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葛の葉奇譚  作者: 椿
第10章:切り裂き魔
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御負け話:思い出のかくれんぼ

-1-

 「家鳴見~っけ!!」

 「ぴゃあ!見つかった!!」

 太陽の暖かい光が降り注ぐ日曜日。公園では楽しそうに燥ぐ子供達の声が響き渡っていた。

 「おっ。お前ら、何して遊んでんだ?」

 「壮吾!!おいら達、かくれんぼしてたんだ!!」

 御使いの道中公園で遊ぶハク達を見かけた俺は、彼等に向かって声を掛けた。俺の声に気付いたハク達は明るく返事をしながら元気よくパタパタと駆け寄って来た。

 「ハクが鬼だったんだけど、皆見つかっちゃったんだ。」

 楓が眉尻を下げくすりと笑う。一つ目小僧や唐傘小僧も「隠れ場所直ぐにバレちゃった。」と楽しそうに語る。そんな彼等の言葉に、ハクは得意気にフフンと胸を張っている。

 「かくれんぼかぁ~。小さい頃よく晴支達とやったなぁ。」

 子供の頃を思い出しつい懐かしんでいると、ハク達が興味津々の様子でじぃっと此方を見ていた。

 「晴支や壮吾も、小さい頃よくこの公園でかくれんぼしてたのか?」

 「ああ。店の手伝いや修行の合間によく来て遊んでたよ。」

 俺は皆と一緒に近くのベンチに腰掛けると、小さい頃の昔話をゆっくり語り始めたのだった。



-2-

 あれは4歳の時の出来事だった。俺は晴支と晴弥と一緒に、公園でかくれんぼをして遊んでいた。

 「は~ち。きゅ~う。じゅう。もう、い~かい?」

 『もう、い~よ!』

 返事を確認した鬼の晴支がゆっくりと目を開け辺りをぐるりと見廻す。俺は高い木の上の方に登りバレない様に体を小さく屈める。木の上から晴支の様子を静かに見ていると、晴支はとことこと歩き始める。

 ・・・案外木の上って見ないから、多分中々見つからない筈だ。

 じっと身動きせず晴支が通り過ぎるのを待つ俺。すると晴支は俺が登っている木の前でぴたっと立ち止まる。

 「壮吾、見つけた。」

 「!?えっ、もう気付いたのかよ!!」

 余りの早さに吃驚した俺は、ズルッと滑って木から落っこちそうになってしまう。何とか枝にしがみ付いた俺は、体勢を立て直しするすると地面に降り立った。

 「木の上はバレにくいかなって思ってたのに・・・。早過ぎだよ、晴支。」

 口を尖らせる俺に、晴支は「そうかな?」とのんびりとした様子で首を傾げる。その後直ぐにまた歩き始めた晴支は、積み木のあるログハウスまで進んで行く。そして真っ暗なログハウスの階段下に顔を覗かせ「兄さん、見つけた。」と一言述べる。ひょこっと現れた晴弥は、「あちゃ~。見つかっちゃったか~。」と笑いながら、俺と晴支の頭をポンと優しく叩いた。

 「じゃあ、次は俺が鬼になるよ。」

 俺はそう言うと近くに立つ木の所で両目を塞ぎ1、2・・・とカウントダウンを始めた。このかくれんぼがこの後あんな大騒ぎになるとは・・・この時の俺達には知る由も無かった。



-3-

 「う~ん。何処に隠れようかな?」

 公園内を歩き回りながら、僕は首を傾げぽつりと呟いた。植え込みの陰やグラウンドの用具置き、アスレチックの隙間等々・・・隠れられそうな場所を次々と思い浮かべてみる。

 ・・・一番見つかりにくそうなのはどれかな?

 隠れ場所に迷っている僕だったが、ちらりと目にした落ち葉の山に目を留める。掃除用具を入れている小さな物置小屋の直ぐ傍にどっさりと集められた大量の落ち葉は、子供が余裕で中に入れるくらいの大きさだった。

 中に入ったら、暖かくて気持ち良いかなあ・・・。

 僕は落ち葉の山に近付くと、思い切ってずぼっと中に入ってみた。潜り込んだ落ち葉の中はふかふかで暖かくて、思っていたより快適だった。

 「もう~い~かい?」

 少し遠い所から壮吾の声が聞こえてきた。僕は落ち葉の中で寝転んだ体勢のまま「もういいよ。」と返事をした。

 取り敢えず、暫く此処でじっとしていよう。

 出来るだけ身動きを取らない様に気を付けながら静かにじぃっと息を潜める。僕を包み込む落ち葉が蒲団みたいでとても心地良い。落ち葉の中で横になっていたら、段々と眠くなってきた。

 う~・・・眠た過ぎて、目を開けていられない。何だか体も重くなってきた・・・。

 うとうとと眠気と闘っていた僕だったが、我慢出来ずに深い眠りの中へと落ちてしまったのだった。



-4-

 捜し始めてから約2時間・・・俺は公園中を歩き廻り晴支を捜したのだが、何処にも見つからない。途中で見つけた晴弥も一緒になって晴支の名前を呼びながら隠れられそうな場所をくまなく捜しているのだが、晴支の姿は見当たらない。

