雨の後には
アリシア達は幌に入ると濡れた体をタオルで拭いた。
しばし無言の三人だが、フィリカはシオンを一瞥した。漆黒の髪に同色の瞳、服の上からでも分かる鍛え抜かれた体、ランプの灯りが彼の精悍な顔を浮き立たせる。
アリシアと並ぶと似合いのカップルだが、彼女を姉と慕うフィリカにとっては第三者の出現に複雑な心境だ。
「彼女はフィリカ。私の命の恩人よ」
そうか、と呟く男性特有の低い声にも抵抗がある。
「俺からも礼を言うよ。アリシアを助けてくれて有り難う」
「と、当然のことをしたまでよ」
漆黒の瞳を細めて笑うシオンの雰囲気は何処となくシダに似ていたのでフィリカは戸惑った。
「会えたのは偶然?」
フィリカがハーブ茶をシオンに差し出して疑問に思っていたことを訊いた。闇雲に歩いて探し出せる狭い土地ではない。ましてや、方向を間違えていたら一生会えなかったかも知れないのだ。
「ブラウニ一家を殲滅したと聞いたが」
湯気の向こう側にいたアリシアとフィリカの動きが止まった。
「ええ」と短く答えるアリシアの横顔は心なしか曇っている。返り血に塗れた自身の姿を思い出したからだろう。戦場では当たり前の光景でも今の彼女には嫌悪すら覚える。
短い沈黙の後、シオンが口を開いた。
「雨があがったな」
いつの間にか幌を叩く雨音も大人しくなっていた。
初めて三人で迎える朝は、雨の雫が朝日に反射してきらきらと眩しく輝いていた。
昨夜はアリシアの体調も考慮して早目に就寝したのでシオンとはあまり言葉を交わしていない。
話したいことは山ほどあったが、またこうして一緒にいられるのなら焦ることもないだろうとシオンは逸る気持ちを抑えて夜を過ごした。
「早いのね」
黒毛の馬にブラッシングしているシオンが振り向くと両手にマグカップを持ったアリシアがいた。
「よく眠れた?」
「いや、一睡もしていない」
渡されたマグカップのコーヒーの香ばしい香りが嗅覚を刺激する。
「私もよ」
ついこの間まで死んだと思っていた想い人が隣で頬を赤らめて微笑んでいる光景はなんとも不思議な感覚だ。
「心配掛けてごめんなさい」
アリシアは改めてシオンの顔を見つめた。よほど辛かったのか無精ひげが目立ちやつれている。
「あんなことは本当に勘弁してくれ。だが……」
シオンの掌がアリシアの頬を撫でる。
「また逢えてよかった」
白い肌に長いまつ毛、ふっくらとした唇、そしてブランデー色の瞳に見つめられる喜びを実感した。




