フィリカと青年剣士
アリシア達は森を抜けて東の方角へ旅を続けた。取り急ぐ用もないので足取りもゆっくりだ。
馬に揺られるたびに靡くブランデー色の髪をシオンは馬上から万感の思いで見つめていた。
その視線に気付いて微笑むアリシアに、気を利かせてフィリカがこの町への宿泊を提案した。
「お姉様の体調も万全じゃないしここへ泊まろう?」
「そうだな」
「私、宿を探してくるね」
フィリカが走って町の人ごみに消えていくとアリシアは馬を下りた。
「まだ痛むか?」
「少しね。でも、大丈夫よ」
笑ってみせるものの顔色はあまり良くない。傷も癒えぬまま雨の中の一戦はさぞ苦しかったに違いない。
「一つ訊いていい?」
沈んだ声にシオンは怪訝な顔をした。
「なんだ」
「彼女はどうなったの?」
彼女とはシオンの恋人だったロザヴィのことだ。仮にも彼が愛した女性の結末を知る義務がアリシアにはある。
無言の答えにアリシアは長いまつ毛を落とした。
「……私が殺したのね?」
「気にするな。アリシアがやらなれければ俺が殺していた」
「でも、出来れば生きて……」
「お前が無事ならそれでいい」
シオンが彼女の言葉を遮った。
率先して宿探しを買って出たフィリカだが見知らぬ土地に戸惑っていた。
やっとの思いで一軒の宿に予約を取りアリシア達の元へ帰ろうと路地を曲がった時だった。
殴り飛ばされた青年が不意に現れてフィリカは短く悲鳴を上げた。
「まだそんなことを言っているのか!!」
怒号はその青年に向けられている。
青年は手の甲で口の端から流れる血を拭うとふらつきながら立ち上がった。その体は細く青白い頬は少しこけている。腰に剣を提げているがその容姿からは想像し難い。
「ちょっと何するのよ!!」
殴った男を呼び止めると五十過ぎの剣士がフィリカを一瞥したがそのまま無言で立ち去ってしまった。
「大丈夫?」
青年に手を差し延べたが払いのけられた。
「構わないでくれ」
「あのねえ、人の親切は受けろっておじいちゃんも言っていたわよ」
と、口を尖らしたが青年は無視して路地裏へ消えていくと「なにあれ!!」とフィリカは憤慨した。
日が暮れて、シオンの持論でもある《その土地を知りたければ酒場へ行け》を実践すべく三人は宿の近くにあった酒場へ入っていくとフィリカは見覚えのある顔を発見する。
「あれ? さっきの……」
「知り合い?」
「あんなのが好みか?」
「違うよ。途中で色々とあって」
カウンターで酒を飲んでいたのは、路地で殴り飛ばされた青年だった。




