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人々が眠りにつきしぃんと静まり返った深夜の暗い山道。人気の無い不気味な雰囲気の山道を、八束は1人、ゆっくりとした足取りで歩いていた。ザッザッという私の幽かな足音と、ザザァッという風が木々を揺らす音だけが山の中に響く、とても静かな夜だ。
山道を暫く歩いていた私は、1本のどっしりとした大きな木の前で立ち止まった。オリエンテーリング中に霧谷君達が倒れた場所だ。足下に視線を落とし何も言わず唯その場に佇む私を、野衾や悪霊の集団が取り囲む。彼等は私の様子を窺い、暫しの間じぃっと私を睨み付けていた。やがてぴくりとも動かない私に痺れを切らした妖達は、私を喰らおうと一斉に襲い掛かろうとしたのだが―
ズシュッ!シュパァァンッ!!
私の周りに居た大勢の妖達が、突然現れた数多の水の刃によって切り裂かれてしまう。花弁の様に舞い上がる血飛沫を、木々の間から漏れる月光が照らす。
カサッ
物陰に隠れていた野衾が、私に飛び掛かろうと駆け抜ける。しかし跳躍しようと後足を小さく屈めた途端、黒い蛇に首元を噛まれ、そのまま命を落としたのである。その直後、1人の赤髪の男が現れ、私の方にゆっくりと歩み寄った。
「お呼びでしょうか?八岐大蛇様。」
男は妖達の屍の真ん中に佇む私の前で跪き、恭しく語りかけた。
「土御門君と赤星君を襲った山嵐・・・あれ、君の仕業だよね、七歩蛇?」
「・・・はい。十二天将が傍に居ないこの宿泊訓練中が好機だと思い、勝手ながら襲撃させました。」
ピリリと突き刺す様な冷たく鋭い威圧を込めて見下げる私の問いに、七歩蛇は深々と一礼しながら真面目な表情で答える。
「全く・・・下手に騒ぎを起こして彼等に嗅ぎつけられでもしたら、唯じゃ済まないよ。折角人間のふりをして彼等の傍に近付いているのに、バレてしまったら全部無駄になってしまう。それに、野衾まで現れて神崎さん達の様な関係無い生徒達まで危険な目に遭わせてしまったじゃないか・・・。」
私が水の刃で始末して助けたから良かったものの・・・。
私はふぅっと1つ深い溜め息を吐きながら、風に靡く蓬髪を片手で押さえた。
「今回は許すけど・・・次また勝手な行動をしたら、容赦無く君を斬るよ。良いね?」
「はい。申し訳御座いませんでした。」
威圧と殺気を込めて釘を刺すと、七歩蛇は静かに謝罪の言葉を述べ、黒い蛇達と共に夜の闇の中へと消えていった。
京都の一件で覚を助ける時に白虎と接近してしまったから、今まで以上に慎重に彼等の動向を見守っていかないといけないのに・・・。
十二天将の白虎・・・彼はかなり勘が鋭く、強力な力を持った厄介な式神だ。少しでも襤褸を出せば、彼には直ぐに気付かれてしまうだろう。細心の注意を払わなければならない。
・・・それに、土御門君はとても面白くて興味深い子だから、もう少し見守り続けていたい。
そんな願いを胸に夜空を見上げてみると、私の上空を1つの流星がシュッと流れていった。私は眉尻を下げふっと小さく笑みを浮かべると、施設へと戻る為に暗い山道を歩き始めた。




