疲労という敵
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俺は森という場所を舐めていた。貧乏神という強力な味方が居るから。グレイウルフという森の探索に対して有効なカードも手に入れた。なら後は簡単に攻略できるだろう。そう思っていた訳なんだけど、1時間経ってもまだ2階層目を彷徨っていた。
「なあ、貧乏神。こんなにダンジョンって広いのか?」
「何さ? まだ時間もそこまで経っていないのさ。腹でも空いたのさ?」
「いや、腹は減ってないんだけど、疲れてきてさ。流石に1時間も森の中を歩きっぱなしだろ? 結構辛いんだよな」
「あんたの体力が無さすぎるのさ。これからダンジョンで1日過ごすこともあるのさ。戦闘も何度も何度も熟すのさ。体力がないなんて言ってられないのさ」
「言い返すことも出来ないけど、それでも疲れたんだ。休憩って事にしてくれないか? 目標があるのは解っているんだけど、ちょっと疲れたんだよ。森の中を歩くのって、こんなに疲れるんだなって実感したよ。思いっきり体力の無さを実感してる。だから少しだけ休ませてくれ」
「まあ、あたしも鬼じゃないのさ。次の階層に行くための階段を見つけたら、休みにしても良いのさ。あんたが使い物にならないんじゃあ話にならないのさ」
すまんとしか言いようがない。けど、疲れているのも事実なんだよ。連戦に継ぐ連戦で、神経の方がな。精神的に疲れているんだ。
2階層目をうろうろとしている訳なんだけど、階段は見つからない。森に慣れているグレイウルフが案内をしてくれているが、グレイウルフだってこの森は初見だ。階段の場所が解る訳でもない。……もしかしたら、何らかのスキルがあるんじゃないかとは思うんだけど、それは持ち合わせてはいないしな。何とか自分の足で見つけないといけない。
この1時間で倒してきた魔物は25体。小鬼12体にグレイウルフ13体だ。カードは出ていない。初めに出たのは幸運だった。けど、それ以降は出ていない所を考えると、俺の労働が足りていないんだろうなって。ダンジョンに入ったのは良いんだけど、それ以上でも無いからな。労働者としては、ダンジョンを攻略しなければならないんだろう。運気が上がることを願って、どんどんと攻略した方が良いんだろうが……。体力がついて行かない。
「そもそも精神的に疲れたとか言ってるけど、戦っているのはあたしらなのさ。楽が出来ている筈なのさ。自分の身を守っているだけで良いのさ。簡単な事なのさ」
「言い訳が出来ないくらいには、俺も自分の非力さを実感してる。マジで3層目の階段を見つけたら休憩にしよう。それの方が効率が良いはず。俺の疲労を考慮した方がまだマシのはず」
「まあ、結局はダンジョンの攻略に、マスターの存在は必要不可欠さ。何とかあんたの体力を付けるしかないのさ。緊急事態なのさ。とっとと体力を付けるのさ」
「……とは言うが、体力なんて毎日ダンジョンを攻略でもしないと付かないだろう? 毎日の積み重ねが大事だとは思うんだよな。俺が悪いのは解っている。だから、何卒」
「はあぁ。まあ、仕方がないのさ。けど、安全な場所なんて無いのさ。気が休まるかどうかは未知数さ。それでも良いなら休憩するのさ」
面目ない。何というか、それがやる気にも繋がるんだから、現金なものである。休憩があるって解ると、途端にやる気が出てくる。これを乗り越えれば休憩って解るだけでも朗報なんだ。……それだけ疲れているんだろうな。慣れない事をやっているって実感はあるし。
そんなこんなで彷徨っていたら、何とか次の階層に行くための階段を見つけた。ダンジョンに入ってから2時間も経っていないのにこの疲労感。半端じゃないって。とりあえず、帰るのであれば、20分もあれば帰れる。道は既に解っているからな。グレイウルフが把握してくれている。
俺はコンビニで貰って来たコーラを一気飲みした。炭酸が身に染みる。生き返るってこう言う事なんだなって思う。本当に疲れた。何もしてないのに、歩いていただけなのに、こんなに疲れるなんて思ってもいなかった。まあ、貧乏神にとっても、これは予想外の事なんじゃないかなとは思うけど。もうちょっと体力があればな……。
「人間は非力すぎるのさ。便利な生活をし過ぎたのさ」
「しかし、ある程度は褒めるべきではないですか? 我々が出てきて間もないわけですし、環境に適応できるだけでも褒められるべきでは?」
「それも1つはあるのさ。けど、体力は別さ。もう少し体力を付けないと、いつか死ぬのさ。こういうのは体力勝負って所もあるのさ。……まあ、3層目でこれだけのものが見つかったんだから、まだマシだと思った方が良いのさ」
「……だな。まさか3層目で早速食料が手に入るとはな。しかもリンゴだ。果物はいいぞ。栄養的にもかなりのものだし。……ただまあ、肉が食いたいんだけどな。魔物の肉って食えないし。ダンジョンには動物も居るのか?」
「ダンジョンに動物は居るのさ。それも運の範囲さ。海から魚が取れる様に、森にも動物がいる可能性もあるのさ。期待はしない方が良いとは思うけどさ」
それは朗報だな。肉が食べられないのは辛い。菜食主義者って訳でもないしな。肉が食いたければ魔物をって方法もあったのかと言われれば無い。魔物は死体が残らない。魔石やドロップアイテム、カードを残して消えてしまう。だから死んだふりとかも出来ないんだけど、肉が手に入らないのは問題がある。
