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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第三章 アリシア、立つ
22/201

苦難

 今朝は、雲が多くどんよりとした空模様だ。目覚めたシオンは、ベッドの中で頭の下に両手を組んでしばらく物思いに更けている。

 双子の母イルセの武勇伝をエバから聞かされたのは昨夜で、真実がピースがパズルのように一つ一つシオンの頭の中でははまっていくにつれて切なさが増す。

 若干十五歳で、母の死を目の当たりにしたアリシアの心境は計り知れない。

 あの美しい微笑みは哀しみの裏返しなのか。


 アリシアは、早朝から後宮に赴き三年間の膨大な資料と記録に奮闘していた。

 父でもある王ブラッケンを支えてきた大臣の大半が更迭されており、シナリアの息がかかった者達が入れ替えに納まっていた。

 財政においては、杜撰な運用管理の元、多額の使途不明金が浮き彫りとなった。恐らく、シナリアの装飾品や大臣達の私費に宛がわれたと安易に推測できる。表立っていないが、王宮への出入りに便宜を図ってもらいたい商人や高級役職に就きたい貴族達の賄賂も含まれているに違いない。

 穴が開いた財政の補填は、国民からの税率の引き上げから賄っている始末だ。

 他にも無謀な政策が立案されたが、国政を退いた後も絶大な権限を持つエバと王側の数少ない大臣達の抵抗により食い止められた背景がある。

 アリシアが初めに着手したのもやはり財政からだった。まずは、不正の疑いがある役人を取り調べて罷免し深刻な財政難を立て直すべく人材の起用に力を入れた。堅実で信頼できる役人を財務大臣に任命すると、身分や家柄に関係なく経済に通じている者を募り組織を発足させた。

 大まかなガイドラインが決まると、財政面の改革は彼等に任せて今度は国政に目を向ける。財政同様、政治、軍事などその分野の専門家を集めて調査委員会を設置すると具体的な政策を提案させて、それを関係者で決議した。

 無論、長い年月を経て浸食した体制が一週間そこらで片付くものではないし、自身のやり方が王道とも思っていない。ただ、足掛かりとして何かを始めなければならない時期まで迫っていたし、正すとなればそれは姉であり王女である自身だと覚悟していた。

 母が命を賭けて守った祖国を捨てた三年前のせめてもの罪滅ぼしだとアリシアは痛感している。


 部屋に持ち込まれた朝食を済ませたシオンは、アリシアが非常に厳しい状況下にあることを年配の侍女から聞かせれて心配になってきた。

 食事は摂っているのか。無理はしていないか。きっと、彼女のことだから態度に出さないだろうが……。

 侍女は、そんな彼の気持ちを逸らすように自身の経歴を話し始めた。

 双子の姉妹が生まれる前からこの城に仕えているとのことだ。道理で、食後のお茶を出すタイミングといい間の読み方といい、気配りと心遣いが実に上手い。

 なんせ、最初に案内してもらった若い侍女はアリシアとどういう関係かといきなり訊いてきただけに年季と貫録が違うと感心した。



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