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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第二章 過去への帰郷
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別れ

イルセの決断は何をもたらすのか。

 突風によりなぎ倒された剣士達はおもむろに起き上がったがあまりの変化に茫然としていた。

 フェザーは震える体でアリシアを強く抱き締めて離さなかったので、その様子で全てを悟った。

 母イルセは死んだのだとー

 やっと体を離した彼が乾いた声で話し始めた。

「イルセ様は『破滅の光』を使ったのです」

「『破滅の光』……?」


 アリシアも耳にしたことのない禁断の魔術『破滅の光』。

 当時、女剣士が稀有な時代に男の剣士と同等に渡り合えるようにとイルセが自ら編み出した魔術の一つである。剣術の腕は互角でも男と女の力比は差がありすぎる。そこで、魔術にも精通していたイルセは剣の威力を魔術で中和することに成功した。この技があるお陰で彼女は、並みいる屈強な剣士の中でも名を轟かせられたのである。

 そして、体中の『氣』を媒体に通して広範囲の相手を殲滅出来る魔術が『波導』である。

 だが、イルセは更なる鍛錬で『波導』よりも破壊力のある一撃必殺の技『破滅の光』を会得した。戦場において効率のいい技と言えるが、実は己の命をも媒体とするまさしく『諸刃の剣』でそれ故に禁断の魔術とされていた。

 勿論、イルセの血を引いているアリシアも習得出来るのだが、母が教えたのは力の中和と『破滅の光』よりも規模が小さい『波導』だけだった。


「我々は勝ったのか……?」

「団長は……、イルセ様はどうなった!?」

 先程まで二万の兵で埋め尽くされた平野はぽっかりと空白になっている。

 オマスティアの騎士団はホルセン殲滅の事実を徐々に実感しつつ、偉大な剣士の死も認識しなければならない現実に打ち沈んだ。。

 長い沈黙の後、全員のすすり泣きが聞こえ出した。

 アリシアは、よろよろと頼りない足取りで母がいたと思われる場所に歩いて行った。もはや、相手も母も一片の肉片すら残っていない状況で焼け焦げた地面にきらりと光る物体を見つけると急いで駆け寄った。

 奇跡的に突き刺さっていた一本の剣。見覚えのある剣を震える手で抜いて、刃に刻んでいる名を確かめる。

 イルセ・シャムロック

 アリシアはあらゆる感情を涙に変えて号泣した。

 彼女の悲痛な叫びはラルーンの歪んだ赤い空にこだました。


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