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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第六章 新たな仲間
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二人目の妹

 頭痛に顔を歪めるアリシアにフィリカは「ゆっくりでいいから」と、肩に優しく手を添えた。

「暫く記憶が混乱するかも知れないけど、時間が経てば大丈夫だよ」

 アリシアは改めて隣にいる小柄な少女を見つめた。

「あなたが助けてくれたの?」

「うん。丸三日眠り続けてたから心配しちゃった。何処か痛む?」

「頭が少し」と頭部を触ると包帯が巻かれている。

「外傷は大したことないから傷痕は残らないよ。一番不安だったのが頭の方なの。見た目は軽くても脳に損傷があると厄介なんだ」

 状況を口早に説明しながら手際よく包帯を替えて巻き直してくれた。

「お腹空かない? まだお粥しか食べられないけど」

 アリシアが首を横に振る。

「食べたくなったら教えてね」

 人懐っこい笑顔を残して包帯と薬が入っているバスケットを胸に抱えて部屋を出た。

 賑やかな少女だが不快感はなくむしろ元気を分け与える明るさにアリシアの心は癒される。

 体を横たえて部屋の天井をぼんやりと眺めるとあの光景がまたも甦ってきた。 

 ロザヴィの狂気に満ちた黒い瞳とシオンの優しさに満ちた漆黒の瞳。

 二人の瞳が交錯してたまらずアリシアはきつく目を閉じて現実に突き当たる。

 私は彼女を殺したの……?


 フィリカの献身的な治療の甲斐があってわずか二週間足らずでゆっくりだが歩けるまで回復した。

 アリシアが剣士ということもあるがそれ以上にフィリカの医術の凄さだ。可愛らしい娘と思っていたが、レベルの高さは各国を旅してきたアリシアでさえ驚きは隠せない。

 そして、太陽のような笑顔に励まされてきた。

「よかった。やっぱり剣士は回復が早いね」

 フィリカお手製のハーブ茶をアリシアに差し出した。

「あなたのお陰よ。お礼をしたいけど生憎何も出来なくて……」

 申し訳なく俯くとフィリカは目を輝かせてこう言った。

「じゃあ『お姉様』って呼んでいい?」

 突然の申し出にアリシアが怪訝な顔をしていると、いつも明るいフィリカの表情が一瞬曇った。

「私、家族いないから凄く憧れているの。あなたみたいな素敵な人が姉だったら嬉しんだけど……」

 二週間の間、彼女の暮らしぶりで薄々は感じていたのでアリシアは快諾した。

「いいわ。ちょっと恥ずかしいけど」

 この言葉にまたいつもの明るい笑顔のフィリカに戻る。

「ほんと!! 有り難う」

「よろしくね、妹さん」

「はい、お姉様!!」

 まだ慣れない呼び方に二人は思わず吹き出して声を立てて笑った。

 フィリカの心底嬉しそうな笑顔にアリシアも誘われて笑顔になる。

 『お姉様』と呼ばれるのはこの世で二人目である。実の妹、シナリアは元気にしているのかとふっと脳裏をかすめた。


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