 「晴支・・・何処に居るんだろう?公園の外には行ってないと思うけど・・・。」

 晴支の事が心配になった俺は、顔を俯かせぽつりと不安そうに呟く。そんな俺を励まそうと、晴弥は「大丈夫。きっと見つかるよ。」と声を掛けてくれた。そして、再び2人で晴支を捜し始めていたら―

 「晴弥坊っちゃん。壮吾。・・・晴支坊っちゃんは一緒じゃないのか?」

 突然背後から声を掛けられた。驚いて俺達が振り返ると、父さんが急いで此方に駆け寄って来る姿が見えた。

 「父さん!?どうして此処に?」

 「3人の帰りが遅いから迎えに来たんだよ。」

 俺達は晴支がかくれんぼ中に居なくなってしまった事を父さんに説明した。父さんは自分が公園内を捜してみるから、葛の葉庵に帰って晴厳さん達に事情を説明する様に俺達に指示した。俺達は彼の指示にこくりと頷くと、薄暗くなった公園の中を葛の葉庵へと向かって急いで走り出したのである。



-5-

 「皆っ、大変だっ!!晴支が・・・消えちゃったっ!!」

 裏口から店に戻り厨房で叫ぶ俺達。突然の事態にその場に居た皆は目を丸くして固まってしまった。

 「2人共、何があったのかゆっくりで良いから、詳しく説明してくれるか?」

 俺と晴弥の前でしゃがみ問い掛ける貴人。俺達は公園での一件を必死に伝えた。

 「せ・・・晴支が行方不明?ま・・・まさか・・・妖怪に襲われてしまったのでしょうか・・・。それとも・・・悪い人間に誘拐されたとか・・・。あの子は食いしん坊な所がありますから・・・御菓子や食べ物に釣られて誰かについて行ってしまったのかも・・・。」

 真っ青な顔で両手を頭に当てわなわなと震える六合。彼の言葉に、俺達の不安も高まっていく。

 「六合、大丈夫よ。きっと晴支君は直ぐに見つかるわ。」

 母さんが心配する六合を落ち着かせようと声を掛けるが、彼の耳には届いていない様だった。

 「とっ、兎に角私達も急いで捜さないとっ!!晴支が危険な目に遭っているかもしれないっ!!」

 店を飛び出そうとする六合だったが、白虎に髪の毛を掴まれすてんっと勢い良く転んでしまう。

 「落ち着いて下さイ、六合。闇雲に走り回っても晴支を見つけられませんヨ。」

 仰向けになって痛そうに腰を押さえる六合に手を差し伸べながら、白虎が諌める様に話し掛ける。

 「公園を中心に、晴支の気配を探ってみて欲しい。さぁ、行っておいで。」

 晴厳さんが懐から紙人形を沢山取り出し語り掛ける。すると紙人形達は一斉に外に向かって飛んで行った。

 「皆も晴支を捜すのに協力してくれる?」

 時雨さんの言葉に葛の葉庵の皆は「勿論。」と頷く。

 「天后は晴弥と壮吾と一緒に此処で待機していてくれるかい?もしかしたら晴支が帰って来るかもしれないから。」

 晴厳さんの言葉に、天后は「分かりました。」と返事をする。それから皆は店を早閉めして晴支を捜しに出発したのだった。



-6-

 「晴支~っ!聞こえたら返事をしろっ!!」

 公園内を隅から隅まで捜してみたが、晴支の姿はない。やはり公園の中には居ないのだろうか?

 「貴人・・・本当に、晴支坊っちゃんは何処に行ってしまったんだろうか・・・。」

 先に公園に来ていた秀助が心配そうに呟く。

 「大丈夫。皆で捜しているんだから、きっと見つかるさ。もう一度、手分けして公園内を捜してみよう。」

 私が声を掛けると、秀助は「そうだな。」と自分に言い聞かせる様に呟いた。秀助と別れて暫く公園内を歩き続けていると、小さな物置小屋の近くにやって来た。周辺に気を配りながら通り過ぎようとしていたその時―


 カサッ


 「!?」

 幽かな物音が聞こえて来て、ふと足を止めた。音のする方にゆっくり近付きそおっと手を伸ばしてみると、何かふわっとした感触の物に触れた。その直後、私の目の前に大きな落ち葉の山が出現した。

 「まさか・・・」

 私は急いで落ち葉の山を掘り進めた。ガサガサと落ち葉を払い除けていると、黒い髪の毛が葉っぱの中から現れた。更に落ち葉を掘ると、其処にはすやすやと気持ち良さそうに眠っている晴支の姿があった。

 「良かった・・・。此処に居たんだな、晴支・・・。」

 晴支の穏やかな寝顔を見て、私は思わず眉尻を下げふぅ、と深い安堵の溜め息を吐いた。怪我等もしていない様で、一安心だ。

 「全く・・・心配かけさせて・・・。」

 苦笑しながら優しく抱きかかえると、晴支が眠ったままぎゅっと私の服の袖を掴んだ。すぅすぅと小さな寝息を立てている。

 「さあ、葛の葉庵に帰ろう。」

 皆に晴支が見つかった事を知らせた後、私は気持ち良さそうに熟睡する晴支を抱えて物置小屋を去ったのだった。



-7-

 貴人が晴支を見つけて店に戻って来た時には、もう日はすっかり沈んで夜になっていた。貴人の腕の中ですやすや眠っている晴支の姿を見て、葛の葉庵の面々はずるぅっと気が抜けてしまうのだった。

