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葛の葉奇譚  作者: 椿
第8章:京都戦乱―後編―
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 「晴支が関わると、妖との闘いが一気に進展するね。助かるよ。」

 「そうですね。」

 大堰川へと向かう道中、俺がくすりと笑い一言呟くと紗矢は静かに相槌を打つ。

 「彼奴は唯御節介なだけですよ。」

 顔を顰め吐き捨てる様に話す剣治に、俺は「ハハハ。」と苦笑を浮かべた。

 「さあ。もう直ぐ大堰川に着くよ。」

 日光が反射しキラキラと輝く川が横目にちらりと映ったその時―

 俺達を狙う光の矢の攻撃が始まったのだった。

 「光の矢・・・随分正確な射撃攻撃だね。敵の位置は・・・清水寺の辺りかな?」

 射撃攻撃を躱しながら、俺は矢が飛んで来る方向を見定める。 

 矢の攻撃を躱しながら動くのは、やりづらいな・・・。

 「剣治、頼みがあるんだけど・・・」

 「何でしょう?」

 俺が語り掛けると、剣治はピシッと姿勢を正した。

 「この射撃攻撃を止めて来て貰いたいんだ。お願い出来るかな?」

 「分かりました。任せて下さい!」

 剣治は元気良く答えると、力強い足取りで走り去って行った。

 「俺達も川の方へ行こうか。」

 「はい。」

 ・・・さて、川で待ち受けているのはどんな妖かな?

 暫く走り続けた2人の前に現れたのは、自然豊かな美しい川の景色だった。俺達を潰そうと企む妖達が、この場所で待ち受けている筈だ。辺りを調査しようと見廻したその時―

 巨大な水の波動が俺と紗矢目掛けて襲い掛かって来た。俺はすかさず印を結び、防御の陣を発動する。陣は勢い良く迫って来た水を受け止め跳ね返した。

 「早速お出ましのようだね。」

 水の波動が放たれた方向にちらりと視線を向けると、其処には此方を鋭い目付きで睨み付ける河童の集団が居たのだった。

 「俺は九千坊。お前、賀茂家の若頭だな?」

 「ああ。だから君達を野放しにしておく訳にはいかないな。」

 バチバチと火花を散らしながら睨み合う2人。正に闘いの火蓋が切られようとしたその時だった。ドシンドシンという重い音と地響きが俺達の方へと少しずつ近付いて来るのに気付いたのだった。

 「おや?孝行君と紗矢ちゃんじゃねぇか!もしかして、闘いの真っ最中だったのかい?邪魔しちゃったかねぇ。」

 山の方からやって来た玄武さんは、僕達の様子を見てふわりと笑いかける。その後ろから巨大なだいだらぼっちが大きな足音を立てて現れた。

 「壮吾と一緒だったのでは?」

 「いやぁ。此奴の奇襲を受けて分断されちまったんだよ。」

 だいだらぼっちの平手打ちを水のバリアで払いながら、玄武さんはハハハと笑い答える。

 「仲間と雑談している余裕などあるのか?」

 九千坊が俺を狙って水の針を形成し放つ。俺は防御の陣で針を払い落とすと、五行説で水と相性の良い土を司る術の印を結んだ。すると、河童達が集まる水辺の地面が鋭く尖って沢山の槍を形成し、河童達を襲ったのである。

 「孝行様。手下の河童達は私にお任せください。やるわよ、村正。」

 「ケケケ!暴れてやるぜ!!」

 紗矢が妖刀村正にそっと触れ語り掛けると、村正は楽しそうな声で返事をする。紗矢が妖刀を構えると、その妖力が彼女の全身を包み込む。妖刀の力を纏って体を強化した紗矢は河童集団の方へと素早く駆け抜け、次々に河童達を切り裂いていった。斬られた河童達は妖刀の呪詛により体を破壊され倒れていく。

 「くっ。河童達!若頭の方を倒す!俺に続け!!」

 九千坊が残っている河童達を引き連れ俺に迫って来る。しかし、その途中突然あちこちで爆発が起こり、河童達が吹き飛ばされてしまう。

 「至る所に地雷術式を仕込んであるから、気を付けた方が良いよ。」

 爽やかな笑みを浮かべ語り掛ける俺に、九千坊はギリッと歯軋りをして怒りの表情を見せる。九千坊が俺に向けて手を翳すと、俺の足下から水が現れ俺を包み込んでしまう。俺は火を司る術で水を蒸発させ脱出する。

