第12章 結びの光 ― 完成報告会議 ―
完成とは、終わりではない。
午後の陽射しがカーテン越しにやわらかく差し込む。
ブルームトラベル本社の会議室には、
資料とノートPCの並ぶ静かな緊張感が漂っていた。
青葉澪は、会議卓の端に座りながら、
深く息を整えていた。
あの朝から、まだ数日。
けれど、心のどこかが確かに軽くなっていた。
ドアが開き、アークシステムズのメンバーが入ってくる。
如月柊、凪陽翔、そして環。
柊の落ち着いた笑顔、
凪の明るい声、
環の静かでまっすぐな眼差し。
「おはようございます。青葉さん。」
柊が柔らかく会釈をする。
澪は小さくうなずき、
「おはようございます。……今日は、よろしくお願いします。」
その声は以前よりも少し丸みを帯びていた。
会議が始まる。
プロジェクターには完成したシステムの最終設計図。
凪が軽やかに説明を進めていく。
「今回のセキュリティ強化は、“防ぐ”だけでなく“支える”設計にしています。
たとえば、操作ミスや不注意が起こったときでも、
人を責めずに回復できるように。」
澪は、その言葉に小さく眉を動かした。
“人を責めずに”――
それは、かつての自分がいちばん遠ざけていた考えだった。
柊が続ける。
「システムは完成ではなく、ここから“育つ”ものです。
人が使い、人が直していく。
だからこそ、私たちは“人の温度”を残しました。」
会議室の空気が、静かに変わった。
言葉の奥にある誠実さが、
澪の胸に、あたたかい光を落とす。
環が、ゆっくりと資料を閉じ、
まっすぐ澪を見つめて言った。
「このシステムが、
青葉さんやブルームトラベルのみなさんの力になりますように。」
澪は一瞬、息をのんだ。
何も飾らない言葉。
けれどその声の中には、
澪が長いあいだ忘れていた“優しさの余韻”があった。
「……ありがとう。」
その言葉が、自分の口から自然にこぼれた。
凪が少し驚いたように、そしてうれしそうに笑う。
「僕たちも、青葉さんに教わったことがたくさんあります。
“強さ”の本当の意味を。」
澪は思わず小さく笑ってしまう。
「そう……それなら、私も報われるわね。」
その瞬間、会議室の空気がやわらかく解けた。
完璧を求めて張り詰めていた空間が、
“人の呼吸”を取り戻していく。
――会議が終わり、みんなが立ち上がる。
凪が資料をまとめ、環が軽く会釈をした。
「青葉さん、朝の光みたいでした。」
澪はその言葉に、少し目を伏せ、
静かに微笑んだ。
「ありがとう、環さん。
……あなたたちの光に、少しだけ触れた気がするわ。」
窓の外には、柔らかな午後の光。
その光が、澪の頬を照らし、
ほんのりと温もりを残していた。
人の手で育っていくものこそ、
本当の意味で守られていく。




