっしゃいますよね?」
「ああ」
青年の顔が輝いた。
「会えて光栄です。失礼を承知で折り言ってお願いがあるのですが」
「なんだ?」
「私に剣を教えて頂きたいのです」
「見たところ国に仕えている剣士だろう? なら師がいるはずだが」
青年は頷いたが表情が曇っている。
「なら、その方を差し置いて教えるわけにはいかんな」
大半の剣士は、国が抱える近衛隊や騎士団に属しており、《師》と呼ばれているアリシアの母イルセのように高名な剣士が後継者の育成にあたり、その者達は師の剣の性質を受け継ぐことが多い。
「師の名前は?」
話の流れから面倒なことに巻き込まれる雰囲気にシオンは前髪をかき上げた。厄介なことが起きるとする彼の癖である。
青年は短い沈黙の後、ようやく口を開いた。
「……ブーゲン・シートモスです」
その名を聞いたシオンの表情が変わった。
「《雷光ブーゲン》か!! 懐かしい名が出たな」
今度は青年が驚く。
「父をご存知なのですか!?」
「父上を知らない者はいないさ。そうか、ブーゲン殿のご子息か」
懐かしそうに目を細めて改めて目の前の青年を繁々と見つめた。
「父上はご健在か?」
シオンの問いに唇を噛んだ青年は俯く。
「父は臆病者です!!」
そう叫んで勢いよく席を立つと酒場を走り去ってしまった。
突然の出来事に軽く息を吐いたシオンはまた食事を続けたが、フィリカに至っては口は半開きで茫然としている。
「いいの?」
と、アリシアが心配そうに言うと「俺にどうしろって言うんだ」と彼にしては珍しく投げやりな返事が返ってきた。
想い人との再会を祝しての場を邪魔された上に一方的に畳まれてシオンの気は滅入るばかりだ。
酒場を飛び出した青年は古い家の前で足を止めると、まるで彼がいるのを知っているかのように扉が開く。
「何処へ行っていた!?」
家から現れたのは昼間、青年を殴った体格のいい白髪交じりの剣士だった。
青年は目も合わせず中へ入ろうとしたがその細い腕を掴まれた。
「スティール、話がある」
スティールと呼ばれた青年はその太い指を解こうとしたが容易には外れない。
「武道大会の出場は諦めろ」
「父さんには関係ない!!」
「戦うだけが剣士ではない」
「あいつ等に馬鹿にされてあなたは悔しくないのですか!?」
スティールの青白い頬に興奮したのか赤みが差した。
「感情で剣を抜くなど剣士にあるまじき行為だ」
怒りに満ちたスティールの瞳をブーゲンは正面から受け止めたが先に息子が目を反らした。




