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葛の葉奇譚  作者: 椿
第8章:京都戦乱―後編―
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6

 ザワザワと木々が揺らめく音が響く山の中。壮吾と玄武は妖事件が増えているこの山を走り回って調査していた。

 「陰陽師達を敵に回して・・・妖達は一体何考えてんだろうな?」

 「さあねぇ。彼方さんに聞いてみない事には、詳しい事は分からねぇなぁ。」

 腕を組んでむむむ・・・と考え込む俺の問いに、玄武がのんびりとした口調で答える。

 神崎さんの魂に関する手掛かりが見つかれば良いけど・・・。

 限られた時間の中で彼女を助ける事が出来るか・・・そんな不安が頭を過る。「弱気になってはいけない!」と、俺は不安を掻き消す様にブンブンッと首を振った。

 「止まれ、壮吾!」

 「へ!?」

 玄武の言葉で我に返った俺は、その場にぴたりと止まった。考え事に気を取られて気付かなかったが、付近に邪悪な妖気が感じられる。警戒を強め身構えていると、突然地面が盛り上がり震動する。

 「“天月”!」

 俺は妖刀を呼び出し、低い姿勢で構えた。するといきなり巨大な手が木々を薙ぎ倒しながら迫って来て俺の体を吹き飛ばそうとしてきた。俺は天月の刀身でガードしたが、巨大な手の膂力に耐え切れず、遠くまでふっ飛ばされてしまう。

 「うわあああっ!?」

 猛烈なスピードで飛ばされていく俺は、太い木の幹に衝突してしまう。全身に激痛が走り、俺は地面に倒れ動けなくなってしまった。

 「壮吾っ!?」

 俺が飛ばされた方に急いで駆け寄ろうとする玄武だったが、だいだらぼっちに阻まれてしまう。

 「・・・仕方ねぇ。先にあんたを片付けるとするかねぇ。」

 俺と合流するのが難しいと判断した玄武は、だいだらぼっちとの対決を開始したのだった。


 「う”っ・・・痛ってて・・・」

 苦痛に耐えながら何とか起き上がった俺は、玄武の所に戻ろうと歩き始める。すると、少し歩いた所でいきなり上空から光の矢が俺目掛けて降りかかって来た。

 「くそっ!邪魔だなっ!!」

 俺は天月で矢を弾きながら進み続けた。暫く進み続けた先に、木々の間から黒い人影がサッと見えた。俺は立ち止まり、人影が姿を現すのを待った。そしてその数秒後、人影の正体は俺の前に姿を現すと、露骨に嫌な顔をしたのだった。

 「うわっ!?お前と鉢合わせするとか・・・最悪!!」

 剣治は不機嫌を隠そうともせず、ギロリと俺を睨み付ける。

 「それはこっちの台詞だ!・・・っていうか、何でこんな所に居るんだよ?お前は大堰川の方の担当だろ?」

 言葉にイライラした感情を含ませながら問い掛けると、剣治はフンッとそっぽを向いた。

 「孝行様から射撃攻撃してくる妖を退治する様に命令を受けたんだ。お前こそ、もう1人のおっさんはどうしたんだよ?」

 剣治はきょろきょろと辺りを見廻しながら玄武について尋ねてくる。

 「敵の襲撃を受けて分断されちまったんだよ。」

 今玄武は1人でだいだらぼっちと闘っている。早く戻って加勢しないと・・・。

 「ふぅん。なら早くおっさんの所に行けよ。俺は頼まれた仕事があるから、無駄話している暇無いんだよ。」

 「お前が先に話し掛けてきたんだろうが!」

 興味が無い様子でスパッと切り捨てる様に話す剣治に、俺は思わず怒り気味に返事をしてしまう。

 あ゛~もう!此奴、本当に腹立つなぁ・・・。

 お互いに顔を背け合いながら荒々しくズカズカ歩き出す。飛んで来る光の矢を、俺は苛立ちをぶつける様に天月で払い落としていく。剣治も手にしている2本の短刀で矢の攻撃から身を護っている。2人で一緒に歩いていると、少し先の所に静かに立っている少年に出くわした。