 「お返しだよ。」

 俺は九千坊を土の球体の中に閉じ込めた。土の球体は全面に針を作り出し九千坊を串刺しにしたのだった。

 「九千坊様ぁ!?」

 血を流し倒れる九千坊の仇を打とうと手下の河童達が俺に向かって飛び掛かって来る。そんな河童達に紗矢が立ちはだかる。

 「孝行様には近付けさせません。」

 紗矢の妖刀が更に大きな声で「ケケケケケ。」と笑い声を上げると、妖刀の妖気が鋭い牙を持つ獣へと具現化し、河童達に噛み付き、飲み込んでいった。


 一方、玄武さんはダイダラボッチと一定の距離を取りつつ攻撃の隙を窺っていた。

 「しっかし・・・お前さん、本当にでけぇなぁ。」

 見上げながら飄々と笑う玄武さんを、だいだらぼっちは無言でじっと見据える。そして玄武さんを踏み潰そうと片足を思い切り振り下ろす。

 「おっとぉ!」

 ヒョイッと後ろに飛び退いた玄武さん。ストンッと着地した彼を背後から大きな土の手が襲い掛かる。玄武さんは水の刃を出現させると、土の手をスパァンッと切り裂いた。だいだらぼっちは玄武さんを捕らえようと彼に向けて手を伸ばす。

 「どぉりゃあああああ!!」

 玄武さんはだいだらぼっちの指をガシッと掴むと、川目掛けて思いっ切り投げ飛ばした。だいだらぼっちが大地を大きく揺らしながら尻餅をつくと、玄武さんは川の水で刃を幾つも形成し、だいだらぼっちの全身を切り裂いていった。負傷しただいだらぼっちは、地中へと潜り込み、姿を消したのだった。

 

 「流石は賀茂家の次期当主。術のスピードや質もかなりのものだねぇ。紗矢ちゃんも、見事な刀捌きだったよ。」

 闘いが一段落した所で玄武さんが俺達の方へと歩み寄って来た。 

 「有難う御座います。」

 紗矢は普段通りの真面目な表情で静かに答える。

 「玄武さんこそ、素晴らしい闘いぶりでしたよ。水の操作はもちろん、だいだらぼっちの巨体を投げ飛ばすその怪力も、凄いとしか言い様が無い。やはり十二天将の力は凄まじいものですね。」

 満面の笑みで俺がそう語ると、玄武さんは「いやぁ、大したこたぁないよ。」とひらひら手を振りながらにっこりと笑顔を向けてくる。にこにこと笑い合う俺と玄武さんの間に妙な沈黙が流れる。

 相変わらず飄々としていて掴み所が無いな・・・。やはり油断ならないというか・・・全く隙の無い人だな・・・。

 「玄武っ!悪い、遅くなって・・・。途中で妖に邪魔されてさぁ。あっ、孝行と紗矢も一緒だったのか。」

 声の方に振り向くと、壮吾は俺と紗矢の姿を見て一瞬驚いた表情で立ち止まる。そして一呼吸間を置いてから、此方の様子を窺う様にちらりと視線を向けながら駆け寄って来た。

 「おお、壮吾!だいだらぼっちならもう倒したよ。残念ながら、情報は何も得られなかったが・・・。そっちは何か手掛かりを掴んだかい?」

 玄武さんの問い掛けに、壮吾は申し訳なさそうに首をふるふると横に振る。天逆毎の尻尾を掴むのは、中々骨が折れそうだ。 

 「そういえば・・・剣治は上手くやってくれたみたいだね。」

 光の矢の雨が止んだ空を見上げながら、俺はぽつりと呟いた。他のチームの皆もぼちぼち戦闘が終わっている頃だろう…。そろそろ此処を離れようかと考えていたその時―

 「!」

 二条城の方から、かなり強力で巨大な妖気と霊力に満ちた気配が放たれるのを感じ取った。

 この気配は・・・。

 俺はこの気配を放つ主を頭に思い浮かべ、フッと小さく笑みを浮かべた。

 二条城の方は、面白い事になってきた様だね。

 気配の方を見つめ二条城で起こっているであろう事を楽し気に思案する俺の横で、紗矢は何も語らず静かに待機している。玄武さんと壮吾も、そんな俺達を静かに見つめている。

 さて、“彼”は一体どう動くのかな?ゆっくりと事態を見守らせてもらうよ。

 心の中で呟いた言葉はさらさらと流れる川の音に消えていったのだった。






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