 「でも掃除用具入れの所は俺達も捜したのに、何で落ち葉の山に気付かなかったんだろう?」

 「眠っている間に、無意識に“隠”の術をかけていたらしい。それで姿や気配が分からなくなっていたんだ。」

 俺が疑問を呟くと、貴人が直ぐに答えてくれた。

 「えぇっ!?いつの間に“隠”の術を覚えたんだろう?」

 我が子が知らない内に術を習得していた事に、晴厳さんが驚きの声を上げる。

 「晴支~っ!?一体何処に行って゛だんでずがぁ゛~っ!!心配じでだんでずよ゛~!!本当・・・無事で良がっだ~!!」

 バァンッと勢い良く扉を開けて戻って来た六合が、抱えている貴人諸共晴支を思い切り抱き締める。彼の顔は涙と鼻水でぐっしょりになっていて、とても酷いものだった。抱き締められている貴人と晴支の服もびしょびしょになっていた。

 「おい、六合・・・。晴支はこうしてちゃんと帰って来たんだから、、もう泣くな。」

 口許を引き攣らせ、少し困った様に溜め息を吐く貴人。しかし六合は2人に抱き付いたままワァワァと泣き続けている。そんな六合達の姿を見ながら、白虎は片手で顔を覆いぷるぷると笑いを堪えていた。

 「・・・ん?あれ?僕、いつの間に店に戻って来たんだろう?さっきまで、公園でかくれんぼをしていた筈なのに・・・。それに六合・・・どうしてそんなに泣いているの?大丈夫?」

 六合の泣き声に晴支がふっと目を覚ます。晴支は片目を少し擦りながら、泣いている六合の涙をそっと拭う。そして不思議そうに首を傾げながら、六合をじぃっと見つめていた。そんな彼に、六合は「晴支~っ!!」と泣き叫びながらまたぎゅっと抱き締めるのだった。皆が眉尻を下げやれやれ・・・と苦笑していると、晴支の御腹からぐぅ~っと大きな音が鳴るのだった。

 「御腹空いちゃった・・・。」

 ぽつりと呟かれた晴支の言葉に、一同は思わずぷふっと吹き出してしまう。

 「カッカッカッ!本当・・・この子には敵わねぇなぁ。」

 玄武が両手を腰に当てて豪快に笑う。

 「ふふ。じゃあ、皆御飯にしましょうか。」

 時雨さんの言葉に晴支が目を輝かせ、貴人や六合に早く食卓に行こうとせがむ。その言葉を受け、俺達は皆で一緒に食卓へと向かって行った。こうして、“かくれんぼ騒動”は幕を閉じたのだった。



-8-

 「落ち葉の中で何時間も寝るなんて・・・晴支兄ちゃんって、昔っからマイペースだったんだね。」

 「六合は本当に心配性だなぁ・・・。」

 俺の昔話を聞いた楓とハクがしみじみとした表情で語る。一つ目小僧や唐傘小僧、それに家鳴達は晴支のマイペースっぷりに少し吃驚している様だった。

 「晴支のマイペース伝説ならまだまだ沢山あるぞ。例えばお八つの御団子を食べている最中に妖に襲われた時は、御団子が山盛り入ったお皿を持ったまま食べながら妖退治してた。不機嫌そうに鋭く妖を睨み付けて・・・あの時は相当怒ってた。あと白虎が悪戯で晴支の頭の上に消しゴムを40個以上積み上げた時も、全く気にせず本を読み続けていたんだぜ。読み終わった後、晴支が崩さない様に無言でそぉっと消しゴムタワーを机の上に置いたのを見て、白虎が「凄いデス、晴支!!」って楽しそうに拍手してたよ。」

 俺が笑いながら晴支の伝説を幾つか挙げていくと、皆は「流石晴支・・・。」と声を揃えて呟いていた。

 ・・・本当、晴支と一緒に居ると退屈しないよな。

 晴支との沢山の思い出を振り返りながら、俺はついくすっと笑ってしまう。すると、ハク達がもっと晴支との思い出話をして欲しいとワイワイせがんでくる。俺が他のエピソードを話そうと口を開きかけたその時―

 公園の時計が鳴る音が響き渡った。

 「!?やっべぇ!!早く買い物を済ませて店に戻らないとっ!!続きはまた今度な。じゃ、俺は先に行くぜ!!」

 俺は急いで立ち上がり、ハク達に手を振りながら出口へと走り出す。そんな俺に、ハク達も元気良くブンブンッと手を振り返してくれた。


 晴支は天然でマイペースで危なっかしい所があるから・・・これからも、俺が隣でサポートしてやらないとな。


 晴支のほんわかした笑顔を思い浮かべながら、俺は今日も駆け抜けて行く。

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