主にやる気の問題でだ。果物や野菜ばかりを食べていたら、それだけで満足できるという人間でも無いんだ。肉が欲しい。タンパク質が欲しい。出来れば、米も欲しいけどな。焼肉なんかが出来れば嬉しいとは思う。……まあ、贅沢な話ではあるんだけどな。
「しかしだ。ここにこれだけの食料があるのは大きい。……これがダンジョンに入る度に生っていてくれたらなとは思うんだけど、そうじゃない可能性もあるんだよな?」
「その辺は調査をしてみないと解らないのさ。1日で生える事もあるし、ダンジョンを1回踏破しないといけないパターンもあるのさ。今後の事を考えるのであれば、1度は踏破しておくべきなのさ」
「踏破には賛成ですね。我々の力で踏破出来るダンジョンなのかを知るのは良い事です」
「願わくば、そこまで階層が深くない事を祈りたい所ではあるんだけどな……。感覚的にはどうなんだ?」
「さあ? ダンジョンに入るのはこれが初めてさ。そこまでは解らないのさ。ただまあ、深いダンジョンほど広いとは知っているのさ。このダンジョンはそこまで広いとは思わないのさ」
「ええ……。2時間近く歩いて3層目までしか来れていないんだぞ? 十分に広いんじゃないのか?」
「最低ランクのダンジョンよりは深いとは思うけど、そこまで広いとは思わないのさ。グレイウルフの戦闘力から加味すれば、大体20階層くらいはあるんじゃないのさ?」
「……ん? 戦闘力で解るのか?」
「大体の目安の話さ。グレイウルフの戦闘力は120.本当に弱い奴らは10とか20なのさ。それに比べれば十分な戦力になるのさ。だから、10階層で終わるとも思えないのさ」
「魔物が強ければ強いほど、ダンジョンも深くなるのか……。ならもうちょっと楽なダンジョンを探した方が良くないのか?」
「このくらいの難易度で躓いていたら問題なのさ。こういうのは、多少痛い目を見ながら、何とか工夫して突破していく方が良いのさ。その方が最終的には強くなるのさ」
まあ、一理あるか。楽勝の場所で、食料が見つかるかどうかは運だしな。こうやって食料が見つかった以上は、このダンジョンを攻略した方がまだいい可能性がある。
俺的にも辛いしな。新しいダンジョンで、砂漠ですとか、雪山ですとか言われても困るし。食料が無いのは解り切っているから、スルーでも良いんだろうけど、それをスルーするだけの根拠がなあ。砂漠はサボテンとかが取れるかもしれないし、雪山は……。何が取れるんだろう? どっちにしてもスルーなのかね?
環境的に、森はそこまで厳しいものじゃないし、俺としてはこのまま行く方が良いとは思うんだよな。食料が確保できるのであれば、その方が良いんだし。
「さて、休憩は終わりなのさ。とっとと次の階層を目指すのさ」
「あれ? リンゴは回収しなくても良いのか?」
「食料があることが解ったから良いのさ。次の階層に行く方が先さ。1回は攻略してしまった方が良いのさ。その方が、戦力的にも整うとは思うのさ」
「……そう言えば、カードの召喚上限とかはあるのか?」
「ある訳ないのさ。ゲームみたいに考えろとは言ったかもしれないけど、ゲームでは無いのさ。召喚上限なんて無いのさ。だから、カードはあったらあっただけ、有利なのさ」
「なるほどな。……それと、カードが死んだらどうなる? HPなんて解りやすいものが無いんだ。死ぬかどうかは死活問題になってくるとは思うんだけど」
「あたしは死んでも1日もあれば復活するさ。魂と結びついたカードは皆そうさ。マスターが健在であれば、1日くらいで復活はするのさ。それ以外のカードは、大体1週間から1か月はかかると思っておいた方が良いのさ。弱ければ早く、強ければ遅くなるのさ。……後、出来るだけカードは死なせない方が良いのさ。地球のリソースを使って回復する事になるのさ。その辺はしっかりと考えておくべきさ」
「マジか……。復活するのは良いけど、地球のリソースを食うなら、出来るだけ死なせない様にしないといけない訳だな。……そうなってくると弱いカードは最終的には使わなくなるのか?」
「そうなっていく運命なのさ。気に入って、使い込むことは良い事ではあるのさ。けど、最終的には譲渡する事になるとは思うのさ」
「ん? 譲渡?」
「戦力を集めに行くのが、あんたの仕事さ。それ以外にも、人手は必要になるのさ。このダンジョンを周回するのは、別にあんたじゃなくても良いのさ」
「……ああ。なるほどな。俺は地球を救う組。その他にも食料なんかを集める組が必要になるって事か。そうなると、何処かの勢力に合流した方が良いのか?」
「合流するのか、作るのかは完全に好みの問題さ。自分で集めるのも良い事さ。まあ、その辺は運任せになるのさ。合流するにしても、メリットデメリットを考えた方が良いのさ」
メリットデメリットな。それはあるかもしれない。自由行動が出来なくなると、地球を救う事が出来なくなるんだろうし。俺みたいな転生者は、地球を救う組に組み込まれた方が良いとは思うからな。何せ、自分を主人公だと思えるから。主体的に動いた方が良さげではあるんだよ。
……もっとも、自分で勢力を作るとしても、どうやって人を集めるのかって疑問もある訳なんだけどな。出来るだけ強い人を集めたいって思うのが普通だろうし。そういう人は自分で勢力を作ろうとするだろうしな。何というか弱い人ばかりを集めても仕方がないというか。何とも言えない所ではある。