 「やあ。僕は桐一兵衛って言うんだ。君達、陰陽師の仲間だよね?」

 一兵衛はにっこりと微笑みながら問い掛ける。一見穏やかそうな少年だが、此奴からは静かな殺気が感じられる。

 「だったら・・・どうするんだ?」

 「そうだなぁ。君達の足止めをさせて貰うよ。」

 妖刀を構え警戒を強める俺達の方へゆっくりと歩み寄る一兵衛。

 「足止め?ふんっ。一瞬で真っ二つにしてあげるよ。」

 剣治は一兵衛の目の前まで素早く駆け寄ると、短刀で胴体を容赦無く切断した。斬られた一兵衛は悲鳴を上げたり、苦痛に顔を歪めたりする事無く、唯不気味にふふふと笑う。そして斬られた胴体と下半身はそれぞれ再生し・・・一兵衛は2人になった。

 「な!?」

 一兵衛は驚く俺達に事態を呑みこむ間も与えず襲い掛かる。妖力を込めた拳で殴ろうとしてくる一兵衛を天月で斬る。すると、また彼は分裂して同時に攻撃を仕掛けて来る。

 「ちっ、此奴・・・斬っても直ぐ増えやがる!!」

 「本当・・・僕達との相性最悪だよ。」

 剣治はちっと舌打ちしながら、紅い刀身の短刀―前鬼の力を宿す短刀―で鬼の覇気を帯びた鋭い斬撃を放ちつつ、青い刀身の短刀―後鬼の力を宿す妖刀―から水の幕を作り出し防御する。俺達が妖刀で攻撃する度に一兵衛は数を増やし、襲って来る。

 「おい、剣治。」

 「何?」

 俺の呼び掛けに、剣治は嫌そうに顔を顰めながら振り返る。

 「どっちがより“速く”、より多く此奴等を切り伏せられるか・・・勝負しねぇか?」

 俺がにやりと悪戯っぽく笑いながら提案すると、剣治もにっと意地悪気な笑みを浮かべる。

 「負けた方が皆の前で一発芸披露・・・なんてのはどう?」

 「ああ、別に良いぜ。負けてから“やっぱり罰ゲームの話は無しで!”とか言うなよ?」

 「ふんっ。そっちこそ、負けた時はきっちりやってもらうからな!」

 俺達はそれぞれ妖刀を構え直すと、同時に動き出した。俺は一兵衛達に向かい、白く輝く斬撃を自分が出せる最高の速度で次々に放っていく。剣治も覇気を宿した刃と水の刃を使い、目にも留まらぬ速さで一兵衛を切り裂いていく。再生スピードが追い付かない程の速度の2人の斬撃に、一兵衛は1人、また1人と数を減らしていった。俺達は一瞬も止まることなく猛スピードで一兵衛を斬り続け・・・とうとう全滅させたのだった。

 「ふぅっ。やっつけた数は同じ・・・今回は引き分けだな。」

 頭の中で2人が倒した数を数えながら、俺は額の汗をぬぐった。

 「あ~あ。壮吾の一発芸を動画にとって恥ずかしい記録を永久保存してやろうと思ったのに。」

 剣治は不満そうにムスッと頬を膨らませる。

 「あっ、そう。それは残念だったな。」

 ・・・此奴、本当に負けず嫌いだな。

 俺は素っ気無く返事すると、元来た道をちらりと見つめる。

 「俺は玄武の所に戻る。お前は矢を止めに行くんだろ?」

 降って来る矢を払い問い掛けると、剣治は「ああ。」と頷いた。

 「じゃあ、此処でお別れだな。」

 「ふんっ。さっさと行きなよ。」

 2人はくるりと背を向け合うと、それぞれの目的の為に走り始めた。



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