16.学園祭Ⅲ
午後の部が始まってから一般客が入れるようになったことで廊下を行き交う人の数も増え、あちこちから一層騒然とした声が聞こえてくる。喫茶店も午前中以上に忙しくなっていて、又もやリリアは休憩時間をずらす羽目になった。
事前にユーリーがリリアの休憩時間をクラスメイトに確認していたことは知っている。今度は声を掛けに別室の調理スペースを覗きには行ったものの、既に手伝いに戻っているようでとても声を掛けられる状況ではなかった。
ローズは相変わらず実行委員の仕事で席を外している。ユーリーには悪いことをしていると思いつつ、結局リリアは再び一人で教室を後にすることにした。
カルロのクラスの出し物は展示だった。ということは、また何処かでカルロと合流する可能性がある。そう思い、辺りを散策していると突然後ろからを掛けられた。
聞き覚えのある声に振り返る――アナである。
「リリア様も、今から休憩ですか?」
「そうですが……貴女は?」
「私もそうなんです」
笑顔で答えてからアナは僅かに迷うような様子を見せると、今度は控えめに口を開いた。
「もしよければ……一緒に見て回りませんか?」
「……私と、ですか?」
「はい」
思い掛けない誘いに、リリアは僅かに眉を寄せた。この間のこともあって声を掛けづらい筈なのに、どうして今さら自分と一緒にいたいと思うのか正直なところよく分からない。
(……何を考えているのかしら)
警戒しつつも、少しして静かに頷く。
「……分かりました」
ただ文化祭を見て回るだけなら、わざわざ断るほどのことでもない。
「本当ですか?」
「ええ。私も特に予定はありませんから」
そう答えると、アナは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
リリアはそんなアナの様子を横目に、先立って歩き始めた。何処に連れて行かれるのか分からないまま付いていくのは落ち着かないから、行き先は自分で決めることにしたのだ。
アナは少し後ろから黙ってリリアについてきた。
何か話すのかと思っていたが、結局アナは何も口にしない。ただ、先ほどから浮かべている微笑みを崩すことなく、一定の距離を保ったままリリアの後ろを歩いているのだ。
リリアも特に話し掛けることはせずに幾つかの教室を見て回り、時折、気になった出し物の前で足を止めていた。それでもアナは何も言わずに、リリアが歩き出せば少し遅れてついてくる。
先ほど自分から一緒に回ろうと誘ってきたのだから、てっきり何か話したいことがあるのだと思っていた。だが、こうして一緒に歩き始めてからアナは一度も自分から話し掛けてこず、それどころか何を考えているのかも分からないままただ微笑んでいる。
(……何なのかしら)
以前のことがある以上、そんなアナを前にして簡単に警戒を解くことなどできる筈がなく、だからといって何かを尋ねる気にもなれず、リリアはそのまま前を向いて歩き続けていた。
「リリア様」
そんなある時、後ろから再びアナから声が掛かった。
「……はい?」
リリアが足を止めて振り返るもアナはそれ以上何も言わず、未だにこちらを見つめながらにこにこと笑っていた。
何故呼んだのだろう。
暫くアナと見つめ合ってからリリアが小首を傾げたその時、背後からほんの僅かな気配がした。
―――一方、リリアのクラスでは。
「リア、まだ戻ってきていませんの?」
実行委員の仕事を一段落させて教室へ戻ってきたローズが、接客を続けている生徒たちへと尋ねる。
「そう言えばまだですね。大分前に休憩に行かれましたが――」
近くにいた生徒がふと思い出したように答える。
「そう……」
何処か引っ掛かったのかローズが僅かに首を傾げていると、教室の入口から見慣れた姿が現れた。
「あら、殿下」
ローズがカルロの姿を目に映す。
「失礼します。こちらにリリアは――」
「リアならまだ休憩から戻っていないそうですわ」
不意に教室へと入ってきたカルロにローズが声を掛けると、カルロの足が僅かに止まった。
「まだ、というのはどのくらい前のことですか?」
「私も聞いただけなので何とも……」
直後、カルロが教室の中を見渡し始める。喫茶店として使われている教室では接客を担当する令嬢たちが忙しそうに動き回っているたものの、その中にリリアの姿は当然見当たらない。
「……分かりました」
それだけ告げ、カルロは傍にいたリリアのクラスメイトに何かを尋ねると静かに教室の外へと視線を向けた。先ほどまで浮かべていた穏やかな表情が僅かに硬くなっている。
「……少し、探してきます」
そう言い残し、ローズが何も言わず背中を見送る中カルロは教室を後にしたのだった。
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申し訳ありません……!!




