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葛の葉奇譚  作者: 椿
第8章:京都戦乱―後編―
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 「お頭・・・元気出して下さいっ!俺達で生徒さんの魂取り返しましょう!!」

 暗い表情を浮かべ京都駅へと向かう俺の姿を見かねて、部下の狸が話し掛ける。

 「・・・気を使わせてすまん。・・・そうだな。早く魂を手に入れて神崎を助けないとな。」

 俺が近くに居ながら、教え子を危険な目に遭わせてしまった・・・。神崎を襲った輪入道やそいつを裏で動かしていた天逆毎という奴は許せない。俺の生徒に手を出した事を死ぬ程後悔させてやる。だが・・・それよりも、生徒を護り切れなかった自分自身がもっと許せない。己の無能さに腹が立つ。

 ギリッと悔しさを噛み締めながら走り続ける俺を、狸達が心配そうに見守る。

 「お頭、着きました。此処が京都駅ですね。」

 俺達の前に現れたのは、大きく聳える京都駅と行き交う大勢の人間達。俺は周辺の景色や付近の人間達をまじまじと観察してみる。

 ・・・何だ?何か、違和感を感じる。

 注意深く見廻してみると、本当に幽かにだが所々景色が歪んで見える所がある。

 敵の幻術か・・・。

 警戒を強め身構えたその瞬間、背後から突然殺気が放たれる。俺は手にした葉っぱをナイフに変化させると、気配を感知した方にシュッと投げた。ナイフは何も無い所でパンッと振り落とされた。その直後、周辺の景色がぐにゃりと歪み、先程まで居た人々の姿は1人も居なくなった。代わりに現れたのは、狐の耳にふさふさの2本の尻尾を持つ男とその周りに集まる妖狐達だった。

 「お前・・・京都で悪さをしている妖連中の仲間か?神崎の魂は何処だ?」

 俺が怒りをぶつける様にキッと睨み付けると、男はフッと冷たい笑みを浮かべ口を開いた。

 「ふっ、随分不愛想な男だな。お前の可愛い生徒の魂なら、私の仲間が預かっているよ。」

 こっちはハズレか・・・。

 「その仲間とやらは何処に居る?」

 「私に勝ったら、教えてやろう。」

 威圧の籠った低い声にも全く動じる事は無く、男は静かに答える。俺は葉っぱを沢山取り出しナイフに変えると、男を狙って飛ばした。男は青い焔を自分の前に出現させナイフの攻撃を防いだ。

 「お頭に続けぇ!!」

 「尾裂様に助太刀するぞ!!」

 俺と尾裂にそれぞれ仕える狸軍団と狐軍団も、ぶつかり合い攻撃を開始する。狐火やら手裏剣やら手榴弾等が飛び交い、ポカポカと殴り合う音が響いている。京都駅前は狸と狐が入り乱れ攻撃し合う混乱状態になっている。俺は争い合う彼等の間を縫う様に駆け抜けて行く。そして両手に短剣を構え、尾裂目掛けて勢い良く振るう。尾裂は俺の斬撃を焔を纏った鋭い鉤爪で弾くと、俺に焔の爆撃をぶつけた。しかし目の前に居た筈の俺の姿は爆発の直後霞んで消滅した。尾裂が構え直す隙も与えず、俺は背後から首元に刃を向けたのだが・・・俺の短刀が尾裂を捉える事は出来なかった。

 「ちっ、幻術か・・・。」

 「幻術が得意なのは、お前だけではないぞ。」

 互いに少し距離を取った2人の間に、一瞬重い沈黙が流れる。沈黙を破ったのは、上空から放たれた光の矢だった。俺が短剣で矢を弾いていると、尾裂は焔の弾丸を放って追い打ちを掛けてきた。俺は自身を覆う様に水の幕を作り出し光の矢と焔の弾丸を防いだ。今度は木の根や蔓を作り出し、尾裂の体を縛り上げる。

 「こんな植物で私の動きを封じる事等出来ぬ。」

 尾裂は全身に焔を纏い植物を焼き払う。そして俺の方にちらりと視線を向けると、俺の足下から焔の渦を出現させる。急いで飛び退いた俺だったが、足と左手に少し火傷を負ってしまう。追い打ちの焔攻撃を仕掛けようとする尾裂を、俺は水の柱に飲み込ませる。

 「そろそろ幕引きにさせて貰うぞ。」

 俺は尾裂を取り込んだ水の柱に雷を圧縮した波動を放った。尾裂は水の柱から伝わる電撃を全身に受け大きなダメージを受けたのだった。

 「なっ・・・水と雷の合わせ技だと!?」

 「一度に一つの属性の技しか使えないとは、俺は一言も言っていないぞ。」

 苦悶の表情を浮かべ倒れる尾裂に対し、俺はにやりと意地悪な笑みを見せる。俺は妖力を封じる特殊な鎖を出現させると、それで尾裂の体を縛り上げた。

 「約束通り、神崎の魂の在り処を教えて貰うぞ。」

 首筋にナイフを突き付け問い詰めると、尾裂は観念した様で、そっと目を閉じふぅっと一つ深い溜め息を吐いた後ゆっくり答え始めた。

 「・・・良いだろう。あの娘の魂は二条城に居る妖が持っている。」

 「!?二条城だと!」

 二条城に向かったのは・・・確か晴支と貴人だった筈だ。晴支の奴、魂を取り戻そうと必死の余り無茶な真似してないと良いが・・・。まあ、貴人が一緒だから心配無いと思うが・・・。

 「ふふふ。魂を持っている妖はかなり血の気の多い凶悪な奴だからな・・・。二条城に向かったお前の仲間は、今頃悲惨な目に遭っているだろうな。」

 「彼奴等は強いし、根性のある奴等だ。きっと魂を取り返す事が出来るだろう。」

 俺は手にしていたナイフを槌に変化させると、それで尾裂を容赦無くぶん殴った。殴られた尾裂はそのまま気を失いばたりと地面に倒れ込む。リーダーがやられた狐達は急いで彼を担ぎそのまま姿を消したのだった。

 「お前達、二条城に急いで向かうぞ!」

 俺は仲間の狸達に大声でそう呼び掛けると、彼等を引き連れ二条城の方へと走って行った。



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