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葛の葉奇譚  作者: 椿
第11章:逢魔が時の早食い大会
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 火曜日の夜7時30分。お客様が帰って少し静かになった店内を僕は黙々と清掃していた。

 「よしっ。綺麗になった。」

 ピカピカに磨かれた机や床を眺めこくりと頷くと、僕はぐぐぅっと大きく伸びをする。

 「晴支、此方も片付けが終わりましたし・・・そろそろ晩御飯にしましょうか。」

 レジ台や棚を拭き終えた六合が時計をちらりと見た後此方に振り向いて笑って語り掛ける。

 「御飯!?やった!!じゃあ、早く準備して食べよう!!」

 嬉しそうに目を輝かせ返事をする僕に、六合はくすっと微笑んで「そうですね。」と答える。鼻歌交じりに掃除道具を片付けていると―

 

 ピンポーン


 裏口のインターホンの音が響き渡る。

 「こんな時間に・・・一体誰でしょうか?」

 突然の訪問客に、僕と六合は顔を見合わせ首を傾げる。六合と一緒に裏口へ歩いて行き扉を開けると、其処にはくるくると巻かれた髪を束ねている1人の女性が立っていた。

 「六合君に晴支ちゃん!久し振りぃ。元気そうで何より❤」

 「件!?どうしてお前が葛の葉庵に!?」

 「久し振り、件。いらっしゃい。」

 吃驚しながらも彼女を迎え入れると、件は「えへへ❤」と悪戯っぽい笑みを浮かべながら僕達の手を軽く握った。

 「取り敢えず、客間に案内しよう。用件は其処で聞くから。」

 六合が少し困った様に眉尻を下げ客間へと歩き出す。彼に続いて、僕と件も廊下を歩いて行く。隣に並んで歩いていると、件が「晴支ちゃん、大きくなったねぇ。」と頭をポンポンと撫でてくる。3人で歩いていると、厨房から貴人が姿を現す。貴人は件の方にちらりと視線を向けると、片眉と口許をヒクッと引き攣らせた。対する件は貴人の顔を見るとパァッと表情を輝かせるのだった。

 「貴人くぅ~~~ん!!会いたかったぁ~~~❤」

 件は嬉しそうに貴人目掛けて飛び掛かりキスをしようとする。しかし貴人は素早く件の額をガッと押さえ、彼女が飛び付くのを防いでしまう。

 「・・・鬱陶しいからベタベタするな。用件があるなら、さっさと済ませて帰れ。」

 はぁ・・・と深い溜め息を吐きながら、貴人が素っ気無く突き放す様に言う。

 「もうっ。貴人君冷たぁ~い。でも、そういうクールな所が素敵!」

 うんざりした表情で冷たく見下ろす貴人の視線もお構いなしに、件は楽しそうに腕を伸ばして尚も近付こうとする。

 「ちょいと、件。貴人が困っているじゃないか。」

 「そうよっ!早く離れなさいよっ!!」

 2人の様子を見ていた太陰と朱雀が厨房から走って来て貴人にくっ付こうとする件を勢いよく引き剥がした。

 「何よ!2人共邪魔しないで!!」

 むすぅっと不満そうに頬を膨らませる件。そんな彼女に、太陰と朱雀はギロリと嫌悪の籠った目で睨み付ける。 

 「貴人も嫌がってるだろう。いい加減引っ付こうとするのは止めたらどうだい?」

 「嫌よ。私の事は放っておいてよ、“おばさん”。」

 太陰は“おばさん”という単語にピクッと一瞬反応し、件の腕を掴んでいる手にミシィッと強く力を込める。

 「貴人にちょっかい出しに来ただけなら、邪魔だからもう帰りなさいよ!このぶりっ子!!」

 「私は晴支ちゃんに頼みたい事があって来たの!ボサボサ頭は引っ込んでて!!」

 大声で怒鳴る朱雀をキッと睨み返す件。“ボサボサ頭”と言われた朱雀は「はぁっ!?誰がボサボサ頭よ!!」と怒りの形相でズイッと件の前に顔を近づける。2人は額をぶつけ合いながら凄い迫力で睨み合っている。件と太陰達の間にバチバチと火花が飛び散っている様子に、貴人は面倒臭そうに視線を少し逸らし、そろぉ~っと僕達の後ろに移動する。そんな賑やかな騒動の一部始終を、白虎と玄武が厨房の入り口から少しだけひょこっと顔を出してぷくくっと笑いを堪えながら眺めている。件への対応に困っている貴人の姿を面白がっている様だ・・・。

 う~ん・・・。このままじゃ、埒が明かないな・・・。

 「え~っと・・・。僕に頼み事って・・・何かな、件?」

 僕が恐る恐る問い掛けると、件は此方の方に向いてにっこりと満面の笑みを浮かべる。

 「ふふっ。実はね・・・晴支ちゃんに、大盛り料理の早食い大会に出て欲しいのっ!!」

 「!?は・・・早食い大会っ!?」

 件の言葉に、僕達は目を大きく見開いて素っ頓狂な声を上げてしまう。件の意図が掴めず、一同は戸惑い首を傾げるのだった・・・。



 「明日、妖が主催する早食い大会が開かれるの。優勝すると、とても貴重な天の羽衣を貰えるのよ!!」

 客間で静かに座りじっと耳を傾ける僕達を前に、件は少し興奮気味に語り始める。件は目を閉じ、うっとりとした表情を浮かべている。

 「成程。その早食い大会で優勝して、天の羽衣を手に入れれば良いんだね?」

 僕が確認すると、件は「そうっ!」と力強く頷いた。

 「晴支ちゃんは凄く大食いだから、きっと優勝できるわ!それに、優勝賞品には天界の醽酒やスイーツも付いてくるの!!」

 天界のスイーツ!?一体・・・どんな物なんだろう?

 空腹だった僕は“スイーツ”という単語に思わず食い付き、ぐるるるぅ~~と御腹から音を鳴らしてしまう。十二天将の皆は“醽酒”の方に少し興味をそそられている様だった。

 「もし天の羽衣を手に入れてくれたら、御礼に1つ予言をしてあげる。」

 「予言・・・?」

 バチンとウインクしながら語る件の言葉に、僕は小さく聞き返す。

 「ええ。天逆毎に関する予言よ。貴方達、興味あるでしょ?」

 身を乗り出しながらフフンと意味深な笑みを浮かべる件。彼女の口から出て来た名前に、一同の緊張が一気に高まる。

 ・・・件の予言は必ず当たるからな。これは先手を打つチャンスかもしれない。

 「分かった。早食い大会・・・僕出るよ。優勝目指して頑張る。」

 「本当っ!?良かったぁ~。晴支ちゃん、有難う~。」

 件は大きな声でそう言うと、僕にガバァッと勢い良く抱き付いて来た。

 「・・・件、苦しい。」

 「あっ。御免ね、晴支ちゃん❤」

 僕が小さく呟くと、件はアハハと笑いながら腕を放すのだった。そんな件を、太陰と朱雀が鋭く睨み付けている。そして件は2人の方にちらりと視線を向けると、べぇ~っと小さく舌を出して挑発するのだった。

 ・・・この3人は、今はそっとしておいた方が良いかもしれない。

 面倒な事にならない様に件達の睨み合いをスルーしつつ、予言や大会に出て来る料理や賞品のスイーツについて考えてみる。

 絶対優勝して、予言を聞かせて貰おう!そして・・・天界スイーツ、沢山食べるんだ!!

 僕は大きな期待を胸に抱き、ぐっと拳に力を込めるのだった。



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