雷光ブーゲン
「父さんが教えてくれなのならそれでもいい。シオン殿に頼みましたから」
囁くような声にブーゲンは眉間に皺を寄せて険しい表情になった。
「今、何と言った!?」
押し殺した低い声に息子は体を強張らせる。
「先程、シオン・フォレスト殿に会って私の師になってもらうよう頼んできました」
「シオン……だと?」
指の力が緩んだ隙にスティールは手を振り払って家の中へ入って行った。
「やつがこの町へ来ているのか……?」
聞き覚えのあるその名にブーゲンは茫然と玄関に立ち尽くした。
スティールが嵐のように去った後、シオンはかなりの皿数を胃袋へ納めていく。
「あなたとブーゲン様は面識があるの?」
食後の紅茶を飲みながらアリシアが訊いた。
「だいぶ前だが一度だけある。剛腕から繰り出す太刀筋はまさしく雷光の如く敵を斬る姿は凄まじいよ」
珍しく熱く語っているシオンに、アリシアはブーゲンの剣士としての人となりを知ったような気がする。
先程の様子から父と息子の確執は深く、詳しい事情は直接当人達から訊くしかないのだがそれもまた億劫だ。
果たしてあの御仁が素直に話してくれるかね。
眉間に皺を寄せて髭を生やした口は真一文字に結んでいる厳格な顔を思い出すとシオンは前髪をかき上げた。
翌日、城の中庭にブーゲン父子の姿があった。そこへもうひと組の親子と出くわす。
「これはブーゲン殿、こんな所で会うとは奇遇ですな」
丸々と太った背の低い中年の男が進み出ると後ろにいる息子のセージは薄笑いを浮かべている。
「カズラ公……」
「二週間後に開催される武道大会に御子息も出場なさると聞きましたが?」
「その話なら断りました」
「私は出場します」
「私は許した覚えはないぞ」
ブーゲンの鋭い眼光にスティールは一瞬たじろいた。
「ご子息は御父上と違って勇ましいですなあ」
見事に膨らんだ腹を擦りながらカズラは高笑いするとセージもこちらを見て嘲笑している。
明らかに挑発されているが目を閉じて静かに耐えている父親を歯痒く感じたスティールは叫んだ。
「父さんはこんな連中に中傷されて悔しくないのですか!?」
「こんな連中とは随分な言われようだな」
「息子の非礼をお詫びする」
露骨に不機嫌な表情に変わったカズラにブーゲンは頭を下げたのでスティールは憤慨した。
「父さん!!」
「剣士は戦いだけにあらず」
「懐かしい言葉ですね、ブーゲン殿」
垣根から現れた漆黒の髪の剣士にブーゲンは目を細めて凝視してやがて懐かしく呟く。
「シオン? シオン・フォレストか」




